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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第七章 砂の町

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001

 砂の町と言われて、人は何を思い浮かべるだろう? 一般的には砂漠の町だろうが? あるいは砂浜が近くにある海辺の町なんかを連想する奴だっているだろう。だが砂漠なら町はオアシスの側にあるのが当然で、であればオアシスの町と呼ばれるのが妥当だ。砂浜がある海辺の町なんて、そのまま海辺の町だろう。そもそも砂なんて不安定で農耕もできない土地に町を作るなんてあり得ない。なので「砂の町」という字面から連想されるような町は存在していなかったし、今も存在していない。


 なら、何を持って砂の町なのか? その答えは3年前に起こった原因不明の自然現象であり、そしてそれは俺とマリィちゃんが出会うきっかけになった、忘れることのできない大事件……あるいは大惨事だ。


「本当に起きたのね…………」


 宿屋の一室。俺とマリィちゃんしかいないその場所で、血を吐くようにマリィちゃんが言葉を漏らす。


「だねぇ。いいのか悪いのか、いや確実に悪いことではあるけど……」


 何も起きなければ何の情報も得られない。だが起きたことによって生じた犠牲を鑑みれば、良かったなんて口が裂けても言えない。


「防ぐことは、できなかったのよね……?」


「原因もわからないことを未然に防ぐのは、いくら俺がいい男でも無理だよ」


 その原因を調べるためにこそ無茶を押して確保した情報源を動かしたのだから、次があるならともかく、今回のを防ぐことなど出来たはずが無い。


「犠牲は、凄く出たわよね……」


「そうだね。町1つ無くなってるんだから、どれだけ出たか……」


 予想でしかないが、そこで犠牲が出ることはわかっていた。だが例え確実であったとしても、この犠牲を減らすことなどできなかっただろう。見ず知らずの人間が「数日後に大惨事に見舞われるから町を捨てて逃げろ」なんて言われて信じるはずがない。

 人に偽装できるタイプの機械人(マシナリー)……マシンノイドを数体調査目的で送り込んで貰っていたが、これがガーディアン辺りを数体送って暴れさせるのであれば、多少の人間を一時避難させることは出来たかも知れない。だがそれだとイアンの今後の目的に差し障りが出るし、それを討伐せんと軍隊や掃除人が集まってしまったらかえって被害が大きくなる可能性すらあったのだから、そんな手は取れない。


「結局、見捨ててしまったのね……」


「仕方ないさ。俺たちは一介の掃除人でしかない。両手に溢れる人なんて助けらなくて当然だよ」


 いつもなら、マリィちゃんはこんなに引き摺ったりしない。ちゃんと自分の限界を知っているし、弁えている。それでもこんなに苦しそうなのは、自分もまたこの苦しみの体験者であり当事者だからだろう。前回も今回も部外者であり傍観者であった俺がかけられる言葉は、この程度の糞みたいな台詞がせいぜいだ。


「それにしても、イアンに貰ったこれは便利だよね」


 空気と話題を変えるべく、俺は鞄から四角い金属製の箱を取り出した。横に付いた突起を押してやれば、画面が光って中に様々な文字が表示される。


「個人用の携帯通信端末……技術(テクニカ)全盛時代ってのは伊達じゃ無いねホント」


 俺たち掃除人のみならず、大抵の人間にとって情報は貴重なものだ。それをどんなに離れた場所にいる相手とも即座に共有できるとなれば、そこから得られる利益は計り知れない。こんなものをその辺の子供ですら持っていたというのだから、大変遷の前の時代は一体どんなものだったのか……正直俺には想像もつかない。


「ほらマリィちゃん。頼んでおいた報告来てるよ?」


 イアンに助言した「報酬」が届いていることを教えるが、マリィちゃんの表情は優れない。ちらりとこちらに目を向けただけで、再び力なく下を向いてしまった。


「ごめんなさい。後で見るわ……今は少し休ませて頂戴」


「ん。了解。じゃ俺は自分の部屋にいるから」


 あれほど切望していた情報を得ることにすら消極的になるとは、今のマリィちゃんの憔悴具合は俺の予想よりだいぶ酷いようだ。俺はあえて軽い口調でそう言うと、マリィちゃんの部屋を後にして隣の自分の部屋に入る。体が弱ってるなら看病もできるが、心が弱っているなら時間を置くしか無い。見ず知らずの人間が大量に犠牲になったことより、マリィちゃんを慰められないことにこそ無力感を感じるが……俺まで自分の無力を嘆いてしまったらそれこそ何も始まらない。俺は渡された情報端末に表示される文字列を1つずつ目で追っていく。


 イアン曰く、この情報端末は性能がかなり悪いらしい。技術(テクニカ)の力で情報を飛ばすには幾つも中継地点を立てなければならないが、それが根こそぎやられているので大出力で無理矢理送っても届くのはほんの僅かなんだそうだ。動作に必要なエネルギーも魔石ではなく電力なため、溜められる量も大したことがないらしい。代わりに持ち歩くだけでも少しずつエネルギーが溜まり、どうしてもと言うときは手に持って激しく振れば少しなら使えるようになるということだが、何処でも手に入る魔石を使えないのは地味に不便だ。


 勿論改善が出来なかったわけではなく、ダレルの所にある太陽光発電機ソーラーパネルの小さいのを付けるとか、この端末そのものを大きくするとか色々条件は提示されたんだが、結局俺はこれだけにしてもらった。収納鞄(ガレージバッグ)でも持っているならともかく、俺の鞄にこれ以上余計な物を入れるスペースは無い。利便性よりも携帯性の方をとった形だ。


「さてさて、どんな情報が来てるかな……っと」


 前回より格段に強く感じるようになった違和感を元に機械人(マシナリー)を送って貰っていたが、その詳細報告がつらつらと表示される。地図で確認しつつアバウトに「この辺かな?」と絞り込んだ7つの町のうち、6つまでは何も無しという報告しかない。実際何も起こってないのだから、それは当然として読み飛ばす。そして最後の7つめ。実際にソレが起こったところでの報告に目を通していき……


「うわぁ、これはどうしたもんかな……」


 あの時マリィちゃんに見せなくて良かったと、心からホッとして息を漏らす。文字と一緒に送られてきた画像データを見せていたら、マリィちゃんは一体どんな反応をしただろうか? 隠すつもりは無いが、少なくとも落ち着いた状況で見せたい。


 かなり荒い……四角くでこぼこした感じの写真。夜というのもあるしノイズもかなり走っているが、それでもはっきりと内容は見て取れる。そこに映っていたのは、フリルのついたヒラヒラのドレスのようなものを身に纏い、人形のように表情を凍り付かせた女が地面に向けて銃を構えている画像。


 マリィちゃんと・・・・・・・そっくりの女・・・・・・が、「砂の町」を作り出したその瞬間の絵がバッチリと映っていた。

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