第十五話:謎の魔術師
コンコン
ドアをノックする。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると、執務机の前に立つ筋骨隆々の男が目に入る。
精悍な顔つきをしており、身長は2メートルを超える岩のような大男。
彼こそが王国騎士団の長にして、ルグラント王国最強の騎士バルクス・ファーガンである。
「団長、報告が
「聞いたぞアニエス!君の婚約者があのカルディメ山脈に住まうドラゴンを退治したらしいな!」
言い終わる前に話が大声で遮られる。
「たった15という若さでドラゴン討伐を成功させるとは、大したものだ」
団長の様子を見て違和感を感じる。
まさか団長は本気で信じているのだろうか?
たった5人でドラゴンを倒したなどという荒唐無稽な話を。
団長は基本お人よしではあるが、決して馬鹿ではない。
そもそも馬鹿に団長など務まるはずもない。
単にからかわれているのか、それとも私を疑っているのだろうか?
確かにティータ・アルバートとは婚約関係ではあるが、所詮家同士が勝手に決めた相手だ。
結婚すらしていない現状で、騎士団長がアルバート家に何か言ったとして、それを告げ口する気などさらさら無いのだが…
信頼されていない。そう思うと少し悲しくなる。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、団長が言葉を続ける。
「ああ、言っておくが、別に君の前だからアルバート家の人間を褒めている訳ではないぞ」
「では、団長は本気で5人だけで討伐したと?」
「普通ならば不可能だろうな」
普通も何も、どう考えても不可能だ。
「アニエス、君は彩音・彩堂と会ったことはあるか?」
「いえ、ありません。確かティーエさんと組んでいる女性ですよね。異世界人と噂の。団長は面識が?」
「面識と言うほどではないが、以前見かけたことがある。一目見てわかったよ。私よりも強いと。」
「な!御冗談ですよね。」
「実際手合わせしたわけではないが、間違いなく私よりも強いだろうな」
団長はいい加減なことを言う人間ではない。
その団長がここまではっきりと言い切るのだ。
ならば間違いのない事実なのだろう。
「ではその彩音・彩堂がドラゴンを倒して見せたと?」
「流石に一人では無理だろうが、優秀な仲間さえいれば可能だと私は踏んでいる。聞けばメンバーの中に転移魔法を使える者もいたそうだ」
「転移魔法を!?」
転移魔法は魔法の中でも最上位に位置する魔法だ。
騎士団の中にも魔術師は数多くいるが、転移魔法を使えるレベルの者はいない。
騎士団どころか、世界全体を見ても数えるほどしかいないだろう。
「ドラゴンの住処だった洞窟は、戦闘で崩落したと聞く。魔術師が相当無茶をしたんだろうな」
洞窟すらも崩落させる魔術師か…
ティータは騎士としてトップクラスの実力を持っている。
その姉ティーエも、教会内で稀代の天才と言われている程の力の持ち主だ。
そこに団長以上の強さを持つ彩音・彩堂に、転移魔法すらも使いこなす魔術師が加わったならば、確かに可能なのかもしれない。
荒唐無稽な夢物語が現実になる。
そう考えると俄然興味がわいてきた。
彩音・彩堂と謎の魔術師に。




