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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
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008

 ハゲマッチョとのトラブルを終え、何となくそんな気分じゃ無くなった俺たちは、協会を出て町をぶらぶら歩いていた。


「どうするマリィちゃん? 酒場で依頼探し直す?」


「うーん。それでもいいけど、それなら夕食の時とかでもいいでしょ? なら、とりあえず町を見て回って……ああ、一応消耗品とか補充しておこうかしら」


「そっか。あー、じゃあ俺もちょっと素材屋行こうかな? そろそろ黒色火薬(ブラックパウダー)仕入れておきたいし」


「貴方の(それ)、本当に不便よねぇ。弾丸も自作なんでしょ?」


 呆れたように言うマリィちゃん。そう、矢ならともかく、火薬式の実弾銃なんて使ってる奴は……いや、浪漫を解っている玄人はほぼいないため、完成した弾丸そのものを売っている場所は極めて、極めて、極めて稀なため、俺は弾丸を自作している。


「まぁ、自作って言っても、材料そのまま自動組立機(オートクラフター)に突っ込んでるだけだけどね。物質複製機(デュプリケーター)があれば材料すらいらなくなるけど」


 自動組立機(オートクラフター)は、作りたい物をスキャンして、その材料を突っ込むと、自動で完成品を排出してくれるという非常に便利な技術(テクニカ)だ。一方物質複製機(デュプリケーター)は、魔力……たいていの場合は莫大な量の魔石を燃料にして稼働し、登録した物質をそのまま複製するという、トンデモ装置である。勿論、物質複製機(デュプリケーター)の方が価値は圧倒的に高い。


「馬鹿言わないでよ。物質複製機(デュプリケーター)なんて国レベルで保有するものよ? 個人で手に入れられるわけがないし、仮に手に入っても、運用出来る量の魔石の確保なんてできないわ」


 物質複製機(デュプリケーター)で物質を複製する時に使う魔力は、元になった物質の価値の、おおよそ10倍くらいになる。希少資源が枯渇する心配は無くなって久しいが、資源そのものが無限になってるわけじゃないのが、この世界の現実だ。でなかったら、とっくにみんな遊んで暮らしてるだろう。


「まあいいわ。それじゃ、とりあえず夕食くらいまで別行動にしましょうか? 適当な時間になったら、いつもの酒場でってことで」


「了解。じゃ、また後でねマリィちゃん」


 手を振って……まあ俺だけだが……別れると、俺は通い慣れた道を歩き、行きつけの素材屋へと向かう。

 たどり着いた先の、いつ来ても何も変わらない感じに目を細めて、俺はドアベルを鳴らしながら店へと入っていった。


「ちわー。おっちゃんいるー?」


「誰がおっさんだ! 俺のことはナイスミドルと呼べ!」


 店の奥から野太い声が響いてきて、見覚えのある親父が顔を出す。でかい体、彫りの深い顔。トレードマークの緑の前掛けには、「素材屋 ライオ」と白地で書き込まれている。


「うわ、全然変わんないや。久しぶり。元気そうだなおっちゃん」


「だから……って、おう、ドネットじゃねぇか! 久しぶりだなオイ! 元気だったか? 童貞は卒業できたか?」


「うっ……えぇ、何で会う人会う人それ聞いてくるわけ? みんな俺の童貞に興味津々なの?」


「いや、全くもって、これっぽっちも興味ねぇな」


「なら何で……まあ、本気で興味をもたれる方が嫌だからいいけど……俺が言えることは、いい男は些細なことで焦ったりしないってことかな」


「そうか。で、今日は何だ? また黒色火薬(ブラックパウダー)か?」


「自分から聞いておいてスルーかよ……ああ、そう。在庫ある?」


「あるぜ。ちょっと待ってな」


 そう言って、おっちゃんは一端奥へと引っ込むと、すぐに一抱えはある密閉された箱を持ってきた。


「ほれ、10キロある」


「多くない? 700発も弾丸作っても、俺持ち歩けないんだけど」


「オメェがしばらく顔見せなかったのが悪いんだろうが! この手の需要が少ない品は、一回いらないって言っちまうと、次から入荷しづらくなるんだよ」


「あー、まあそうか。それなら全部買うよ。金は……あるけど、保管場所がなぁ」


「いくらかなら俺の店においてやってもいいけど、そんなに長くは預かれないぜ? そもそもこれからだって、少量ずつでも入荷はあるだろうしな」


「そっか。うーん。やっぱり収納鞄(ガレージバッグ)が欲しいなぁ」


 収納鞄(ガレージバッグ)とは、高度な魔術(マギ)によって内部空間が拡張された鞄のことだ。見た目より大量に物が入ったり、最高級だと持ち主の手が触れていない物体の運動エネルギーの移動をゼロにすることで、擬似的に時間を止めるみたいな効果を発揮するようなものもあるらしいが、当然そういうのはあり得ないほど高価なので、俺には多分一生縁が無い。


「B級の稼ぎなら、100キロぐらい入る奴なら十分買えるんじゃないか?」


「普通ならそうなんだろうけど、俺はほら……」


 そう言って、俺は目の前の箱に視線を落とす。それを見て、おっちゃんも深く頷きを返す。


「そりゃ、矢よりずっと金がかかる飛び道具を使ってたら、そうなるか。

 俺が言うのも何だが、魔導銃には代えないのか?」


「これは、俺の相棒だから」


 腰から引き抜いた銃を見せて、俺は笑う。そう、これは俺の相棒。これ以外の武器を遣う気は無い……とまでは言わないけど、これを手放すことだけは、俺が生きている限りあり得ない。


「まあ、好きにすりゃいいさ。それが不便だったり、そのせいで命を落とすことがあったとしても、テメェで決めた生き方なら、それを全うすりゃいい」


 深く頷いて同意してくれるおっちゃん。だからこそ、ここが俺の贔屓の店ってわけだ。

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