第二十四話:不意打ち最強!
(しかし困ったな…)
目の前の大きな岩を眺める。
その岩の上には、デカい図体をしたガルーダが目を瞑り静かに佇んで居る。
この場からとっとと退散したいところだが、動けばその音で気づかれる可能性が高い。
鳥類は音に敏感だ。
魔物にもそれが当てはまるかは分からないが、危険を冒してまで試す気にはなれない。
リンを見ると尻もちをついた体勢で固まっている。
どうやら彼女は、ガルーダの着地の際の羽搏きの風圧で転んでしまったようだ。
恐怖からか目に涙を溜め、小刻みに震えながら縋り付くような目でこちらを見てくる。
気持ちはわかる。巨大な魔物が目の前に鎮座しているのだ、怖くないわけがない。
正直、ドラゴンとの戦いを経験していなければ自分も確実に涙目になって震えていたはずだ。
(以前なら絶対パニクってたよなぁ…)
自分の成長を実感しつつも、考えを巡らす。
彩音さえ居てくれればこの程度ピンチですらないのだが、この場に居ない人間の事を考えても仕方がない。
(さて如何したものか…)
この状態で一晩過ごして、ガルーダが飛び立つのを待つ?
(あり得ないな。仮に朝まで待ったとして同じ所を飛ばれたら元の木阿弥だ)
無限ループって怖くね?そんな言葉が頭をよぎる。
そもそも範囲透明化が朝まで持つ保証はない。
切れれば詠唱を必要とする以上、ガルーダに気付かれる可能性は高いだろう。
(倒すしかないか…)
そういう意味では今は絶好のチャンスともいえる。
空を飛び回られる前に先制パンチで畳みかければ、一気に倒せるかもしれない。
仮に倒しきれなくても、ある程度のダメージを与えられれば逃げていく可能性も高いはずだ。
(まさか仲間呼んだりはしないよな?)
嫌な考えが一瞬頭をよぎるが、他に選択肢はないだろう。
そうとなればこいつの出番だ。
音をたてない様に、ゆっくりとズボンから柔らかいゴムボールの様な物を取り出す。
役に立つかと思い王都で買っておいたマジックアイテムだ。
上に投げると落下直前に1分間ほど空中で停止しする。
ただそれだけの効果の、子供のおもちゃのようなマジックアイテムだ。
というか子供のおもちゃだ。
普通に考えれば戦闘の役には立たないのだが、俺にとっては必殺のコンボを叩き込む便利アイテムとなる。
ボールを握り締めながらフラムさんの方を見ると、彼女は俺の動きに気づいたようで首を縦に振る。
どうやらこちらの意図に気づいてくれたようだ。
それほど付き合いが長くもない俺の意図に一瞬で気づく当たり、流石歴戦の冒険者だと感心させられる。
俺は音が出来るだけ立たないように、ゆっくりとボールをガルーダの上に放り投げる。
放り投げたボールは、ガルーダの頭上辺りで上手く停止してくれた。
(よし!気付いてない)
ボールに右手を向けゴーレムを召喚。
ボールを中心に魔法陣が発生し、呼び出されたゴーレムが重力に従い落下する。
「ゴーレム落とし!」
そう叫びたかったが、声に反応して避けられでもしたら堪ったものではないので自重した。
落下したゴーレムが鈍い音と共に激突し、ガルーダが岩の上で突っ伏す。
「取り押さえろ!」
ゴーレムに命じつつ。
更にゴーレムを召喚する。
ガルーダは自分に何が起きたのか理解できていないのか、かぶりを振るだけで大きくもがこうとはしていない。
2匹目が更にガルーダに激突し覆いかぶさる。
やっと自分の身に何が起きたのか理解したガルーダが逃れようと暴れるが、とんでもない重量を誇るゴーレム2体に上から押さえつけられてはまともに身動きが取れず、ただ雄叫びを上げるだけだ。
駄目押しで3匹目を召喚し動きを完全に封じる。
(よし!後はフラムの魔法を待つだけだ)
フラムを見ると既に詠唱を始めており、全身を半円状に光り輝く魔法陣が包み込んでいる。
程なくして詠唱が完了し魔法が発動する。
「拘束する蔦!」
人間の腕ほどもある蔦が幾重にもガルーダに襲い掛かり、ガルーダを完全に拘束する。
ドラゴンの動きすらも一時的に封じた魔法だ、ガルーダ程度では破ることは不可能。
俺は蔦がガルーダを完全に拘束する直前にゴーレムたちを戻し、ミノタウロスを召喚する。
ミノタウロス
身の丈3メートルにもなる、牛頭人身のモンスターだ。
そのパワーはすさまじく、両手に持つ人の体ほどもあるバトルアクスの一撃は岩をも粉砕する。
そのミノタウロスが3体。
身動きの取れないガルーダの上に立ち、両手のバトルアクスでガルーダを滅多打ちにする。
仕方ない事とは言え、身動きの取れない相手を一方的に虐殺するのは気分が良くない。
相手に襲われたのならいざ知らず、こちらから寝込みを襲っているからなおさらだ。
ガールダが断末魔の声を上げ消滅し、大きめな魔石へと変化する。
「やりましたね!」
フラムさんが満面の笑顔で嬉しそうに声を上げる。
その姿を眺めて思う。
魔物が残虐に殺される様を見て喜ぶウェディングドレス姿の女性…
傍から見れば狂気すら感じる光景なのではなかろうか。
等と詰まらない事を考えてしまう。
「凄いです!お二人とも本当に凄いです!あのガルーダをこんなにあっさり倒しちゃうなんて!!」
リンが感動したかのように大声で叫ぶ。
「いや、運が良かっただけだよ」
実際空を飛ばれていたら相当きつかったはず。
「何言ってるんですか!運が良かったからって、普通たった2人でガルーダなんて倒せませんよ!本当に凄いです!!」
りんの場合少々オーバーな所があるが、やはり褒められて悪い気はしない。
(相手が美少女ならなおさらだな)




