第三十二話 聖剣
「頼む!」
召喚引き寄せで呼び出したガーゴイル2体に足止めを頼む。俺はリングを指に嵌め、仲間たちと別れた方向へと飛ぶ。
リンとガートゥははまだ呼んではいない。
リンの飛行速度は俺よりも遅く、ガートゥに到っては飛ぶことが出来ないからだ。
今は少しでも奴との距離を稼ぎたい。
「見えた!」
懐かしい面々の前に降り立つ。
「彩音さん!?それに……たかしさん?」
ティーエさんが驚いたように声を上げる。
だが説明は後だ。
彩音をゆっくりと地面に寝かし。
リンとガートゥを呼び出した。
「リン!回復を!」
「はい!」
俺はリンに彩音の回復を頼む。
リンが彩音に駆け寄り、既に回復魔法をかけ始めていたティーエさんと並んで回復を行う。
「え!?リンちゃんなの!?」
「ガートゥ……生きていたのか?」
フラムが目を丸め、レインが驚いたようにガートゥに声をかける。
時間が止まっていた皆からすれば、突然リンが大きくなったり、死んだと思っていたガートゥが目の前に現れたのだ。
戸惑うのも無理はないだろう。
「おう!久しぶりだな、レイン!」
「貴様、いつの間にそれ程の力を」
鋭い嗅覚で嗅ぎ取ったのか、レインはガートゥのパワーアップを即座に見抜く。
「へへ、まあ主のお陰だ」
「なに!たかし、どういう事だ?」
「説明は後だ。これから皆を覚醒させる。厄災を倒すために皆の力を貸してくれ!」
「覚醒か。面白い、良いだろう」
レインは話が早くて助かる。
周りの皆が戸惑う中、彼だけは迷わず答えてくれる。
百聞は一見に如かず。
覚醒がどういう物か周りの皆への説明を兼ねて、俺はレインを覚醒させる。
仮契約
召喚ブースト
そして最後に覚醒をかけた。
その途端レインの体が輝き、その眩さから目を瞑る。
「うそ……だろ……」
輝きが収まり、目を開く。
そこに映る驚愕の光景に俺は思わず声が震えてしまう。
「ほほう、これはこれは……興味深いねぇ」
パーが眼鏡のフレームに手をやり、凝視する。
その視線の先には……
一本の純白の剣が宙に浮いていた。
柄が長く、飾り気がない。
それでいて洗礼された美しい剣。
レインはそんな剣へと姿を変えていた。
俺は目にしたものが信じられず覗き見で確認する。
レイン・ウォーカー
クラス:聖剣
聖剣。
剣聖じゃなくて。
聖剣。
……なんでやねん。
「おいおい、レイン。お前剣になっちまってるぞ」
「その様だ。己が剣と一つになる。成程、これが剣を極めるという事か」
レインは感慨深げに言っているが、絶対違うと思う。
「覚醒ってのは武器に変身するスキルなのかい」
「いや、違う違う。レインのは特別だ。普通はこうじゃない」
レインが奇怪な変身をしたせいで妙な誤解が生じる。
時間が無いってのに面倒臭い。
「兎に角――」
「成程。こいつは、かなりやべーな」
俺の言葉はガートゥによって遮られた。
かなりやばい。
その言葉の意味を理解し、彼女の視線の先を追って奴の姿を確認する。
「くそ!もうきやがった!」
2分も持たなかったか。
いや、相手の強さを考えればガーゴイル達は十分頑張ってくれた方だろう。
「リン!回復の方は!?」
「ごめんなさい!ダメージが深刻でもう少しかかります!」
時間稼ぎするしかない。
レイン達の方を見ると、ガートゥがレインの柄を握り、口の端を歪め牙を見せて笑う。
「俺達に任せな、主!」
「時間稼ぎなど性に合わん。別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」
「できるもんならな」
「言ってくれるぜ!」
ガートゥが両手で柄を強く握り込む。
するとレインの刀身が真ん中から二つに分かれ、開いた。
刃と刃の間から光が溢れ出し、刀身を包み込んで巨大な光の刃を形成する。
「すげぇ……」
その美しい刃に思わず感嘆の言葉が漏れた。
この美しさは間違いなくレインの真っすぐな心を現しているのだろう。
そう思うと嫉妬すら感じてしまう。
それほどまでに美しい輝きだった。
「いくぜぇ!!」
ガートゥが突っ込み、剣を振るう。
剣は文字通り光の軌跡を描き、厄災から伸びていた7本の触手を一振りで立ち切って見せた。
厄災から生えた触手が何度も二人を襲う。
だがその度にガートゥはレインを振るい打ち払う。
その見事な戦いぶりは、本当に二人だけで何とかしてくれるのではないかと俺に期待させた。




