016
「お、おぅ? そうか?」
突然「お前悪い奴だな」と言われても、俺としてはそのくらいしか返しようが無い。
「ちょ、アニキ! そうじゃない、そうじゃないって! そこは『いえいえ、お代官様ほどでは……』って返さないと!」
「おっ、タカシったら解ってるじゃん! そうだよね、それがお約束だよねぇ」
「そ、そうなのか? いや、そもそも『オダイカンサマ』ってのがもう解らないんだが……」
「えぇー……駄目だなぁドネットは」
「駄目駄目っすよアニキ……」
「うぅぅ……ま、マリィちゃん。何か俺凄い責められてる感じなんだけど……」
「そうね。DDは生粋の駄目男ね」
「マリィちゃんまでまさかのそっち側!? 何だこの状況……」
突然の意味のわからない流れに翻弄され、もう何度目かわからないくらい頭を抱えた俺を見て皆が笑う。まあとりあえずタカシが元気になってきたならこのくらいはいいだろう。いい男の懐はいつだって深くて広い。
「ってかアニキ。さっきの話だけど、普通にここに孤児院を作るんじゃ駄目なのか?」
もっともな疑問を問うてくるタカシに、だが俺は首を横に振る。
「駄目だな。イアンの行動のキモは、『権力者に弄ばれる予定の子供を誘拐してくる』ことにある。こいつを繰り返して子供を商うのは割に合わないと思わせるには、個人じゃ都合が悪いんだよ。
考えてみろ。個人でそんなことをすればただの犯罪者だ。国から討伐の命を受けて攻めてくるのは何の罪も無い一般の兵士だろうし、攫ってきた子供だって法の名の下に連れ戻すことができる。だが、相手が国家ならどうだ? 国ぐるみで他国の子供を拉致する最低のならず者国家と揶揄されるだろうが、その国には誰でも入れるし子供達にも会える。そこで会った子供達が平和に暮らしているとしたら、その国を非難し続けるのは第三国には難しくなる。
それに、他国なら無理矢理子供を連れ戻すこともできない。それをやって『自国の民を取り戻しただけだ』と言われても、こっちだって『自国の民を攫われた』と表明することで議論を平行線にできる。犯罪者として一方的に叩かれるだけの時とは大違いだろ?
つまり、わざわざ大罪を覚悟して国を興すってのは、国家を相手に対等の発言権を得るためにはどうしても必要なんだよ。一方的に潰されないための必要不可欠の条件ってことだな」
ちなみに、裏の条件として国家として事実上成立させてしまいさえすれば、もし万が一俺が関わったのがばれても罪に問えないというのもあるんだが、これは口にしない。最低限の保身くらいは見逃して欲しいところだ。
「ほえー。アニキって色々考えてるんですね」
「当然だろ? いい男はいつだって用意周到なのさ。で、イアン。この計画の一番重要な部分である軍事力は用意できそうなのか?」
そう、この戦力が生半可なものであれば、この計画の実現性はゼロになる。1000年ここにいることやさっき交戦したガーディアンの戦闘力を鑑みて提案してみたが、実際にはどんなところか……
「ふっふっふ。それは心配無用さ」
だが、そんな俺の懸念など笑い飛ばすように、不敵な笑みを浮かべたイアンが高々と右手を掲げ……その瞬間。
「うぉぉ!? 何だ!?」
ずしんずしんと振動が響き渡り、部屋の奥の暗闇から、何か巨大な物がこちらに移動してくる。見上げるほどの巨体。圧倒的な質量。黒く輝く装甲に覆われた、それはまさに金属の獣。
部屋の天井に太陽の如き煌々とした明かりが灯り、白日の下の晒されたそれは、俺の10倍以上の高さの位置に顔を持つ、4つ足の巨獣だった。
「なん、だこりゃ……」
「これは……ちょっと……予想外ね…………」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 何だこれ超スゲェ! ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
絶句する俺とマリィちゃんに、興奮しすぎて奇声を発するタカシ。そんな俺たちを見て、イアンが実に満足げな表情をする。
「バカシはともかく、やっとドネットとマリィを驚かせられたね。これこそ対ドラゴン用の決戦兵器。その名もベヒモスさ」
「これはまた、とんでもない物が出てきたな……対ドラゴン用ってことは、こいつはドラゴンを倒せるのか?」
「勿論! 口の中に仕込まれた『ドラゴンスレイヤー』はベヒモス体内にある粒子加速器で加速された陽電子でコーティングすることで、内部に蓄積された莫大な熱エネルギーを指向性を持たせて放出することに成功した兵器で、ドラゴンの鱗だって易々貫けるんだ。瞬きする程の時間すら許さず、500km先の目標を打ち抜ける最強の一発なんだぜ!」
「ふーむ。言ってることは半分以上解らないが、まあドラゴンを倒せる機械人だってことはわかった。で、弱点は?」
冷静に聞いた俺に、イアンのテンションが一気に下がる。
当然だが、こんな兵器に弱点が無いわけが無い。もし運用に問題が無かったなら、とっくに俺たちはこいつを地面に並べて空を取り返していたことだろう。そうできないだけの理由がこのベヒモスとやらにはあるはずなのだ。
「弱点は……まあ、あれだよ。体がでかいから攻撃が回避できない。丈夫に出来てはいるけど、ドラゴンの攻撃を無効化できるほどじゃないからね。それと、1発撃つのにチャージが3分かかる。製造コストも……ドラゴンの魔石で物質複製機を動かすとしたら、大体100個分くらいかな……」
「……それ、欠陥兵器よね?」
ドラゴンは基本単独行動だが、同族が攻撃されるとその場所に群がってくる習性がある。つまりこいつの場合、最初の1匹のドラゴンは確実に殺せるが、その後3分間周囲から集まってきたドラゴンにフルボッコにされ続け、その後も3分に1匹しか倒せないということだ。逃げも隠れもできずにドラゴンに攻撃され続けたら、いくらこいつが頑丈でもそうは保つまい。地上への被害を顧みないなら、いっそ自爆でもした方が倒せるドラゴンの数は増えそうだ。
「仕方ないじゃないか。ちゃんと有効な対ドラゴン兵器なんて当然極秘扱いなんだから、こんな所にデータがあるわけないじゃない。ここはあくまで霊廟で、軍事基地とかじゃないんだから……」
「まあそう言われたらな。でもじゃあ、何でこんなもの作ったんだ? 世界征服に使うにしたって、さっき見た移動速度じゃ実用性皆無だろ?」
「それは、その……浪漫があったから……」
俺の言葉に、イアンが目を背けてそう呟く。つまりイアンは、「格好良かったから」「作りたかったから」なんて理由でコレを作っちゃったわけか。いくら1000年の時間があったとはいえ、莫大な資材とエネルギーを消費して、こんな役立たずを作っちゃったわけなのか。その気持ちは……まあ解らなくもない。
「浪漫か……それじゃまあ、仕方ないな」
「そうだよアニキ! 浪漫じゃ仕方ないよな」
「あ、わかってくれるかい!? そうだよ、これは男の浪漫なんだよ! 長い人生には浪漫は必要不可欠だったんだよ!」
「男の浪漫」という単語で繋がり、俺たちは互いに肩を叩き合う。実際イアンが1000年も自我を保てているのは、大人ではなく子供として産み出され、こういう遊び心を失っていないからだとも言える。であればそれは歓迎すべき事だ。少なくとも俺の金じゃないものを消費して達成された浪漫は、俺としても大いに楽しめる。
「はぁ。本当に男ってのは、いつまで経っても子供なのね……」
そんな俺たちを呆れたように見つめるマリィちゃんの顔は、少しだけ優しく微笑んでいた。




