第二十七話:眠れぬ夜
「はぁ…」
ベッドに寝そべりながら溜息を吐く。
ここはリンの故郷であるエルフの里。
その里の寄合所の一室を借りて寝泊まりさせてもらっている。
(明日か…)
ワイバーンへの総攻撃は明日だ。
まさか此処までやってきて戦いに参加しないなどはあり得ない為、その戦いには当然俺たちも参加する。
問題は彩音が居ないという事だ。
やはり彩音抜きは不安があった為、一度 帰還魔法で戻って何とか彩音を呼んで来ようとしたのだが、その際とんでもない事が発覚する。
何故かエルフの里が帰還魔法の一覧に表示されないのだ。
つまり、エルフの里へは飛んで来れないという事だ。
何故飛べないのか理由は分からないが、戻って来れない以上、ここに残って俺達だけで参加するしかなかった。
(彩音が参加できないのは痛すぎるよなぁ)
エルフ側からわざわざ攻め込む。つまり勝算あっての行動なのだろう。
だが勝算があるからと言って、それは命を落とさないという保障にはならない。
そう考えると不安で中々寝付けないのだ。
(うだうだ悩んでもしょうがねぇ。俺の場合最悪帰還魔法で逃げりゃいいだけだしな。寝よ寝よ)
眠るために目を瞑っていると、コンコンと扉をノックする音が静かな部屋に響く。
(あん?誰だ?)
ベッドから起き上がり扉を開けると、そこにはフラムが。
瞬間フラムの姿にドキッとする。
彼女は普段のウェディングドレス姿ではなく、七分袖の赤いカットソーに緑のスパッツというラフな格好だ。
(かわいいな…)
普段と違うフラムの姿に思わず見とれてしまう。
「良かった。まだ起きてられたんですね」
「あ、ああ…」
「あの?どうかしました?」
「あ、いや。ドレスじゃないんだなと思って…」
「流石に寝る時は脱いでますよ~。ひょっとしてドレスのほうが良かったですか?」
そんな訳がない。
(どんだけドレス姿に自信があるんだよ、この女は)
「えっと、それで何か用事?」
「あの…リンちゃんの事なんですけど…」
「ん?リンがどうかしたのか?」
「あ…いえ、その…」
どうにもフラムの歯切れが悪い。
「あ、そうだ!駄目ですよたかしさん!女性の胸をあんなにじろじろ見ちゃ!」
(げ!ばれてた)
「大きい胸が好きなのは分かりますけど、そういうのは彩音さんだけにしておかないと」
「もう何度も言ってるけど、冗談抜きで彩音とはそんなんじゃないからな。むしろ苦手なぐらいだから」
「え?でも凄くお似合いですよ」
(ドラゴンを殴り倒す女とお似合いとか、彼女にはいったい俺がどう映っているんだろうか…)
「似合ってる似合ってないかはともかく、本気で違うからな。百歩譲ってそう思うだけなら構わないけど、周りに言うのはやめてくれる?」
「わかりました!皆には秘密なんですね!」
(全然わかってなさそうだけど、周りに吹聴しないならまあいい)
フラムだけに誤解されているだけなら、痛くもかゆくもない。
「で?りんがどうしたんだ?」
「あ…いや、その~。そうだ!耐熱魔法をかけなおしますね!このままだと夜中に切れちゃいますから!」
(いくら何でも誤魔化すのが下手すぎる)
突っ込もうかとも思ったが、無理に話を聞き出そうとするのもめんどくさいので、誤魔化されてやる事にする。
「あー夜中に切れられると確かにつらいな。頼むよ」
「はい。それじゃあ失礼します」
フラムが素早く魔法を詠唱しかけなおす。
「さ、これでOKです。それじゃあお休みなさい」
「ありがとう、それじゃあお休み」
フラムは挨拶を済ますと、そそくさと自分の部屋に戻って行ってしまった。
結局リンの話は聞けず仕舞だ。
(自分から話を振っておいて、誤魔化して帰るってどういう事だ?)
フラムの言動が少々気にかかったがもう夜も遅い。
起きたときに覚えていたら、その時また尋ねるとしよう。




