第二十三話:寝床
範囲透明化
ドルイドの使う範囲透明化は光を屈折させ、一定範囲内を外部から正確に視認できなくさせる魔法だ。
フラムさんが行使し、俺たちは今その範囲内でガルーダをやり過ごしている最中だ。
あれから既に何時間も経過しており、日も傾きだしている。
にもかかわらず、ガルーダは未だ上空を旋回しておりこの場から動くことが出来ない。
(それもあと少しの辛抱だ)
夜になればガルーダも寝床に戻るだろう。
だいぶ時間をロスしてしまったが、何事も安全第一だ。
横を見るとフラムとリンがあやとりをしている。
ウェディングドレスとつなぎを着た美少女達が、両手を使って糸で遊ぶ姿はなんともシュールな事この上ない。
少し油断しすぎな気もするが、誤って範囲透明化の外に出なければ見つかる事も無く、ここがガルーダのテリトリーである以上、他の魔物と遭遇する危険もまず無い為二人は寛ぎきっている。
休める時には休むべきだ。
そうと分かっていてもガルーダが上空に居ると考えると、とても寛ぐ気にはなれない。
これが現代社会のモヤシっ子と厳しい自然の中で生きてきた者との差といった所か。
(しかしあやとりってこの世界でもあるんだな、こういう子供用の遊戯って何処の世界でも共通なんだろうか?)
そんな事を考えながら2人をじっと見ていると、こちらの視線に気づいたフラムさんが声をかけてくる。
「たかしさんも一緒にやりますか?」
「いや、俺は良いよ。しっかしこの世界にもあやとりがあるんだな」
「どういう事です?」
フラムが不思議そうに小首を傾げる。
こういった仕草を見ると本当に可愛く見える。
(フラムほんと惜しいよなぁ)
これで服装さえ普通なら相当もるはずだ。
(まあ一応事情があってウェディングドレスを常用してる訳だし、そもそも本人が周りの目を気にしてないからなぁ)
つくづく惜しい限りだ。
「いや、俺の故郷にも同じ遊びがあるんだよ」
「そうなんですか?私たちのあやとりは昔エルフの森を救ってくださった勇者様が伝えて下さったものなんですよ」
「え?」
「私の着てるこのつなぎも偉大な勇者様をあやかっての者なんです!」
(俺と同じ異世界の人間か…)
遊び方や見た目が似ているだけならともかく、名称まで同じとなればほぼ間違いないだろう。
(俺達より先に来ていた人間がいるってことか…神様も俺たちが最初だなんて言ってなかったし)
「その勇者って今はどこに居るんだ?」
「勇者様が森を救われた時私は赤ん坊だったので、森を出て行かれた後の事は私にはちょっと…」
今何処で何をやっているのか。
少々気になるところだが、分からないのならしょうがない。
ふと視線を上に戻すと、心なしかガルーダがこちらに向かって来ているように見える。
いや、間違いなくこちらに向かって来ている。
「うわ、こっちに向かって来てる!」
「え!?見つかったんですか!?」
「範囲透明化はちゃんと維持していますからそれはないはずです!」
無いはずと言われても、明らかにこちらへ向かって来ている。
(見つかっていないとしたら理由はなんだ?何でこっちに来る!?)
辺りはもう薄暗い。鳥目のガルーダは寝床に戻ってもおかしくない状況だ。
にもかかわらずこちらへと真っすぐに突っ込んでくる。
(寝床?そうか寝床に戻ろうとしてるのか!)
「ガルーダはどんなところで寝るんだ!?」
「周りが見渡せる大きな岩の上で……あっ!」
どうやらフラムさんも気づいたようだ。
そしてすぐ横の岩を見やる。
身を隠すのに使っていた岩、ここがガルーダの寝床だ!




