第六十八話 vs邪悪②
……ませ……
目を……せ……
声が聞こえる。
野太い声だ。
……覚ませ……
早く目を……せ……
声は段々と大きくなっていく。
折角気持ちよく寝ているのに、五月蠅い事この上なしだ。
≪いつまで寝ている!さっさと目を覚ませ!!≫
真っ黒だった視界がいきなり広がり、俺の目に巨人の姿が写り込む。
その光景に、俺は自分の置かれた状況を思い出す。
霊竜の自爆の影響で俺は気絶してしまっていた様だ。
「大丈夫ですか!?たかしさん」
仲間達が駆け寄って来る。
自爆した方の体に。
ダメージは霊竜が全て持って行ってくれたため、この体は無傷で残っていた。
「ああ、俺は大丈夫だ。だが霊竜は……」
彼女は今回俺が召喚したわけではない。
召喚無しで融合していた以上、彼女はもう……
せめて遺体が残っていればどうにかなったかもしれないが、粉々に消滅してしまったのでは、流石のティーエさんでも復活は無理だろう。
≪落ち込んでいる暇など無いぞ!≫
邪竜の言葉に視線を上げる。
邪悪の拳が再び青い光りを放ちだす。
「連発とか、ふざけんなよ」
「こりゃあ不味いねぇ……」
全員の顔色が変わる。
先程の一撃は霊竜の犠牲があって何とか防ぐ事が出来たが、次の一撃を防ぐ力は俺達には無い。
「お前達は東へと迎え」
もう一つの体――邪竜と融合している体が俺の意思とは関係なしに口を開く。
そして俺の首を掴んで力いっぱい俺を投げ飛ばした。
どうやら体のコントロールを奪われてしまった様だ。
投げ飛ばされた俺の体は遥か東へと空を滑っていく。
「何を!?」
≪大精霊様方が此方へ向かって来ている様だ。主は彼らと合流しろ。あの方々ならきっと何か手を打ってくださる筈だ。
「お前はどうするんだ!?」
≪奴の次の一撃を防ぐ。俺が命に代えてもな≫
「そんな……」
みるみる小さくなっていく邪竜が、小さく親指を立てて笑う。
≪霊竜にばかり、良い格好をさせるつもりはない。邪竜族の復活が成し遂げられないのは無念だが……世界の為に散るのなら、まあ悪くは無いだろう。後は頼んだぞ。主よ≫
「ヘル……」
俺の腕が掴まれる。
フラムだ。
彼女達もヘルの意図を理解し、直ぐに俺の後を追って来ていた。
「ヘルさんは東に進めと言ってました。彼を信じて急ぎましょう」
「ああ……。すまん、ヘル……」
一瞬ヘルの雄叫びが聞こえた気がした。
声ではなく、魂の雄叫びが。
次の瞬間世界を引き裂く様な衝撃が走る。
「ぐぅぅ!!」
全身に焼ける様な痛みが駆け巡る。
邪竜が命を賭けた影響だろう。
一瞬意識が飛びかけ、掴まっていたフラムの手を放してしまう。
「きゃあ!たかしさん!」
空中で命綱を失った俺の体は激流に流される木っ端の様に吹き飛ばされた。
「くそっ!!」
衝撃で投げ出され、ぐるぐる回る体をなんとか立て直そうとするが上手く行かない。邪竜ヘルと、霊竜アースガルズの2体が命を賭けて未来に繋げてくれたのだ。
このまま地面に激突して意識を失うなんて間抜けな真似をしている場合ではないとい。
だが空中では自由が利かなず、このままではどうしようもなかった。
そこで俺は自分の体に向けて召喚を行う。
呼び出すのはガーゴイルだ。
呼び出すと同時に強化・融合を行ない、翼を羽搏かせて無理やり体勢を立て直した。
「大丈夫いですか!?」
「ああ、間一髪だ。それより急ごう」
俺は羽を羽搏かせて上昇し、後ろを振り返らずに真っすぐ東へと向かう。
2竜が残してくれた希望を無駄にしない為にも。




