冬の王の物語・・
天空 青の空の下で雪に覆われた大地と森 大きな湖
点在する小さな村や町
大きな湖の 空中に浮かぶ 一人の老年の男がいた・・
魔法使い その大いなる魔力により 冬の王と呼ばれた男
湖・・・
まだ完全には凍ってない 湖の水
そこに魔法の呪文が唱えられる・・。
そこに男の魔法の呪文と共に 幾つかの水の塊が空中に浮かぶ・・
やがて水はかたまり 様々な形をなして
氷の彫像となる・・
翼を広げた氷の巨大な鳥や
羽のついた天馬に変化する・・。
そして・・・いくつも氷の塊が空中に浮かびあがり
形をなしてゆく
湖の上・・・空に浮かぶ氷の城に・・
そして 他の氷の固まりは・・・
まだ凍ってない 湖の水
幾つかの水の塊が空中に浮かぶ・・
やがて形をなす氷の彫像・・
翼を広げた氷の巨大な鳥や
羽のついた天馬に変化する・・。
氷の彫像達は
声を上げ・・羽をばたつかせる・・。
雪の競演の中で
氷の生き物が造り上げた
湖の上の氷の城は 空中に浮かび
美しい、光を浴びてその姿を輝かせている・・
雪だるまも
かりそめの命を与えられて
城造りを手伝う
そして・・それから
金の冠と豪華な毛皮の衣裳を纏う壮年の男が 氷の馬に乗り現れた・・
王は 手をゆるやかに踊らす それに合わせて水が答えるように
柔らかなウエーブをえがく・・
水の中から氷の乙女達・・
知らせが来る・・
知らせが来る・・・
祭りの宴を楽しみに待つ村人たちの元へ
小さな氷の生き物達が 駆け出した
村や小さな街の人々に
一夜の祭りが来る事を・・
宴の知らせを・・
男の手から生まれるのは
小さな灯かりの玉
幾つも
幾つもの・・光の玉
光の玉は手を離れると
夜空に浮かび
そして氷で出来た城を 幾つもの灯かりが
照らしだす
氷の彫像がそのまま動き出したような馬
その馬に乗った男が、
ひょいと杖を振るい 大地を杖で叩く
すると湖の水が 振動で揺れ まるで鉄砲水のように
弾けて 湖の空中に浮かぶ城
その城を めがけて 飛び上がる
水はそのままの形で氷つき
城の下部分に植物のツタのように絡みつく・・
小さい氷の生き物達が
一斉に集まり
固まった鉄砲水の氷に手を加えて、階段の形に仕立てあげる・・。
鷹は じっと男を見ている。
「・・そうさな、100年前の王達にくらべるなど
我が魔力は・・・微々たるもの 」
「その魔力により
大地は豊穣に満ちあふれ
癒しの魔法は多くの病から人達を救い 長い長寿と繁栄を得た。
そう・・私の出来る事など
微々たるもの・・。 氷の城の宴と 冬の嵐から人々を守る魔法・・」
「前の王は、冬の中でも
果実が実り続ける永遠の森を一つ残された・・。」
「我は何が残せるだろうか?」王は寂しげにつぶやき 思う・・。
「・・次の王ならば
もっと多くの事は可能だろうか・・?」
鷹が 魔法を操る男の腕に止まる
まるで同じ姿をかたどった
氷の鷹も近くを舞う・・。
その顔に寂し気に笑みがこぼれる。
「そう・・100年前の王に比べ 私の出来る事など ささやかだ・・。」
「たった一晩の贈り物が せいぜいだ・・。」自嘲ぎみにつぶやく冬の王・・。
そして・・ふと思い出す・・私を憎む あの魔女の事を・・
失った愛しい妃と同じ顔をした魔女・・雪の女王
「あの魔女めは、我が結界で閉じ込めておる 氷の宮殿の中で
私の事を どれだけ、笑っておるやら・・・。 」
氷の鷹達が空を舞う・・。
そして・・地下深く・・。
地下深くにある氷の中 その奥深くに女王の氷の宮殿がある
氷をくり抜き 見事な細工が彫られて 氷の柱が立っている
いくつもの部屋
だが・・いるのは・・
本来ならば 住人は唯一人・・。
美しき女王
彼女に使える 氷の僕たちがいるのみ・・
いや・・たまに 彼女に命じられて
彼女のために 生贄となる人間たちが浚われて 連れてこられる
王の結界のほころびから 水の塊として抜け出し おもに小さな子供たちを浚うのだ・・。
女王は 狩りに出ることが出来ない・・冬の王の魔法で
この地下にある氷の宮殿に 閉じ込められているからだ。
氷の迷宮奥深くにある 地下の氷の居城
氷は 形よく整えられて 見事な部屋の造形を再現されていた
その氷の部屋には 豪奢な調度品の家具が備えつけられ 大きな箱には
大きな宝石がついた宝飾品
天蓋付きのゴシック様式の大きなベットが置かれている
毛皮がベットの上に そして
そこに一人の見目麗しい女が一人
深紅の黒みを帯びた華やかな光沢のある生地のドレスをまとい眠っている
ドレスにはレースの縁取り 足元まで届く長い裾 細やかな金の刺繍
首元には赤い色のレースの大きな飾り 微妙な色のグラデーションをして
上のフチに小さな真珠色のビーズが少々。
スカートの裾部分には 他にも同じ生地で作ったバラの形をした細工を幾つか縫い付け
小さなビーズが星のように輝いている。
部屋の天井の氷から 水がポタリ 滴り落ちる。
その清らかな水の水滴は 女のドレスの間 胸元の白いふくらみの間に
滴る。
ぱちん! その美しい女は瞳を開く
「よく眠ったわ・・喉の渇きを潤すには 冷たい清らかな水も素敵だけど
まったりとした 薫り豊かな赤いワイン
いいえ・・生気を与え 若さを与える人の血がいい・・。」
美しい美貌の顔が 恐ろしげにゆがむ。
女主人の目覚めた事に気がつき 人体の形をした 氷の塊がゆっくりと近ずき
ワイングラスを差し出す。 ワイングラスは足の部分と下半分が黄金で出来ており
複雑な文様と 文様の中に赤いルビーで飾られたもの・・。
ワイングラスの中身は、赤い人の血
彼女の地下の城近くにあるのは 幾つもの火が閉じ込められた氷のツララ
そのツララの中の人から取り出したもの。
「狩りをしなくてはね・・。それとも 罠に獲物が囚われるのを
待つ・・どちらでも いいけど」
唇についた 血の雫をまるで 口紅でもひくように そっと自らの唇の上に
延ばす。
大きな赤いルビーの宝石が幾つもはめ込まれた首輪を手に取り
自らの首にかける。
「どうしょうか?
またあの憎らしい冬の王が 黙ってはいまい
そろそろ あれを始末したいものだが・・」
私の宝石を目当てに 盗賊どもが群れをなして、やって来るが
皆 我の餌食・・しかし
やはり、若い女か 愛らしい子供の血が欲しいものよ」
女王の地下王宮の近くの森の雪や氷
雪に包まれた この辺りの森
それは 決して、女王の魔法により溶けない氷雪
天に向かい、突き刺すように出来た2メートル前後の氷のツララの柱群
中には それぞれ 哀れな犠牲者たちが 目を見開き 凍りつき入っている。
「お兄ちゃん」
「!駄目じゃないか ついてきたのか アニス。」
「お兄ちゃん、これは・・・」
「氷雪の魔女の宝を 狙った者たちの骸さ」
「・・・お兄ちゃん」
「魔女の王宮の近くに 雪の中でしか 咲かない薬草がある
あれが あれば 父さんと母さんの病が治るんだ。」
「魔女に・・魔女の手下に見つからないようにしないと・・。」
氷で出来た豪奢な部屋には 毛皮やペルシャ絨毯が飾りとして
敷き詰められている。
奥のクローゼットには 金や銀 宝石のテイアラや 首飾りや耳飾り
それから 絹織物や刺繍や宝石が縫いこまれた衣装の数々
「祭りの宴が始まったか・・・」
笑みを浮かべ 女王は笑う・・。
豪華な衣装を纏い それに完璧に整った肢体を持つ
美しい顔の女
「宴の始まりか・・ふふん・・ 良い良い・それで良い」
宴の祝いに集まる村人
その暖かな血潮
妾のグラスに注ごうか
さてさて・・どうやって
王の目を誤魔化すか・・ 早く この邪魔な結界さえ なければ・・
美しい貴婦人は 綺麗な細工模様のボトルから ワイングラスに 紅い液体を注ぐ・・
一口飲み・・満足そうな笑みを浮べた・・。
伏し目がちに微笑みながら
つぶやく・・極上の血潮・・・
子供の血・・
なんとも、まろやかで心地よい味
そして足元の二人の子供達を見る・・。
先程,捕えた子供たち・・
「先の鋭い氷のツララで
苦しまないように 一気に貫いてあげる・・。」
男の子は 彼女を睨みつける
女の子は半泣き状態で脅えている
「ふふふ・・助かりたい? 」
「片方だけでも 助けてあげようか・・?」
「それとも二人とも助かりたい?」
「ねえ 私の望みを叶えくれる?」
「あの善良な氷の城の主・・
王から奪いたいものがあるの・・」
少年の縄を解き こう命じた
「この少女は・・妹 それともお前の大事な友達かしら?
まあ・・どちらでもいい・・大事なものには違いあるまい・・」
「私の望みを叶えてくれたなら 二人とも助けよう・・
それとも 逃げるなら それも良い・・
少なくとも・・そなたは助かる・・・。」
「私には わかる お前は魔法使いの素質があるわ・・
お前なら結界石を壊せる・・」
「結界石?」男の子は問いかける
「妾達を 縛る結界が 張り巡らされている」
妾達は 結界石には近寄れない だが普通の人間には壊せない
まれに 人間の子供に魔法使いの素質のあるものがいる」
「まずは この忌々しい結界をほんの少し壊してくれるだけでいい。
それから・・王の魔法の源
赤きペンダントの宝玉を奪うのだ・・。」
その頃
森の湖のすぐ傍では・・
ちょっと さぼって 氷の仔馬達が 雪を転がして 雪だるまを作って
遊んでいる
大きな氷の鹿が めっ!とばかりに その角で軽く 仔馬達のおしりを
つつく・・・。
大慌てで 氷の仔馬達は 湖に浮かぶ氷の城を作る作業を手伝う・・。
それからしばらくして・・無事に完成した 氷の城・・。
今度は 氷の動物たちは 村や町の人々を迎えにゆくのだった・・。
冬の王の方は・・
最後の仕上げとばかりに 冬の王が 彩りに 無数の魔法の玉を
作り出す それは光輝き 煌めく・・
無数の魔法の玉は 城や周りの森を照らして 紫色の夕暮れに染められた空を
灯りのように煌めいて燈していた。
それから・・湖の傍で こっそり覗いて氷の動物達を見つめていた者たちがいた。
毎年の出来事に 城が出来上がるまでは近づくなと言われた村の子供たち
・・とは言うものの 彼らも楽しみで遠巻きに見つめていた
「ねえ 二人 隣村の男の子と女の子がいないみたい・・。」
「どこ行ったんだろうね・・。」不思議そうに首をかしげる
「先に行ったんだろ?」子供たちは笑う
まさか・・恐ろしい雪の女王の僕に浚われたなどと 思いもせず
子供たちは楽しそうにしている・・。
すると ひょいと・・雪の積もった茂みから 氷の仔馬たちが顔を出す
「わ!」子供たちは驚き 声を上げた!
氷の仔馬達はジェスチャーをして 背中に乗れと仕草で示す
子供たちは顔をつきあわせ それから 我先にと仔馬の背に乗る
そんな彼らが ますは 最初のお客様・・。
氷の階段を登れば そこは宴の会場
森に音楽が鳴り響く
氷の馬達が 雪原を跳ね回る
遠くから 聞こえてくる
村々の子供達を乗せて 子供達は嬉しそうに笑いはしゃぐ
その後を 氷で出来た荷馬車を引く 氷の馬達・・大人や老人達が乗っている
祭りの宴に 晴れ着を着込み 嬉しげに笑っている・・・。
今年の祭りは にぎやかになりそうだ・・
村人達も 王に土産をたずさえて いた
赤い林檎に 林檎のジュースに 林檎酒・・。
麦の酒ビール
そして 祭りの宴は始まる
「今宵は心ゆくまま お楽しみあれ
一夜の宴だが・・
ささやかながら 土産も用意した・・。」
集まった 近隣の村人達が歓声をあげる
「王よ! この大きな贈り物に感謝いたします!」
「王様 有難う!」
氷の城で 村人達は 氷の乙女達と踊ったり
王の用意したご馳走を口に運び 至福の顔をほころばせる
そっと 小さな氷のユニコーンが 王の耳元でささやきかける
「!なんじゃと・・結界が崩れた?」厳しい表情を一瞬みせ
それから 村や町の民人の為に 再び 笑みを作る・・・。
「お楽しみあれ!諸君」
人々にそう声をかけた・・。
少女を人質に取られた 少年は命じられたまま
氷の宮殿の北にある結界石の一つを壊す
結界石は 女王や彼女の僕達は近づくことさえ出来ないからだ・・。
そして・・普通の人間には壊す事が出来ない 結界石・・。
「おお・・自由だ・・結界が緩んでおるわ たった一つの結界が壊れただけで
バランスが崩れたわ 冬の王め かなり力が弱ってきておるわ
百年ぶりの外界じゃ・・おほほ・・。」女王は煌びやかな金の鎧と緋色のローブをまとう
風が北から吹き始める 強い風が・・
冬の魔女とも女王とも呼ばれる人の到来を告げる
風は 狼や人の形を取る それらは すべて禍々しい表情を浮かべていた
雪が転がり 巨大な人型を取る・・ 雪のヒト型は大きな声を上げる
すると対抗するように こちらも同じく雪のヒト型が生まれ
それから
ツララが わずかの時間で成長して 壁となり
冬の女王達の行く手を 阻む
「その程度で 阻めるものか!」血で出来た氷の馬にまたがり 武装した女王は笑う
女王は魔法の槍を振るい ツララの壁を砕く
女王に従う 氷のヒト型 同じく血で出来た馬にまたがる
血で出来た氷の騎士たち・・。
「我等の領土の民人達を 返してもらう
そなたが開放するまでは
大人しく 我に従い 約定をなされた 月と日には
我に 生贄を必ず捧げておったのに!今では 我に逆らい 耳もかさぬ!」
女王は 合図をして
従える僕達に命じる
「ゆくのじゃ!」
湖に浮かぶ氷の城・・
王は 水の入った壷から 氷で出来たバラを作り出す
氷は一枚一枚 花びらの形となり空中を舞い 寄り集まり
薔薇の形をなす・・。
薔薇は宙を舞い上がり
城を彩り飾りたてる・・・。
人々の拍手と歓声があがる・・。
小さな氷の小鳥たちが 光る魔法の玉のまわりを滑空して踊るように 舞い飛んでいる。
宴の音楽に ご馳走に ダンス・・
ひとときの宴に 酔いしれる・・。
王の耳元に 再び 今度は小さな氷の小鳥が降り立つ
そして・・ささやく・・。
「そうか・・やはり動きだしたか・・そろそろ 行かねば・・」
小さな声でつぶやいた・・・。
「宴を・・お楽しみあれ・・
さて 諸君 実は 森の奥へ古い友人が訪ねてきた・・百年ぶりに会う者ゆえ
話も山のように積もっておる・・
我は戻れぬ時には 氷の馬や動物達たちに
命じておくゆえに 彼らが 諸君を土産とともに 家まで送り届ける・・
では・・」
王は笑い 楽しげに笑顔をみせる民人達に手を振り 宴の席をたち・・
部屋の奥に向かった・・。
部屋の奥・・
誰もいない その場所には ただ一面の氷があるだけだった・・。
王は呪文を唱え 魔法の小さな玉を幾つか作り上げる・・。
魔法の玉は 部屋の中の各所に飛び 六芒星の形を成す・・。
中心は光で煌めき そして・・
王は 剣と小型の魔法の杖 鎧を纏い
魔法の中心へと足を踏み入れる
甲高い音をたてて 光に包まれて王の身体は別の場所へと運ばれた
雪の獣たちが 暴れ
雪原にいた 鹿たちの群れが巻き込まれる
鹿達を巻き込むまいとして 列が乱れ そこを女王の軍に攻められる。
さらに そこに一人の男の子が紛れこんだ。
女王に命じられて 結界を壊した男の子
男の子は 女王に近づこうとして 戦いの真っただ中に入りこんでしまったのだ。
男の子は乱戦状態となった中で
ただ 逃げ回り そして 血の色をした馬に弾き飛ばされる寸前
誰かが腕をのばして 身体ごと 抱きかかえ男の子を助けた。
男の子を助けたのは 氷の馬に乗った鎧の男
そして敵を飛ばす飛翔の魔法を唱えては 敵を空へ放り投げる。
老年で 鎧を身につけ風格のある男だった
彼は男の子に話かけた・・。
「大丈夫かな?」
「冬の王?」男の子は 彼の顔を真近で見ながら 尋ねる
「いかにも・・ん?」冬の王は 男の子をじっと見る
「・・・?そなた小さき少年・・もしや?」怪訝な顔をして それから
彼に触れて 確かめるように抱きかかえる
「魔力を感じる・・そう・・確かに・・」
「・・そなたから魔力が感じられる それも強い魔力だ。」
「ああ・・それに結界石に触れたな・・」
「・・ごめんなさい」男の子は下を向き 唇をかみしめる
「仕方ない おそらく知らずに触れたのであろう?今は戦いが先のようだ・・。」
男の子は事情を話そうと一瞬考えたが 今は冬の王の邪魔をしては まずいと考え
ひとまず 口ごもる。
「氷よ 敵を取り囲み 閉じ込めよ」
王は 呪文を唱えた
氷はたちまち 敵を捕らえては 次々と氷の柱に閉じ込める。
「おでましかえ? 王?」女王は笑う
「それにしても 大事な妾の僕たちを 氷に閉じ込めるとはね・・
妾も その魔法の呪文は よく使う・・
そなたの大事な妃は 100年前に 妾の魔法で 氷の柱に捕らえられ
生き血を全て抜かれ 無数に並ぶ氷の柱の中 妾の宮殿に飾っておったが・・」
「もっとも 今はそなたの住む湖の底深くに置かれていたな・・」
「そなたが 妃の妹でなければ 100年前に
打倒しておったものを・・・」
「妃は妹のそなたを あれほど愛し大事にしておったのに・・
そなたが 悪しき前の闇の王を愛しさえしなければ・・・
我は 前の闇の王同様に
悪行を重ねるそなたを 闇の王の氷の宮殿に閉じ込める事しか
出来なかった・・。
人を襲い その身体から血を抜き取り 吸血鬼と成り果てた そなた
だが・・それは なんとも哀れな・・・。」
「ふ・・双子の妹の妾ゆえ・・
同じ顔の者を殺すには 忍びなかったのでは?王?」
妖艶な笑みを浮かべて笑いかける女王
「ははは!殺してみよ! 最愛の妃と同じ顔をした妾を殺してみよ!」
「今度は 氷の宮殿に閉じ込めようなどと思うな!
なぜ 妾が あの宮殿から出てこれたのだと思う?
ほんの少し結界を壊し 緩めただけで こうして出てきたのだ!
わかっているはずだ・・そなたの魔力は年々弱ってきている。」
「そう!次の世代への橋渡しの時期にきているのだ!
次世代の王がないまま そなたは魔力を引き継ぐ者などおらず そなたの代で
この白き魔法の使い手は滅びるのだよ!」
女王は 呪文を唱え ツララで出来た槍の雨を降らせた
風を切り裂く音をたてながら ツララの槍が 王達に雲霞のごとくに
襲いかかり降り注ぐ
王側の雪の巨人達が うめき声をあげて倒される
王は手をあげ 空中に氷の壁を一瞬にして作り上げ 壁が盾となり ツララの槍を防ぐ
「妾は 決して忘れぬ 愛する夫 前の闇の王を 銀の剣で
刺し殺したそなたへの恨みを・・」
「仕方あるまい・・女王よ・・
せめて 苦しませず その美しい身を 氷の柱に閉じ込め 宮殿に封じる」
王は長い魔法の暗唱を始めた・・呪文を織り込み
強い魔力を持つ 女王を封じるための呪文
女王は 血で出来た氷の騎士から 何かを受け取る
袋に入っていた物は 小さな人間の少女だった・・。
「さあ 王よ 呪文を唱えるがいい! この愛らしい少女も道づれだ!」
口に布をあてられて モゴモゴさせながらも 涙を流し 女王の腕の中で暴れている
「さあ・・どうした?王?」 雪の女王は笑みを浮かべ問いかける。
「お前の望みは? 女王?」静かに問いかける 冬の王
「わかりきっているはずだが?冬の王よ・・」
「これか?」胸元の赤い宝玉のついた首飾りを見せる
「ああ・・そうだ・・ほれ・・そこの幼き少年よ
可愛い この少女を助けたいのだろう?」
男の子は 泣きそうな顔をして 冬の王に顔を向ける・・。
「・・成程・・人質を取られていた訳だ・・。」男の子の顔に手を触れる 冬の王
「ん!ん!・・この子は・・」王はそっと微笑む・・・。
そして小さな声で男の子だけに聞こえるように 呟いた
「思わぬ拾い物・・この子の魔力は 想像以上に大きい
あの魔女めは あいにく そこまでは気がついてないようだ・・。」
「我は 継ぐ者を見出した・・。」
「幼き少年よ・・頼みがある・・そなた 「冬の王」になってはくれまいか?」
「え!」男の子は驚き問いかける。
「さすれば この首飾りの宝玉はそなたにやろう・・。
好きするがいい・・。」
「この宝玉には 前世代の王達の記憶と魔力が刻み込まれたもの
代々 王に受け継がれたもの・・そなたは資格がある・・。」
「急にそんな事を言われても・・」
「いやだと言うなら この首飾りはやれぬ
これは 冬の王のものだから・・それがこの首飾りにかけられた魔法」
微笑みながら 冬の王は優しく話しかける。
「・・・わかりました。冬の王になります・・。」
「よかろう・・それから・・一つこれだけは聞いてくれるかね・・。」
「たとえ・・この私の身に何が起こっても 決して そなたのせいではない・・
何故なら この地で王という者は唯一ただ一人なのだから・・」
「?」きょとんとする男の子
冬の王はしゃがみ込み 男の子が 首飾りを取りやすいように 目線を合わせる
姿勢を取る
男の子は 冬の王の首飾りを外した
すると・・・
まるで 幻のように 王の身は風の中に溶け込むように
ゆっくりと消えた・・。
カランカランと 服や身にまとった鎧や剣が その場所に転がった
「!」
「うわああ! 一体 何が!」男の子は 首飾りを握りしめて
腰を抜かして 悲鳴を上げた。
「たわいのない・・」女王は冷たく言い放つ
「巨大な魔力を秘めた その首飾りは (冬の王)そのものなの・・
冬の王の分身でもあって 王と首飾りは 一対
手放せば 王はその身を失う・・。そういう代物・・。」
「これからは 私が冬の王も兼ねる・・邪魔な王もいなくなり
この地は これから私の思うまま・・。」
「あーははは ふふふ」嬉しげに嬌声をあげる
雪の女王・・。
「さあ 持ってくるのよ・・だって この女の子を助けたいのでしょう?」
女の子の喉元すぐ近くにツララの槍先を向ける
「ほんのちょっとよ・・私が刺したら 綺麗な血が滴る・・早く」
男の子は ポロポロと涙を流して
その場にたちすくんでいた
そして 女王と女の子を向き しばらく ぼんやりと じっと見ていた・・。
冬の王さま ごめんなさい。・・王さまは 僕のせいじゃないって 言ってくれたけど
でも・・でも・・
この冷酷な女王に この首飾りを渡せば この地は・・村の人達や皆は・・?
ゆっくりと女王に命じられるまま 首飾りを手にして 彼女達の方に向かった・・。
一体 どうすれば・・?
・・風の中から 声がした・・いや ペンダントの宝玉が話かけてきた・・。
そなたは冬の王・・・呪文を唱えるがいい・・。
呪文? そうだ呪文? でも何の呪文? 呪文なんて唱えた事ないのに
言葉が 頭の中に浮かぶ・・。
女王に 宝玉の首飾りを手渡す寸前に・・
男の子・・いや 新しき冬の王は・・呪文を唱えた・・。
「邪悪なる雪の女王 清き湖の底に眠れ!飛翔の呪文よ
風よ 我に呼応せよ!」
「なに!!きゃああ!」雪の女王は悲鳴をあげ そして風が彼女を
連れ去った・・。
女の子の縄を解く 「もう大丈夫だ・・」
「うわああん! お兄ちゃん 恐かったよ!」男の子は妹を抱きしめた・・。
それから 新しき まだ幼さの残る冬の王は 時折 幾度となく迷走を繰り返しながらも
心優しき 白き魔法の使い手として この地に恵みを与え・・
そして・・氷の城や 雪や氷の魔法の生き物 動物達といえば・・
毎年 冬の一夜だけ その姿を現した
前の主はいなかったものの
以前通りに 前の冬の王の命令に従って 氷の城で 村人や町の人々をもてなし・・
次の朝には 湖の水に還っていった・・。
ただ・・時々 前の冬の王を恋しがり 涙を流すものもいたという・・。
FIN