第十話:相席
「おはようございます」
「おはよう」
「あ、今日はお魚なんですね。じゃあ、私も同じ物にしようかな」
そう言いながら女は俺の前の席に座り、ウェイトレスに手早く注文を伝える。
「そういえば知ってます?来週この街で夏祭りがあるそうなんですよ。良かったら皆を誘って行きませんか?」
「いや、俺は遠慮しとくよ。人混みとか苦手だし」
「そうなんですか?私も人混みとかは苦手な方なんですけど、お祭りだとそういうの全然気になりませんよ。行ってみません?お祭り」
「考えとくよ」
(考えるだけで、絶対にOKはしないけどな)
「ほんとですかぁ。約束ですよ」
「ああ…」
魚を食べながら生返事を返す。
「今日はどうします?昨日みたいに古書屋さんに行くとか?あ!そうだ、今日は御見舞いの前にお花屋さんに寄りましょう。いつも手ぶらじゃあれですし、やっぱり御見舞いと言えばお花ですよね」
「寝てる人間に花なんか持って行ってもしょうがないんじゃないか?」
「お花は見た目だけじゃなくて、凄くいい香りがするんですよ。きっと眠っていても香りは届くと思うんです。それに、目が覚めた時目の前に綺麗なお花が咲いてたら、きっと喜んでくれますよ」
見舞いの相手は花を見て喜ぶタイプには到底思えないのだが。
「お待たせしました」
ウェイトレスが注文した料理を彼女の前に手早く並べ、一礼して素早く去っていく。
「うわ~凄く美味しそう。私、お魚って大好きなんですよ~。」
女がナイフとフォークを器用に使い、魚の身を丁寧に切り分け、切り分けた身をフォークで刺し、口に運ぶ。
粗雑な自分の食べ方とは違って、女の動きは洗練されており、優美にさえ感じた。
「うん!美味しい!香草が効いてて凄く美味しいです」
そう言いながら、切り分けた魚の身を丁寧に口に運ぶ。
既に食事を終えていたので、会計を澄まして部屋に戻ってもよかったのだが、流石にそれは相手に失礼かと思い席に留まる。
やる事もなく手持無沙汰だった俺は、幸せそうな顔で食事をする彼女の顔を眺めていた。
それに気づいたのか彼女が訪ねてくる。
「あの、どうかしました?」
「いや、美味しそうに食べるなと思って。それに食べ方が凄く綺麗だ」
「有り難うございます。私も以前は汚いというか雑というか、そういう食べ方だったんです。でも一応私も女の子ですし、何より、今着ている服を汚したく無いから頑張って直したんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「魔法でクリーニングも出来ますけど、出来る限り汚さずにいたいんで」
(そんなに汚すのが嫌なら、箪笥の奥にでも仕舞っておけよ)
目の前のウェディンドレス姿の変人を見てそんな事を考える。




