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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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007

 一段ずつ慎重にに階段を降り、何事も無く地下2階へと辿り着く。足下にはD級やC級に成り立ての奴らならお宝、そして俺たちにとってはガラクタの山が床が見えないほどに溢れかえっている。もしここに無事な機械人(マシナリー)が隠れていれば不意打ちには絶好の場所だろうが……まあ流石にそれは無理だろう。というか、機械人(マシナリー)に不意打ちなんて高度な戦略を取る知能は無いしな。


 そんなゴミの山を転ばないようにさらに慎重に進み、やっとそれが途切れたところは通路の分岐点。目の前の通路は右と左と奥の3本に別れる。

 と言っても左側はすぐに行き止まりのはずなので、実質的には右か奥の2択であり、更に言うなら俺たちが用があるのは奥だけだ。


「何もいない……か?」


 出発前に2本目の暗視の魔法薬を継ぎ飲みした俺の視界には、動く物は何も映らない。あれだけの敵を駆逐したのだから当然と言えば当然だが……逆に言うなら有象無象を倒しただけなので、油断をする気にはなれない。


「私の方でも何も見えないわね」


 上等な魔法道具を持っている関係上、俺たちの中で最も優れた暗視能力があるマリィちゃんも敵影は発見できないらしい。


「オレの方も異常なし……かな?」


 そして最後、ライトの魔法を発言したタカシの言葉にて周囲の確認は完了だ。ちなみにライトの魔法で明かりがあるのに俺が暗視の魔法薬を飲んでいるのは、確実に戦闘があるとわかっているのに遠距離攻撃が主体の俺が「暗くて見えませんでした」では話にならないからだ。光の当たらない影からこそ敵が攻めてくるものだし、ここで暗視の薬程度をけちって命を削るのはあまりに馬鹿らしい。


「よし、進むぞ。隊列は今のまま。道の誘導はマリィちゃんに任せる。タカシは後方の警戒を強めにしてくれ。またあんな大軍がなだれ込んできたら撤退すら厳しいからな」


 俺の指示に二人の了承が重なり、俺たちはゆっくりと前進を始める。何も出ない通路を順調に踏破し、半ばほどの道行きを何の障害も無く歩ききり、ひょっとして本当に敵を倒しきってしまったのかと思い始めた時、それは突然に現れた。


「待って」


 静かな、だが強いマリィちゃんの声に、俺とタカシの足が止まる。今居るのは隣の通路に通り抜けるために入った、やや広めの部屋。縦に細長い作りで、目的の通路に出るには奥の出入り口に行かなければならないため、俺たちは必然的にこの部屋の中を通る必要があるわけだが……


「何? どうしたのマリィちゃん?」


「ねえ、あれ変じゃない?」


 指摘された方に視線を向けるも、俺の目には特に何も映っていない。強いて言うなら柱があるが、部屋の大きさからして柱の一本くらいあっても特に不思議ではない。


「あれって、柱? いや、柱ぐらいあっても普通じゃない? 位置もおかしくないし」


「そうね。あの位置に柱があるのはおかしくないわ。でもおかしいのよ。部屋の中心に1本だけ立ってるならわかるけど、奥よりに柱が立ってるってことは、手前側のこっちにも柱が無かったら変でしょ?」


「ああ、そう言われれば。崩れたとか……でも無さそうだね」


 マリィちゃんに指摘されて、俺は自分の側の床と天井に目をやるが、そこに柱があった痕跡は無い。となると、あの柱は一体……?


「アニキっ!?」


 思考の海に沈もうとした俺の意識を、タカシの鋭い声が引き戻す。見れば柱がブルブルと震え、その形を変えて動き出そうとしている。


「敵だ! 総員警戒!」


 声に出して警告し、マリィちゃんとタカシがはじかれたように俺の前に飛び出す。その手には武器もしっかり握られ、戦闘準備は万全だ。


「タカシ、ライトの光量をあげられるか?」


「了解。魔力の残量はまだまだ余裕だから平気だぜ?」


 俺の言葉に従って、タカシの発言するライトの魔法の光が強くなる。部屋の中から闇が取り払われ、柱だと思っていた物の全貌が明るみに晒されると、その異形に俺は思わず言葉を失う。


「何だこりゃ……」


「これはまた、随分と大物が引っかかったものね」


 そこに居たのは、金属の巨人。柱のように見えていたのは、両手と両足を真っ直ぐに伸ばして立っていたからのようだ。だが今はそのイカしたポーズを辞めて、こちらを威嚇するように両腕を軽くあげている。

 腕も足も太い金属の棒で出来ており、その隙間からはまるで筋肉のように色とりどりのケーブルが見えている。四角い頭部には大きさの違う3つのレンズが取り付けられ、時折カシャカシャと切り替わって俺たちを観察しているようだ。手にも足にも指はなさそうだが、足にはローラーの様なものがあり、手の方は右手はいかにも良く切れそうな刃物が、左手の方は見たことのある感じの細長い筒が円筒状に並んで……要はガトリング銃が取り付けてある。ボディは完全に硬そうな金属プレートで覆われていて、魔石の存在は確認できない。


 明らかに普通の機械人(マシナリー)とは違う。こうして対峙するだけでも、さっき階段のところで蠢いていた数え切れない機械人(マシナリー)たち全てを合わせても、こいつには届かないということがわかる。こいつは……強い。


「気をつけろ……部屋にある遮蔽物の位置を今のうちに頭に叩き込め。剣はともかく銃弾の雨はかわせないだろ?」


「あの時のハゲといいジェーンと言い、どうして私の前に立つのは落ち着きの無い奴ばっかりなのかしら? 重い一発なら真心込めて受け止めてあげるのにね」


「くはぁー。剣と魔法のファンタジー世界なのに、何で敵がロボなんだよ。浪漫はあるけど夢はねぇなぁ」


 軽口を叩きながらも、二人ともしっかり部屋の遮蔽物になり得る物に視線を向けてチェックしている。あとはこの机やら何やらが、奴の銃弾に多少なりとも耐えられる程度の強度があることを祈るばかりだ。


「よし。じゃあ……行くぞ!」


 宣言し、俺はまず奴のボディに1発撃つ。狙い違わず飛んだ銃弾は防御も回避もしなかったデカブツの胸に見事に着弾し、カンッという高い音を響かせてはじけ飛ぶ。かすり傷がついたかどうかまではわからないが、少なくとも有効なダメージを与えられたとは到底思えない。


「チッ、やっぱり効果なしか……っと!?」


 ノーダメージだったとはいえ、デカブツの注意は俺に向いた。その左腕が俺に向けられ、僅かなスピンアップの後放たれた銃弾の嵐が、俺が一瞬前までいた場所に容赦なく破壊の雨を降らす。体勢が崩れるのを気にせず全力で横っ飛びしなければ、今頃俺はミンチになっていただろう。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 デカブツの意識が俺に向いた隙を突いて、タカシが奴に切り込んでいく。だがすぐにその3つの目がタカシを捉え、弾を吐き出し続けたままの左腕をタカシの方へと向ける。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 さっきの勇ましい雄叫びとは違って、焦りの混じった声を上げてタカシはすかさず近くの遮蔽物の影へ。ガンガンというやかましい音が鳴り響いているが、どうやらここの机やら棚やらはギリギリ奴の銃弾を防げるらしい。と言ってもあんなペースで撃ち続けられれば、あっという間に壊れて役に立たなくなるだろう。そう、撃ち続けられれば・・・・・・・・・


「ふっ!」


 俺のように攻撃するわけでも、タカシのように雄叫びを上げるわけでもなく、静かにだが素早く移動していたマリィちゃんが、無音のまま小さく息を吐いて渾身の力で爆裂恐斧をデカブツの腹に叩き込む。その威力は流石の金属ボディとはいえ完全に耐えきることはできなかったのか、大きなへこみを付けながらその場でよろけてバランスを崩す。そのチャンスを見逃してやるほど、俺は甘くない。


「穿て、『The Exploder』!」


 貫通効果を加えた銃弾はデカブツのボディにしっかり食い込み、その内部で大爆発を巻き起こした。

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