第二十一話:いざ!エルフの森へ!
「サーベルタイガーって凄いですね!」
リンが大きな声で叫ぶ。
「ほんと、足が速くて例え魔物と出くわしても簡単に振り切れちゃいますね!」
リンの叫びに、フラムが大きな声で答える。
俺たち3人はカルディメ山脈を横断し、エルフの森へと向かっている最中だ。
エルフの森はルグラント王国の西に位置し、カルディメ山脈を超えた向こう側に広がっている。
エルフの森へは俺の召喚したサーベルタイガー2匹で向かっており、このまま順調にいけば明日には到着する事だろう。
サーベルタイガー
機動力と戦闘力に優れたモンスターだ。
さらには騎乗に適しており、こうやって乗り物として活用する事もできる。
(ドラゴンを討伐したおかげでレベルが一気に40まで上がったからな、まさに彩音様様だ)
レベルアップで召喚と便利な魔法をいくつか習得しており、サーベルタイガー以外ではミノタウロス・ガーゴイルと言った強力な召喚を習得している。
(ここに来るのも2度目だな)
ほんの3週間前の事なのに凄く昔のように感じ、初めてカルディメ山脈に来た時のことを思い出す。
(あの時は山の麓まで彩音が皆の乗る荷馬車を引っ張ってきたんだよなぁ)
馬ではなく彩音が荷馬車を引いてきた。
ドラゴン討伐後は帰還魔法で帰還する可能性があったため、連れてきた馬を繋いで麓に放置した場合、確実に命を落とすことになる。
それを避ける為、馬をコールスの宿屋に預け、彩音が馬代わりを務めたのだ。
(あれは酷かったなぁ。彩音が豪快に引くもんだから何度も吐いたっけ)
車酔いや船酔い等乗り物酔いは数あれど、まさか彩音酔いを体験する事になろうとは夢にも思わなかったものだ。
「ここらでいったん休憩しましょう。サーベルタイガーちゃん達も疲れてるみたいですから」
背中につかまる俺に向かってフラムが提案してくる。
俺の乗っているサーベルタイガーの手綱はフラムが握っており、俺はその背中にしがみつく形で乗っている。
男のお前が後ろかよ。
と、思われるかもしれないが、身体能力に関しては全ての面においてフラムが勝る為、こういう形になったのだ。
(というか手綱の扱いとかわかんないし。俺じゃ無理)
因みにリンは一人でサーベルタイガーを乗りこなしている。
男としての面子は丸潰れだが、出来ないものは出来ないんだからしょうがない。
「そうだな。いったん休憩しよう」
俺が返事をすると、フラムが器用にジェスチャーでリンに休憩の指示をだす。
適当な場所でサーベルタイガーを停め、それぞれ思い思いに休憩をとる。
「この山脈を越えるのは3度目ですけど、いつ来てもいい景色ですねぇ」
フラムが気持ちよさそうに伸びをする。
「やっぱりたかしさんって凄いですね。あんな凄いモンスターを召喚することが出来るんですから」
「そんな事ないさ」
本当にそんな事はない。
称賛してくれるのは有難いが、本当に凄い人物なら女性の背に捕まって騎乗したりはしないだろう。
自身で呼び出したモンスターに自分ではまともに乗れないなど、滑稽以外の何者でもない。
その為、褒められると逆に落ち込む
(まあ、落ち込んでててもしょうがないか)
気分を変えるべく大地に横たわり空を眺める。
本当は休憩など必要ないのだが…
サーベルタイガーが疲れたなら、一旦戻して再召喚すればいいだけの話だ。
召喚されてくるものは元気いっぱいなのだから。
休憩をとったのは俺自身が限界だった為だ。
乗り物酔いではない。
一度彩音酔いを経験した俺にとって、これぐらいの揺れは屁でもなかった。
問題なのは匂いだ。
フラムは体からすごく良い匂いがする。
そしてサーベルタイガーからは強い獣臭が…
混ぜるな危険…
この二つの臭いが混ざると、とても不快な臭いへと変わってしまうのだ。
平地であるならば口で呼吸すれば良いだけだが、山道で激しく揺れるサーベルタイガーの上で口を開けるのは危険極まりない。
その為この山脈横断において俺は強い我慢を強いられていた。
「ふーーーーーー」
深い深呼吸をし、空を眺める。
ふと、空に鳥がいることに気づく。
(鳥か…優美に飛んでるなぁ……って大きくね!?)
鳥にしては大きい、いや大きすぎる。
飛び起きて上空を凝視する。
異変に気付いたのか二人もたかしに続き空を見る。
「あれは!まさかガルーダ!」




