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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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013

『じゃ、ちょっと待ってね』


 小さな四つ足の機械人(マシナリー)に先導され、やってきたのは地下1階。最下層である地下2階じゃないのは、「さらに下があれば調査が甘くなるからね」とのこと。伊達に1000年も発見されずに活動してきた訳ではないということだろう。


 程なくして、何の変哲も無い突き当たりの壁にしか見えなかったところが僅かにへこみ、更に横に動いて入り口となる。その作りは協会の入り口にある自動ドアに近い感じで、これは確かに普通の掃除人には見つけられないだろう。少なくとも俺には、ここに扉があるとわかっていても開くことは出来そうに無い。


「タカシの時に行った遺跡もそうだったけど、1000年前の建築物ってこういう仕掛けばっかりなのかしら? もしそうなら『枯れた』と言われてる遺跡を再調査したら、色々新発見がありそうね」


「あー、そうだね。俺は絶対やりたくないけど」


「だよなぁ。ノーヒントで全部の壁に体当たり、しかも隠し部屋が必ずあるとは限りません、なんて60階建ての塔で宝箱を探すより理不尽だよ。やりたくねー」


 そんなことを話しながら、俺たちは入り口すぐの階段を降りていく。壁一枚隔てただけだというのに、ここはもう『遺跡』じゃない。壁の至る所に薄い緑色の光る線が走っているし、壁や天井、足下なんかにも定期的に照明が配置されていて、暗視が無くても行動に何の支障も無い。道幅自体は人一人分程度なので狭くはあるが、天井は割と高いので閉塞感はそこまででもない。


『君たち本当にリラックスしてるよね。一応僕たち、ちょっと前まで命のやりとりをしてたはずなんだけど……』


「まあ、慣れてるからね」


「そうね。ちょっと前も殺されそうになった相手と仲良くなって、別れ際にはキスまでされてたものね?」


「おっとマリィちゃん。そんな前のことを今更持ち出すなんてどうしたの? ひょっとして、今更ながら妬いちゃった?」


「妬かないわよ。仮に妬くとしても、対象が逆ね」


「いや、それは本気で自重しようよマリィちゃん……」


 馬鹿話をしつつ、俺は慎重に足を下ろして階段を降りていく。もう100段ほど降りたが、ここまで来ても1段の高さに差は無いように感じる。この長い階段で距離を化かされる可能性は低そうだ。


「それにしても長い階段だな。なあ、えっと……」


 イアンに声をかけようとして、タカシが言葉に詰まっている。まあタカシは実質マリィちゃんの授業を受けていたようなものだから、イアンの名前を忘れてしまっていても仕方ないと言えなくも無い。


『……イアンだよ。バカシ』


「誰が馬鹿だよ!? じゃなくて、こんな長い階段不便だろ? エレベーターとか無いの? あ、エレベーターってのは、四角い箱で、乗ってると自動で上がったり下がったり……」


『ああ、わかってるから大丈夫。勿論エレベーターもあるけど、そっちの方が良かったのかい? あれだと完全な閉鎖空間で乗った瞬間に僕に生殺与奪の権利が発生するから、嫌がるかと思ってこっちにしたんだけど……』


「うっ、それは……」


 イアンの気遣いに自分がどれだけ抜けていたかを指摘され、タカシの顔が大きく歪む。この辺の警戒心はまだまだ未熟なようだ。


「はぁ。まああの加護に慣れてたタカシには難しいんだろうが、気の抜き方と警戒の仕方はしっかり体に馴染ませておけよ? 両方を均等に鍛えてないと命に関わる必須技能だぞ?」


「うぅぅ、精進します……」


「まあ頑張れ」


 殿にてしょんぼりと肩を落とすタカシ。もうちょっと道幅があれば少し下がって肩のひとつも叩いてやりたいところだが、ここはすれ違うことすらできない細道だ。足を止めねば振り向いているのが精々なので、今は慰めの言葉ひとつで立ち直るのを期待しておこう。


 そんなことを話している間に、俺たちは階段を降りきる。一段の高さや降りた段数から考えると、大体地下15階くらいだろうか? あの遺跡が地下2階までだったことを考えるとかなり下だが、その間が何も無いのか、あるいは見せたくない物があるのかは知りようが無い。ともあれ目の前の壁がまたしても横に動いて開き、今までよりもずっと広い通路へと入っていく。


『じゃ、僕は先に戻って準備をしておくから、君たちはこのまま真っ直ぐ進んでね。下手なところに入ろうとすると自動防衛システムが動くから、その場合は命の保証はしないし、場合によっては積極的に攻撃させてもらう。いいかい?』


「OK。問題無い」


 誰だって自分の家で暴れられたら怒るだろう。同意して頷いた俺を確認して、イアンの操る小さな機械人(マシナリー)が動作速度を上げ、一気に通路を奥へと走り抜けて行った。これでこの場に残されたのは俺たちのみ。


「じゃ、行こうか。タカシ、変なところ触るなよ?」


「触らないっすよ!」


 拗ねたように言うタカシに、俺は今度こそ肩を叩いてやる。ここなら3人並んで歩ける程度の道幅があるから、俺たちはそのまま奥に向かって歩き始めた。


「ここはさっきまでの場所とは雰囲気が違うのね」


「そうだね。まああそこは非常用の通路とか、そんな扱いなんじゃない? 明らかに狭かったし」


 歩きながら辺りを見回せば、今歩いている場所は白を基調とした普通の通路だ。建築規模を別にするなら、似たような建物は遺跡に限らず現役で人が利用する施設にもいくつも存在する。


「オレはさっきまでの通路の方が好きだな。金属っぽい黒い壁に緑の光るラインが走って、照明も暗くないと言える程度の最低限とかめっちゃSFっぽかったし! ああいうのってワクワクするよな!」


「あー、確かに浪漫は感じたな」


「そうなの? 私はああいうのは……ほら、黒に緑の筋とか、何か虫っぽいし……」


 目を輝かせて浪漫を語るタカシに対し、マリィちゃんの表情は冴えない。いつもより警戒心が強い感じがしてたけど、敵地だからじゃなくそっちが原因だったのか……


「あれ? マリィさん虫とか駄目なの?」


「駄目とまでは言わないわ。虫型の魔物だって普通にいるもの。ただ好んで関わりたいとは思わないわね」


「そっか。マリィさんにも苦手な物ってあるんだ……」


 それは何の気無しの呟きだったんだろうが、だからといって聞き流して貰えるかどうかはマリィちゃんの気分次第だ。そして今回は駄目だったらしい。


「……一応言っておくけど、私に虫をけしかけたりしたら一生後悔することになるわよ? 記憶を消して元の世界に戻ってなお忘れられない素敵な思い出を魂に刻み込んであげるわ」


「怖っ! マリィちゃん怖っ!」


「……オレ、絶対マリィさんは怒らせないようにしよう……」


 鮮やかににこやかに、優しく笑ってマリィちゃんが言う。だがその瞳の奥底に燃える煉獄の炎を感じ取れば、一歩先が死地であることはタカシにだって容易にわかるだろう。俺の方は完全にとばっちりなんだが、それでも背筋に冷たい物を感じて思わずプルリと身を震わせてしまう。


「ほら、馬鹿な事言ってないで。ついたわよ」


 いくつかあった扉の閉まった部屋や、防壁のようなものが降りた分岐路と思われる場所を無視して直進し続けた結果、俺たちの目の前には大きな扉がある。それは俺たちが前に立ったことに反応するかのようにゆっくり遠くへと押し開かれ、その先にあったのは……空間だ。部屋と呼ぶにはあまりに広く、奥行きも左右の壁も、天井すら見えない。そんな場所に革製と思われる大きな茶色い椅子だけが、ぽつんと据え付けられている。


「ようこそ僕の城へ。改めて自己紹介しよう。僕がこの国の王。イアンだ」


 さっきまでとは違う、生身の人間の声が響き、椅子がくるりと回転する。そこに座っていたのは……10歳ほどの、人間の男の子だった。

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