第二十二話:怪鳥
ガルーダ
翼を広げた翼開長が10メートルはあるであろう、鷲によく似た大型の魔物である。
「どうしてガルーダがこんな所に!?」
咄嗟にサーベルタイガーを戻し岩陰に身を隠す。
フラムが驚いたように声を上げながらもそれに続き、リンもそれに倣う。
岩陰からそっと空を覗き込むがガルーダに大きな動きはなく、どうやらこちらには気づいてはいないようだ。
先に発見できたのは幸運だ。あんなのに先制されたら堪ったもんじゃない。
「どうやらこっちには気づいてないみたいだな」
「よかった。でも、ガルーダの生息地はもっと南の方のはずなんですが」
「ドラゴンを倒した影響がもう出てるってことか」
「そうみたいですね」
このカルディメ山脈最強の魔物であったドラゴンは広大なテリトリーを誇っていた。
そのドラゴンが居なくなったことで、ガルーダが開いたテリトリーに侵入してきたのだろう。
(ドラゴンを倒してからまだ3週間しか経ってないってのに、当てが外れたな)
ドラゴンのテリトリーに好き好んで入ってくる命知らずな魔物はいない。
それを利用し魔物を避ける為、ドラゴンのテリトリーであった場所を通ってきたのだが、考えが甘かったようだ。
まさかこんな所で大物に出くわすとは。
(魔物の動向の変化がこんなにも早いなんて、誤算もいい所だ。)
「ドラゴンを倒した!?え?お二人がドラゴンを倒したのですか!?」
リンが驚いたように声を上げる。
「一応私達のパーティーで倒したわけですけど」
「す、す、す、凄いです!ドラゴンを倒すなんて凄すぎます!!!!」
凄い興奮のしようだ。まあ、気持ちはわからなくもない。
分からなくもないが、幾らなんでも興奮しすぎ。
「まあ俺たちが倒したといっても、ほとんど彩音一人で倒したようなもんだけどな」
「彩音ってあの黒髪の綺麗な人ですよね!あの人が一人で倒したっていうんですか!?」
かっこよく俺の敵じゃなかったと言いたかったが、じゃあガルーダなんて楽勝ですね!と返されたら困るので辞めておいた。
そうでなくともフラムさんに直ぐばらされそうだし。
「凄い!!!彩音さん凄すぎます!!」
(テンション高すぎじゃね?)
リンのテンションが高すぎて少々うっとおしく感じてきた。
そもそも魔物から隠れているのに、大声で叫びまくるのは幾らなんでも緊張感がなさ過ぎる。
「それでガルーダはどうすれば良いと思います?」
「俺のガーゴイルで何とかなればいいんだが」
「私の魔法と合わせれば十分勝算はあるとは思いますが、でも…」
問題は勝て無かった場合か…
平地ならともかく、この起伏が激しい山道ではサーベルタイガーの俊足をもってしてもガルーダを撒くのは難しいだろう。
つまり負ければ 帰還魔法で帰還することになる。
そうなればこの3日間の行程がパァだ。
そもそも逃げ帰っても、カルディメ山脈に戻ってきて再び遭遇する可能性は高い。
「やり過ごすのが一番か」
「そうですね。そう言えばリンちゃんが来るときはガルーダは居なかったの?」
「はい、私の時は魔物とは遭遇しませんでした」
リンは一人で山脈を越えてきている。
(一歩間違えれば、今頃空を悠々と旋回しているガルーダの腹の中だった可能性もありえたわけか)
魔物と遭遇することなく一人で山脈を越えた事といい、偶然自分と出会った事といい、リンの強運には驚くばかりだ。




