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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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017

「まあ浪漫はいいわよ。で、これで上手くいきそうなの?」


 マリィちゃんからの問いかけに、俺は顎をひと撫でして考える。


「そうだな。攻めには使えないにしても拠点防衛としては十分だろ。こんなの倒せる奴いないだろうし……というか、他にも実質的に使える戦力はいるんだよな?」


「ああ、勿論。ガーディアンタイプが200体と、マシンノイドタイプ……普通の人間くらいの大きさの機械兵士が大体6000体くらいいるかな? 全部純技術(テクニカ)産だから、魔力防壁を無視して攻撃を通せる優れものだぜ? ドネット達には全然攻撃が当たらなかったから気づかなかったかも知れないけど」


「あ、あいつそうだったのか」


 確かに言われるまで気づかなかった。タカシやマリィちゃんはそれぞれの武器で攻撃を受け止めてたし、銃弾は全部回避した。唯一食らったのは俺が腹に刃物を一撃だが、あんな速度であんな質量の刃物が突っ込んできたら、俺の使ってる魔力防壁を付与した魔石の防御力なんて紙より薄い。


「いや、でもそしたら相当な兵力じゃないか? 世界征服できるとは思わないが、本気でこの国の軍隊ぐらいなら蹂躙できそうだ」


 征服するなら駐留する兵力が必要だから、この数じゃ町の2つ3つが精々だ。だが千とか万の塊で動く人間の軍隊相手に、魔力防壁を抜くことの出来るガトリング銃の乱射はさぞかし効果的だろう。


「あれ、でもここ霊廟なんだろ? そんなものを作れる設備とか資源とか、そういうのはどうしてるんだ?」


「ああ、それは物質複製機(デュプリケーター)を使ってるんだよ」


物質複製機(デュプリケーター)!? マジか!?」


「マジマジ。この霊廟以外にも生き残ってる遺跡ってあるみたいでさ、時々だけどデータベースの情報が更新されるんだよ。で、そのなかに物質複製機(デュプリケーター)の設計図が混じっててさ。いや、凄いよね物質複製機(デュプリケーター)。大変遷前なら考えられない装置だよ。魔術(マギ)によって魔石を純粋エネルギーに変換し、創世因子をコントロールすることであらゆる物質を精製するとかまさに神の所行だよ! あ、ちなみに創世因子ってのは世界を構成する最小単位の物質のことね。これが有るか無いか、つまり1と0の組み合わせでこの世界は成り立ってるんだ。創造神の御業を探求した結果が電子データのような二進法で成り立ってたとか、浪漫だよねぇ。もっとも、ここに至れたのは魔術(マギ)の恩恵のおかげだし、そう言う意味では大変遷も……」


「待て待て待て。また話が逸れてるし、説明されても理解できん。てか本当に精神年齢が成長しないだけで、知識は1000年分蓄えられてるんだな……悪いが専門用語っぽいのは半分すら理解できてない」


 降参とばかりに両手を挙げて手を振れば、イアンのつまらなそうに口を尖らせる。


「ちぇっ。まあいいや。とにかくここは大量にあるパーツのせいでアホみたいに機械人(マシナリー)が自然沸きするから魔石はいくらでも確保できるし、それを燃料に物質複製機(デュプリケーター)が動かせるから資源とかそういうのは気にしなくて平気だよ。

 ここまで来るのは大変だったなぁ。壊れた警備ロボのパーツが寄り集まって機械人(マシナリー)になったときは本気で驚いたし、1体倒すだけでも命がけだった。メインサーバーを破壊されなければ消えることはないけど、当時は物質複製機(デュプリケーター)なんて無かったからこのボディが破壊されたら外部に干渉する手段が無くなっちゃうからね」


「へぇ。苦労してるのね」


「苦労したよ……少しずつ少しずつ小さなパーツを製造して組み合わせて、警備ロボからマシンノイドを組み立てて。その後も部屋の拡張とか色んな技術(テクニカ)の生産ラインの作成とか、本当に大変だった。正直ある程度軌道に乗ったと思えたのはここ200年くらいからだよ。それまではずっと下積みだった。まあそれがあるからこそ、今こうして活動できているんだけどね」


「OK。とりあえず最低限の資源確保はどうにかなるわけか。となれば、子供の面倒を見たり教育したりできる人員の確保、それと物質複製機(デュプリケーター)に頼りっきりにするわけにはいかないから、最低限の食料生産を指導できる農夫を連れてこられれば、とりあえずは大丈夫か……?」


 俺は頭の中で絵図を書くが、とりあえず足りない物は思いつかない。まあこれに関しては何かあったらその都度調達・・する伝手を繋いでおけば問題無いだろう。


「ねえDD。サラッと言ってるけど、それかなり大変じゃない? 力尽くで国家として認めさせた後なら協会に依頼もできるけど、それにしたって……」


「ああ、その辺はアテがあるから大丈夫……だと思う」


「何だか頼りない返事ね……まあ私の方に解決策があるわけじゃないから仕方ないけど」


 苦笑いをするマリィちゃんに、俺も同じような顔で返す。実際確実とは言えないが、おそらくは大丈夫なはずだ。その程度の貸しはちゃんとある。これで完済か、援助の規模によってはこっちの持ち出しになる可能性もあるが、それでもここでイアンに貸しを作れると思えば十分にお釣りが来る。


「なら、これで最後の確認だ。イアン……本当にやるか?」


 これからここでやることは、片田舎で起こる小競り合いなんかじゃなく、国に対する明確な反逆行為だ。始めてしまえば後には引けず、失敗すればイアンも子供達も最悪の結末を迎えることになるだろう。


「……やるさ。ここでやらなかったら、きっともう何も出来ないと思う。各地に散らせた外部モニターで惨状を見続けるだけなんてもう嫌だ。僕は子供だから……それを仕方ないと諦めるなんてできないんだ」


 拳を握り、決意の表情を見せるイアン。それは正しく「いい男」の面構え。ならばもう止めることもない。相手が子供だからって、子供扱いしなくちゃならない理由は無い。


「なら、最後の打ち合わせだ。いいか……」


 俺は全員を集めて、その後の行動指針を説明し――






「ねえDD。聞いてもいい?」


 遺跡からの帰り道。イアンは当然遺跡で別れたし、「これで俺の依頼は失敗かぁ……いや、奪還は必須じゃないから一応成功? でもランクアップは遠のいたか……」と漏らすタカシとも別れて、今は俺とマリィちゃんの二人きり。


「ん? 何マリィちゃん?」


「今回の件……いくら何でも強引すぎない? ジェシカの伝手を使うにしても、こんなやり方あまりにも乱暴すぎるわよ」


 イアンに対する必要な人員の調達には、ジェシカの助けを借りることにした。彼女なら表に裏に色々と伝手がある。表向きの人員だけじゃなく、裏で立ち回って貰えばイアンの立ち位置はそれなりに安定させることができる。


 だが、あくまでそれなりだ。まともな頭があれば、こんなことさせるべきじゃない。俺が得られる利益に対して、あまりにも負債が大きすぎる。可能な限り不殺を心がけろとかのアドバイスもしたが、それにしたって国と対立する新たな国の設立に関わるなんて正気の沙汰じゃない。


「サンティみたいな身内が恒久的に目を付けられて、改革しなきゃどうしようもないってくらいまで追い詰められてるならまだわかるけど、今回はそうじゃないでしょ? 子供を助けたいって気持ち程度じゃ、ここまで大事にして早期に効果を出す手段を選ぶ理由には弱すぎるわ」


「流石マリィちゃん。俺のこと良くわかってるなぁ……ひょっとして惚れちゃった?」


「ふざけないで」


 いつもとは違う、真剣な返し。一蓮托生の相棒(パートナー)であるマリィちゃんにとっても、今回の俺の行動は決して看過出来るものじゃないんだろう。それでも何も言わずに最後まで合わせてきてくれたのは、これまでに築き上げてきた信頼故。


 だからこそ、俺はそれを裏切らない。そのためにこそ、この巨大なリスクを背負った。イアンの……使い捨てに出来る戦力・・・・・・・・・・を手に入れるために、こんな話をでっちあげた。それが必要になるときが、もう間もなくやってくる。


「マリィちゃんさぁ……俺と始めて出会った時のこと、覚えてる?」


 一見すれば、さっきまでとは何の関係も無い台詞。でも、その問いかけは俺たちにとって特別なものだ。


「あの時と同じ感じがするんだ。いや、あの当時より濃く混ざっちゃったせいで、より強く感じるのかな? 2回目だけど、間違えようが無い」


 世界から、引っ張られる感じ。俺の体に混ざった何かが、特定の方向に引かれている奇妙な感覚が、瀕死の重傷から立ち直った時からひしひしと感じられている。これでただの勘違いだったらリスクの背負い損だと笑うしかないが、むしろ笑うだけですませられるならそっちの方がいいだろう。


 だが、現実はそんなに甘くない。最悪の時は、いつだって突然にやってくる。


 ダレルの家に行って、そこにいたソバーノ氏から連絡を付けて貰い、ジェシカに頼み事をしてやっとのことで本拠地(ホームタウン)まで戻ってからしばし。「無垢な子供を誘拐して労働力とする世界最悪のテロリストが、不遜にも国家の樹立を宣言」というビッグニュースが話題の隅に追いやられるほどの大事件が、唐突に、だが予想通りに発生した。


「砂の町の悪夢 再び」

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