第四十四話 蘇生
ベッドから起き上がりストレッチしていると、リンが大声をあげて部屋に飛び込んでくる。
「たかしさんお待たせしました!」
何かを待たされていた覚えはないが。
いったいなんの話だ?
「ジャジャーン登場です!」
リンはそう叫ぶと、勢いよく片手を入り口の方へと向ける。そこにはーー
「リンちゃん。そんなオーバーにやられると凄く照れくさいよ」
「ニカ!」
「あの、お久しぶりって言ったらいいんでしょうか。私死んでたせいで、つい先日まで一緒に王墓で冒険してた感じで。私自身はあんまり久しぶりって感じはしないんですけど」
ニカが照れ臭そうに頬を染め、俯く。
「すまなかった。ニカ」
俺はニカに頭を下げる。
彼女が死んだのは俺が迂闊だったせいだ。
リーダーとしてもっと慎重に行動していれば、彼女は死なずに済んだはず。
「あ、頭を上げて下さい!わ、私が死んだのは私が弱かったからで!たかしさんのせいじゃありませんから!」
「いや、強力な敵と戦うのにニカを事前に退避させて無かった俺のミスだ」
罠があろうがなかろうが。万一の事を考えれば戦闘能力のないニカは退避させておくべきだった。あれは間違いなく俺の判断ミスだ。
「き、気にしないで下さい。元々無理を言って連れて行って貰ってた訳ですし、何より私は生きてます!」
「それはリンが蘇生させたからであって…」
結果的にいい方に転んだけだ。
場合によっては死んだままという事も十分あり得た。
「そうだ形見!お母さんの形見がほら!」
ニカはポケットから石を取り出す。
それはゴブリンキングの装飾に混ざっていた石。精霊石だ。
「たかしさんのお陰で形見が帰ってきました!私にとって命の次に大事な物です!だから……だからチャラです!これでチャラって事で!」
「わかったよ……ありがとうニカ」
「こちらこそありがとうございました。たかしさん」
相変わらず優しい子だ。
とてもチャラと言える条件では無いが、この借りは何らかの形で返すとしよう。
ハニカミながら微笑むニカを見つめながらそんな事を考えていると、急にリンが俺とニカの間に割り込んできた。何故か不機嫌そうな顔で、頭のアホ毛をピーンと伸ばして俺に歩み寄る。
「そんな事よりたかしさん!」
人の大事なやりとりをそんな事呼ばわりかよ。呆れて半眼で睨むが、気にしたそぶもなく言葉を続ける。
「ケロちゃんです!ずっと大精霊様に預けたままなんですよ!きっと寂しがってます!」
そう言えばもう一週間以上経つんだったな。
厄災と戦ってから俺は一週間近く意識不明だった。恐らくは召喚融合を本来想定されていない彩音と行った反動だろう。
別れの際、ケロには終わったらすぐ呼び出すと言っている。それを一週間以上も放置していたんだ。きっと、不安がってるに違いない。すぐに呼び出して安心させてやらないと。
俺は急いで召喚引き寄せでケロを呼び出す。
呼び出されたケロは最初ぽかーんとしていたが、すぐに涙を両目いっぱいに溜めて俺に突撃してきた。
「パパー!」
「ふごっ」
ケロを受け止めた俺は勢い良くひっくり返り、地面に後頭部を強かに打ち付けた。
想像以上の突進のパワーだ。
それだけケロが不安がっていた証だろう。
そう思うと痛がっている場合じゃない。
「遅くなって悪かったな」
後頭部の痛みを堪え、胸の中でべそをかくケロの頭を優しく撫でて声をかける。
そこにリンもやって来て、ケロの震える背中に手を置いた。
「リンちゃんから聞いてましたけど、本当に親子みたいですね」
「まあ俺はともかく、母親っていうにはリンは若すぎるけどな」
後、オツムの方にも難ありだ。
それに食い意地がはってるところもか。
子供そっちのけでケーキにがっつく母親なんざ聞いたこともない。
「そんな事を無いですよ!」
そう宣言してリンは神姫へと覚醒する。みるみる内に手足がすらっと伸び、胸がバインバインに膨らんだ。
それに伴い俺のスキルロックオンが発動する。何に対してかは敢えて口にすまい。
「これでどうです?母親っぽくなったでしょ」
「うん、凄くお似合いだと思うよ」
頭の上でアホ毛を旋回させてる奴とお似合いに見えるとか、マジで勘弁して欲しいんだが。ひょっとしてニカには俺ってアホっぽく映ってるのか?だとしたらショックだ。
「図体だけでかくなっても意味ないぞ、中身が伴わないとな」
「私はもう十分大人です!」
「そうか。じゃあもう食後のケーキは子供のケロに全部あげていいな」
リンはぬぐぐぐと少し唸った後、頭をがっくりと下げて白旗を上げる。
「子供って事でお願いします」
「もう、リンちゃんったら」
そんな相変わらず食いしん坊のリンを見て、ニカは楽しそうに笑う。
その笑顔を見て。本当に生き返えらせる事が出来て良かったと、俺は心からそう思えた。




