第六十九話 vs邪悪③
「「「しっかり頼むよ」」」
大精霊達の体が光り輝き、溶け合って俺の右腕へと収束されていく。
やがて光は刃となり、小手と一体型のサーベルへと生まれ変わる。
「こんなもので本当にあれを貫けるのか?」
ティータが疑問を抱くのも尤もだろう。
俺の手に取り付けられた刃はとても薄く、向こう側が透けて見える程だ。
少しでも硬い物に触れれば砕けてしまう。
見た目の儚さから、そんな印象を受けても仕方のない事。
「大丈夫だ」
俺はその疑問に力強く答える。
見た目は確かに脆そうだが、流石大精霊達の命そのものと言うべき武器だ。
儚い見た目とは裏腹に、腕を通してその力強い波動が流れ込んでくる。
だから武器については問題ない。
問題は――
「問題は……俺達に出来るかどうか……だ」
大精霊達の命によって生まれたこの刃には、その魂が込められていた。
これを邪悪に突き刺す事で彼らの魂が奴の体内に入り込み、取り込まれている彩音の意識を覚醒させる事になっている。
弱体化したとはいえ邪悪の力は強大だ。
大精霊達の力を借りても正面から戦って勝つのはまず不可能に近い。
だから彩音を叩き起こし、内と外から同時に攻撃を仕掛ける。
それが俺達にとっての唯一の勝機。
その為にこのサーベルを邪悪の胴体へと突き刺さなければならないのだが。
果たして今の俺達の力で、あの化け物に近づきそれが出来るかどうか……
「迷っている暇はねぇ。来たぜ」
ガートゥの言葉に全員の視線が西の空へと集中する。
そこには大気を歪ませるかの様な、黒い靄を纏った影が空中へと浮かんでいた。
邪悪だ。
二発目のグングニルを防がれる事が想定外だったのか、奴は直ぐに追ってはこなかった。お陰でかなり時間を稼ぐ事が出来たのだが、もう追いつかれてしまった様だ。出来ればもう少し時間が欲しかったが、まあ仕方ない。
心の準備は万端とは言い難いが、奴に勝つための方策は既に幾つか用意してある。
その時間を……勝つための道筋を生み出してくれたヘル達には感謝だ。
彼らの犠牲を無駄にしない為にも、例え無茶な作戦であっても成功させなければ……
邪悪はゆっくりと降下し、音もなく地面へと着地。
そしてそれと同時に奴の拳に青い光が灯る。
どうやら此方に近づいて来る気は無く、グングニルで片を付ける積もりの様だ。
「最悪だな……」
突っ込んできてくれればいい物を。
邪悪は一番してほしくない選択肢を当たり前の様に選んで行動してくる。
奴との距離は役100メートル。
発射までに間合いを詰め切るのは難しい。
「プランAです!」
ティーエさんの言葉に反応し、嫌そうな顔でティータが俺の傍に立つ。
「今回だけだ」
「それはこっちのセリフだっての」
俺はティータに触れ。
そして融合する――アルバート兄妹と。
ティータ融合した体は盾へと変貌し、俺はその持ち手部分を強く握る。
≪姉上と融合するからと言って、変な気を起こすなよ≫
誰が起こすか!
ティーエさんは超がつく程美人だが、腹黒い人間は好みではない。
それをきっちり説明してやりたい所だが、それはそれで口にすると五月蠅く反論してきそうなので止めておく。
後、それをやるとティーエさんに睨まれそうだし……
≪喧嘩は後です!今は少しでも間合いを――≫
「分かってる!行くぞ!!」
俺は叫びと共に、手にしたティータを前方に掲げ邪悪へと突進する。
そしてそんな俺の後ろに仲間達が続いた。
プランA。
それはグングニルをティータで防ぎ。間合いを詰める作戦だ。
普通にやったのでは防ぎきるのは当然不可能。
砕け散るのは目に見えていた。
だからティーエさんとも融合し、ティータへのダメージを回復させ続けて無理やり耐え凌ぐ。
正直一か八か感が強く、用意した物の中で最も成功率が低い作戦と言っていい。
何せティータが耐え切れたとしても、俺が衝撃に踏ん張り切れず吹き飛ばされただけで詰んでしまう作戦だ。
だが奴が距離をとってグングニルを使うという、此方にとって最悪の選択肢を取ってきた以上、この方法意外とる道は無い。
≪気合いを入れろ!姉上を危険に晒す無様はこの俺が許さんぞ!≫
此方への雑言と同時に手にした盾が青く輝く。
勇敢な心。
発動させる事で短時間だけ大幅に能力を上げるスキルだ。
ていうか罵りでも発動するんだ。
このスキル……
≪来るぞ!!≫
叫びと同時に邪悪の手に宿った青い光が膨らみ、俺の視界を覆い尽くす。
直後、凄まじい衝撃と痛みが全身に押し寄せる。
痛みの感覚は9割方以上ティータに行っている。
にも拘らずとんでもない痛みだ。
もし俺がティータだったら間違いなく一瞬で気絶していただろう。
だがあいつは――
≪やらせん!姉上には指一本触れさせんぞ!!≫
ティータが吠える。
彼は怯まない。
ムカつく奴ではあるが、その意思と精神力は本物だ。
≪全てを救い癒せ!生命循環!≫
ティーエさんの魔法が発動し、ティータのダメージを見る間に回復させる。
この魔法はMPの続く限り対象を持続的に回復させ続ける魔法だ。
その回復速度は凄まじく、即死さえしなければ一瞬でダメージを回復しきってしまう究極の回復魔法。但しそのMP消費は馬鹿でかいため、長くは持たない。
初撃には耐えれた――いや、ティータが耐えてくれた。
耐え切れるかどうかは、後はティーエさんのMP次第。
今の俺に出来る事は吹き飛ばされない様、踏ん張る事のみ。
「ぐうぅぅぅ!!」
のみなのだ……なのだが……きつい。
衝撃に押され、足が地面に深々と沈み込む。
体が仰け反る。
腕が悲鳴を上げて今にも弾き飛ばされそうだ。
歯を食い縛って耐えようと頑張ってはいるが、限界は近い。
2人が頑張っているというのに、なんて不甲斐ないんだ俺は……
根性の足りない地盤に嫌気がさしてくる。
「耐えろたかし!」
剣がつっかえ棒の様にティータを支える。
「勝とうぜ!主!」
ガートゥが、フラムやパーが俺の背中を押し、限界に震える腕を支えるかのように手を添えてくれる。
「愛ですよ!愛!」
仲間ってのは良い物だ。
相変わらずフラムだけは何を言っているのか意味不明だが。
傍にいて支えてくれる。
それだけで体から力が漲って来る。
「まけるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
雄叫と共に目を見開き。
奥歯が砕ける程に噛みしめ、足を一歩前に出す。
一歩また一歩と。
仲間と一緒なら、俺は前に進める!
≪ふん、やれば出来るじゃないか。負けたら容赦せんぞ……≫
≪世界をお願いしますね、たかしさん≫
次の瞬間空気が変わった。
世界を覆っていた眩いばかりの閃光と轟音が消え去る。
俺達は耐えきったのだ。
融合していた2人が剥がれ落ち、地面へと倒れ込む。
2人とも限界だったのだろう、ピクリとも動かない。
「ああ、まかせてくれ」
最大の危機を2人が退けてくれた。
2人の努力に報いる為にも必ず成功させて見せる。
「たかしさん!」
「よっしゃ行くぞ主!」
フラム。
ガートゥ。
俺は二人と融合する。
「頼むぜ!二人とも!」
≪おう!奴に一発ぶちかましてやるぜ!!≫
≪任せてください!拘束する蔦!!≫
邪悪の足元から無数の蔦が這い出し、それらが飛び掛かるかのように襲い掛かる。
見る間に蔦は邪悪を雁字搦めに絡めとり、その動きを制限する。
「行くぞレイン!」
俺は駆けだすと同時にレインを左手で引っ掴む。
左手にレイン。
右手に精霊の刃(勝手に命名)。
正に気分は厨二。
ただ単に両手に剣を装備しただけなのに、全く負ける気がしない。
突っ込んでくる俺に邪悪が左拳を振り上げる。
蔦が絡んでいるとはいえ、相手は超ド級の化け物だ。
完全に動きを封じる事は出来ない。
ましてやそれを維持するなど夢のまた夢。
単独では――
「さて、僕もちゃんと仕事をしないとね」
フラムと融合している方の背に、温かな手が触れた。
そしてそこから魔力が急速に流れ込んでくる。
「全部終わった後、お前だけ何もし無かったろって言われて仲間外れにされたら敵わないからね」
振り向くとパーと目が合う。
彼女は口元を歪ませ、化け物と戦っているというのに飄々とした余裕の表情を見せる。相変わらず物事に動じない、癖の強い可愛げのない女だ。
だが今はそれが頼もしい。
流れ込んできた魔力を注ぎ込み、フラムが魔法を強化する。
蔦が太さを増し、更なる蔦が邪悪に纏わり付いて行く。
邪悪の動き目に見えて鈍る。
だがそれでも完全に動きを封じるまでには至らない。
だが十分だ。
俺は振り下ろされた拳を掻い潜り、奴の胸元へと飛び掛かる。
「たかし!左だ!!」
「分かってる!!」
レインの声に答えると同時に、左手の剣を力強く振るう。
刃は俺を掴もうとしていた邪悪の親指に深々と突き刺さる。
俺は刺さったレインの柄の部分に素早く足をかけ、そこを足場に奴の胸部へと飛び込んだ。
そして突き刺さる。
奴の左胸に深々と精霊の刃が――
「作戦成功だぜ!」
刃が光へと変わり、邪悪の中に吸い込まれていく。
後は脳筋眠り姫と一緒にこの化け物をぼこぼこにするだけだ。




