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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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015

 亡霊。自らを総称したイアンの言葉は続いていく。


「1000年前っていうか、大変遷の前だね。その頃って、今と違って人が滅多に死ななかったんだよ。完全に生身だとせいぜい130年くらいだけど、体の一部を機械に置き換えたりすれば300年くらいは普通に生きられたし、全身を完全機械化すれば理論上は無限に生きられたんだと思う。実際には大変遷が起きちゃったから、試す方法は無くなっちゃったけどね。


 で、人が死なないってことは当然そのままだと人口が増える一方になっちゃうから、かつての世界では子供を作るのって厳しく規制があったの。それこそ無許可で子供を作ったりしたら重罪になるくらい。だから今の世界は驚きだよ。こんなに簡単に子供が作れて、しかもそれをぞんざいに扱ったり端金で売り渡したりね。前の世界では新しい命を産み育てる権利は世界最高の宝だったから、それを換金するなんて発想自体無かったしね。


 そんな世界だったから、僕という子供を作った両親はそりゃあもう大はしゃぎだったんだけど……かつての世界でも、人が死ににくいだけで死なないわけじゃない。ちょっとした事故であっさり死んじゃってさ。今だったら高度な回復魔法とかで助かる可能性もあったけど、魔術(マギ)なんて存在しない時代ではそれも無理で……でも、両親は僕を諦めきれなかった。町中に張り巡らされたネットワーク、そこに散らばったありとあらゆるデータをかき集めて、僕という人格を再現し、そしてここに入れた。人格データを用いて死者を再生する霊廟。それがこの地下施設なんだ」


 そこまで言うと、イアンは一度大きくため息をつき、その身を椅子にゆだねた。何となく言い切った感じを出しているが、俺としては理解出来ない単語が多くてこのままでは困る。


「あー、結局どういうことなんだ? 俺みたいに死んで生き返ったのとは違うのか?」


「えっ!? ドネットって一度死んで生き返ってるの!? 何ソレ詳しく!」


「待ってDD。話がややこしくなるから下手なこと言わないで。イアンもDDのことは後で話すから、今は貴方の話を確認させて頂戴」


 マリィちゃんに手で制されて、頭を抱える俺と目を輝かせるイアンの動きが共に止められる。


「流石マリィちゃん。いい男といい子供の両方の手綱をさばけるとか、憧れちゃうなぁ」


「はいはい、いいから。で、イアンは……結局の所、人間とは違うの? 違うとしたら何が違うのかしら?」


「そうだね……一番の違いは、成長できない・・・・ってことかな? ここはあくまで故人を偲ぶ目的の場所だから、成長して変化しちゃうと別人になっちゃうだろ? だから死んだ当時の人格を維持し続けるために、成長する余地を与えられていないんだ。知識そのものは外部データベースに保存できるんだけど、基本的な人格データには改変許可が無いんだよ」


「つまり、貴方はずっと10歳当時のままで変わらないってこと?」


「そうそう。知識は増やせるけど知恵を身につけることができない。それでも外部データから類推することで多少の『経験』として扱うことはできるんだけど、それも限界があるしね。多分今くらいが僕が発揮出来る『成長』の上限だと思う。改変禁止のプロテクトを外せれば別だけど、管理者権限を持ってる人はもうとっくにいないだろうしね」


「……何かまた未知の単語が増えたんだが……」


「あはは、ごめんごめん。まあ僕は僕で、ここから変わったりしないってことだよ」


 更に深く頭を抱える俺に、イアンが笑ってそう答える。だが、変わらない……そうか。それなら一つ、目の前の問題を解決する方法が思いついた。


「なあイアン。お前機械人(マシナリー)を操れるんだよな? さっきのあの……ガーディアン? とかそう言うのってどのくらいいるんだ?」


「おっと、何だい急に? ここに来て僕の戦力調査?」


 瞳に剣呑な光を宿すイアンに、俺は余裕の笑みで答える。


「いや、ちょっとイアンの望みを叶える方法を思いついてさ」


「おおっ! 本当!? どんな!? どんな!?」


「いや落ち着けって。だからそれはイアンの戦力次第なんだが……世界征服なんて面倒なことをするんじゃなくて、いっそここに本当に国を作ってみるのはどうかと思ってな」


「えっと……?」


 理解が追いつかないのか首を傾げるイアンに、俺はニヤリと笑みを返す。


「子供を助けたいってだけ・・なら、世界征服は効率が悪すぎる。出来ることが多くなりすぎて手が回らないからな。だが既存の枠組みの中で無理矢理子供を拉致しても単なる犯罪者だ。それじゃ世間の賛同は得られないし、助けた子供を送り出すことだってできない。ならどうすればいいか? 子供を助けるのを合法にしちまえばいい。つまり……国家という形で孤児院を経営したらどうかって思ったのさ」


 俺の言葉にイアンは目を丸くし、マリィちゃんは楽しそうに笑っている。さっきまでうちひしがれていたタカシすらこちらに興味を向けてくる。これはなかなかに語り甲斐がありそうだ。


「子供を匿うだけならここでも十分だろうが、日の当たらない地下で一生過ごさせるなんて奴隷生活と大差ない。それを回避したいならどうしたって地上に拠点を構える必要があるが、今のままじゃ人目に触れた瞬間強制連行されてしまう。それを解決する一番手っ取り早い方法が、建国ってわけさ。


 国を作るのに必要なのは、国土と国民と軍事力だ。国民は子供達でいいし、国土は誰もいないところがいいが、イアンがここから動けないならまあこの周辺を適当に奪い取ればいいだろ。で、最後は軍事力。自分の国の中で『今日からここは俺の国だ』なんて宣言する奴が出たら、一瞬で鎮圧部隊が出てくるに決まってる。だがそいつらを圧倒出来る軍事力があれば? ギリギリ拮抗とかじゃなく、どうやっても勝てないくらい強力な軍勢を用意されたら、口で何と言おうと認めるしかなくなる。


 イアンが普通の人間ならこんな手段は進めないが、基本的に不老不死で、かつ絶対に性格が変わったりしないんだろ? なら統治者としては最適だ。子供の面倒を見たり教育を施せる少数の大人程度なら十分目が届くだろ? そこから始めてここで農夫や世話役、教育者に子供を育て上げ、それを連綿と繰り返すことで不正を入り込みづらくしていって……まあ要はいきなり世界なんて大規模なことを言うんじゃなく、小さな村くらいから始めてみたらどうだってだけの話ではあるけどな」


 言ってしまえば内乱だ。他人に聞かれればその時点で賞金首に祭り上げられ、国中から掃除人が集まってくるのは想像に難くないが……俺が関わったとばれなければ問題ない。そもそもこの手の腐敗はよほど時間をかけて国の内部に根を張り、政治的な力を得たうえで解決するくらいしか罪に問われない方法は思いつかないんだが、そんなことをイアンができるとは思えない。となればいっそこのくらい思い切ってしまった方が成功率が高そうな気がする。


「凄い、凄いよドネット! そうか、最初から全部を救おうとするんじゃなく、段階を踏んで救える数を増やせば良かったのか。というか、その程度のことにすら気づけないほど僕の視野は狭いのか……でも、これで『生涯で一度は言ってみたい台詞』のひとつが言えそうだよ」


「ん? なんだそりゃ?」


 俺の言葉に、イアンは目を細めて口を釣り上げ、いかにも悪人っぽい感じの表情を作ってこう言った。


「ドネット、そちもワルよのぅ」

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