第十六話:お買い物
「あっ、これなんかどうですか?」
フラムが大きな声でこちらに声をかけてくる。
(一々声をかけてくんなよ)
折角離れて他人のふりをしているのに台無しだ。
「この箱、開けると音楽が流れるんです。旅の途中これがあれば退屈しませんよ」
(あんたと旅をする気はさらさらねーよ)
口に出して言えればどれほど素晴らしいか。
「私は基本自分の足で走るから不要だな」
彩音は今後も荷馬車に乗る気はないようだ。
体を動かさないと死んでしまう病気にでもかかってるんだろうか。
(荷馬車の横を人が並走して走る姿も大概シュールだから、それもやめてほしい所なんだがな)
勿論これも口にはしない。
最近気づいたのだが、どうやら俺はヘタレだったようだ。
思っていても口に出せないことが多すぎる。
まあ口の悪さが災いして、ぼっち→引き篭もりへと華麗に転身した身としては慎重にならざる得ない。
「200曲も入ってるらしいですよ。どうします?2人で共同で買っちゃいます?」
「何で共同?欲しいなら自分で買えば………げっ!高っけぇ!」
何気なく値札を見たらとんでもない額が記入されており、思わず変な声が出る。
「いらんいらんいらんいらん!こんな物買う位なら鼻歌でも延々歌ってるわ!高すぎる!」
余暇を楽しむアイテムにしては値段が高すぎる。
下手をしたら家を買えてしまう金額だ。
こんな物買うとしたら、金と暇を持て余した貴族か成金ぐらいのもの。
「確かに少々お値段は張りますけど、ドラゴン討伐の報酬とドロップしたリングの代金さえ貰えれば楽勝で買えちゃいますよ!」
(だったら報酬貰ってから買いに来いよ)
俺は全く気付いていなかったのだが、ドラゴンを倒した際どうやらリングがドロップしていたらしく、脱出前にティーエさんが素早く回収してたらしい。
あの状況下で、小さなアイテムを見落とすことなく回収してくるティーエさんの抜け目なさには驚かされる。
ドロップアイテムはドラゴンリングと呼ばれるもので、装着者の能力を大幅に引き上げてくれるSS級――国宝レベル――のアイテムだ。
ティーエさんが買い取る事になったのだが、額が額だけに流石に手持ちでは賄えない為、王都にあるアルバート家の別邸で用意される。
ドラゴンの討伐報酬もその際一緒に受け取る予定だ。
ドラゴンの討伐報酬とドロップの報酬を合わせれば、贅沢さえしなければ一生暮らせるだけの額になる。
もはや生きていく上で魔物を倒す必要も無く、スローライフを送りたいところだが、自分がこの世界に呼び出された理由を考えるとそれは難しい。
(絶対神様なんか言ってくるよな)
神様からすれば、折角呼び出した異世界の人間がスローライフを始めたら目も当てられない。
俺が神様なら確実に怒る。
神様を敵に回す愚を犯す気はない以上、今まで通りの生活を続けるしかないだろう。
「ね!ね!今手持ちが足りないんです!どうか後生ですから」
「わかったよ。ただし貸すだけだかんな」
「やったぁ!有り難うございます!」
我ながら本当に押しに弱い。
この性格をどうにかしないといつか偉い目にあいそうだ。




