第四十八話 待機
牢屋に備え付けられている粗末なベッドに寝転ぶが、眠れそうにない。どうしたものかと天井をぼーっと眺めていると、フラムの声が頭に響く。
《これからどうなるんでしょうね?》
長距離通話による念話だ。
牢に入れられる前、連絡を取り会えるようフラムにかけておいた。
《知らん》
自分達が何故捕らえられたのか皆目見当がつかないのだ。どうなるか分かる訳などない。
取り敢えず今の方針はサキュバスインキュバスを召喚し、牢を出て催淫を駆使して情報を集める事だ。
しかし余り派手には動き回れないだろうから、大した情報は集まらないかもしれない。
牢に連れて行かれる道中、すれ違った騎士の事を思い出す。騎士は純白の鎧を身に纏い、その胸元には狼の様な紋章が刻まれていた。確かあれは親衛隊の紋章だったはず。
130か、全く面倒臭い事だ。
すれ違う際に確認した騎士のレベルだ。
その強さは明らかに一般レベルから逸脱したものであり、そして……淫夢達のスキルをレジストするに足る強さだった。
淫魔系の完全催淫は効果が強力なスキルである。何せ決まれば相手を意のままに操る事が出来るのだ。決まりさえすれば無敵と言っていい。
だがこの手のスキルは成功率が低いってのが相場だ。淫夢達の催淫も御多分に洩れず、レベル差が大きく開いていないと成功率は極端に低くなる。その為、確実に成功させたいなら倍近いレベルか必要となるだろう。
現状淫夢達の強さは基本レベル60に、ブーストの150を足して210になる。つまりその半分であるレベル105迄が必中ラインだ。この条件なら、一般の兵士達には問題なく成功すると言っていいだろう。
問題はあの騎士。
いや、親衛隊全般と考えるべきか。
情報収集の際に出会っしまえば高確率でゲームオーバーだ。
対策としてはフローティングアイと融合し、千里眼でかち合わない様に気をつけるぐらいだが。流石に千里眼を常時発動させ続けるのはMP的に厳しいものがある。しかし要所要所で発動させて動きを見る様なやり方だと、相手の不意の動きには対処出来ない。
つまり万全な対策は取れないという事だ。
まあかち合ったらその時は運が悪かったと諦め。素直にぶちのめして、転移で帝国にでも捨てて来るとしよう。親衛隊の2-3人ぐらい消えたって暫く気づきやしないだろう……たぶん。まあこの辺りは運次第だな。
《フラム、夜になったら情報収集するぞ》
《情報収集ですか?》
最初は一人で情報を集めようかと思っていたのだが、フラムも連れて行く事にした。その方が見つかった時ずらかり易い。
《ああ、深夜になったら牢を出て淫魔達の能力で情報収集をする。夜中に動き回るから、今のうちに寝といてくれ》
《了解しました!》
フラムからやけにハリのある元気な返事が返って来る。
《なんか楽しそうだな?》
《え、あ、気のせいじゃないですか?》
こいつ絶対楽しんでやがる。
そしてあわよくば覚醒を使わせようと企んでるに違いない。
《覚醒させる気は更々無いぞ》
《ええええぇぇ!!何でですか!?私達捕まってピンチなんですよ!!》
《うっせぇ!大声で怒鳴るな!》
フラムの馬鹿でかい声で頭がくらくらする。
相手が大声を出すと、防ぎようのない爆音が頭の中で響く。念話の大きな欠点だ。
《すいません。つい興奮しちゃって……でもこの状況を打破するにはやはり愛の天使の力がーー》
《要らねーよ。淫魔達だけで十分だ。そもそも戦力が欲しいならリンやガートゥを呼べば良いだけだろが》
態々寿命を削ってまでフラムを覚醒させる意味はない。精々ごっこ遊びでもしてろ。
《ちっちっち、たかしさんは分かっていませんねー。キューピッドの能力は戦うだけじゃないんですよ!》
また声のボリュームが上がった。
このまま話を続けさせると、無駄にテンションが上がって再び叫び出しそうなので、適当に話を打ち切る。
《あー、はいはい。その話はまた今度な。俺はもう寝るから静かにしてくれ》
《えぇぇ……》
俺は今度こそ瞼を閉じて夜を待つ。




