第十九話:運命?
(なんだ。カンパじゃないのか)
鋭い嗅覚で俺の財布の中の大金を嗅ぎつけ、声をかけてきたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。
リンと名乗る少女が言うには、増えすぎたワイバーンのせいでエルフの里の多くが大きな被害を被っているため、救援を求めてルグラント王国へとやってきた、と。
必死で故郷のために救援を求めてきた少女を、詐欺と勘違いしたことが恥ずかしい。
(でもいきなり美少女が声をかけてきて、森を救ってくださいとか言ったら普通疑うよなぁ)
聞かれてもいないのに、自分を納得させるために言い訳を心の中で考える。
心の逃げ道って大事。
「事情は分かったけど、俺に助けを求められても……」
「里の被害は本当に大きくて。私たちエルフだけでは手の打ちようがないんです!魔術師様!どうか力をお貸しください!お願いします!」
(魔術師?なんでそんなもんと勘違いしてるんだ?)
魔法が使えないわけではないが、それは召喚士としての魔法であって、魔術師のそれとは別物だ。
「いや、俺魔術師じゃないんだが」
「え?でも先程転移魔法で転移されてきましたよね?私転移魔法を使える魔術師様を初めてみました!」
どうやら召喚士である俺の帰還魔法と、魔術師の転移魔法を勘違いしてしまっているようだ。スキル名自体は同じだが、効果は違う。
魔術師のそれは自由に色んな所に移動できるらしいが、俺のは加護を受けている街や村にしか移動できない。
魔術師の行使するものより優れている点を挙げるとすれば、飛べる場所であれば距離がほぼ無制限なところぐらいだろう。
「俺は召喚士だから魔術師の使う転移魔法とは別物だよ。はっきりいって俺はたいして強くないから、悪いけど力にはなれそうにない」
「そうなんですか…」
少女がしょんぼりと肩を落とす。
(落ち込む姿もかわいいなぁ…)
我ながら不謹慎な話ではあるが、可能であればお近づきになりたいとは思う。
これほどの美少女とお近づきになるチャンスなど早々ないだろう。
俺に任せろ!と言えればどれほど幸せか。
だがいかんせん力が足りない。
ワイバーンはドラゴンの近親種だ。
その強さはドラゴンに比べれば鼻くその様な物だが、それでも俺にとっては強敵に違いない。
そんなワイバーンの大群に立ち向かうなど自殺も同然であるため、諦めるしかなかった。
彩音たちに相談する手もあるが、ティーエさんが嫌がるだろう。
彼女は2週間後に教会から司教への拝命式があるらしく、しばらくは王都に留まらねばならない身だ。
当然拝命式には参加するよう頼まれている。
司教への拝命の決め手となったドラゴン討伐。
その功労者が何名も欠席する事になれば、彼女の顔に泥を塗る事になってしまう。
共に戦った戦友に対しそんな不義理な真似はしたくないし、何よりティーエさんを敵に回すのは恐ろしすぎる。
彼女には可哀そうだが、国か教会辺りに正式に依頼して貰うしかないだろう。
「この村にはフラムさんを頼ってきたんです。でも、もうこの村から出て行った後みたいで、私もうどうしたらいいか…」
「え?君フラムさんの知り合いなのか?」
「フラムさんを御存じなんですか!?」
なんたる奇縁。
たまたま宿をとるためにきた村でフラムさんを頼る美少女と出くわすとは、なんだか運命を感じてドキドキしてきた。
(まあでもどちらかというと、神様がまったりやってないでさっさと魔物退治に行けと、無理やり引き合わせた可能性のほうが高いきもするが)




