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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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005

「DD、右!」


「OKマリィちゃん。タカシは左だ!」


「了解アニキ!」


 俺たちは声を掛け合いながら、敵の群れの中をゆっくりと進んでいく。目的地が安全地帯ならともかく、今の俺たちは周囲の敵を確実に倒していかなければあっさり包囲されてしまう。そうなったときの危険度は奥に進めば進むほど高くなるのだから、ここはゆっくりとでも確実に全ての敵を倒していかなければならない。敵の再生能力が仮に無限であったとしても、再生速度まで無限ってことはないだろう。倒せば必ず数は減るはずで、俺たちが行って帰ってくる間だけ持てば十分だ。


 俺の銃弾が、マリィちゃんの爆裂恐斧が、そしてタカシの剣が、機械人(マシナリー)の魔石を次々と砕いていく。その屍たるガラクタの山はドンドン積み上がり俺たちの動きを阻害するが、それは同時に機械人(マシナリー)達の動きも阻害する。俺たちの行動が制限される代わりに機械人(マシナリー)たちも一度に襲いかかれる数が減り、結果としては俺たちの方が有利に事を運べている。


「お、切れ目が見えたか? もうちょっとだぞ、頑張れ!」


「言われなくても! ハァッ!」


「うぉぉ、気合いだぜー!」


 俺は通路の横にある部屋から出てきた機械人(マシナリー)に対し、横に薙ぐように6連射。うち4発が魔石を砕き、それによって出来たガラクタに足を取られて残りの2体がその場で転ぶ。


「もらったぁ!」


 倒れ込んだ機械人(マシナリー)に、タカシの剣が突き刺さる。俺の銃弾でこそ正面からしか倒せないが、剣で突き刺す分には背中からだって余裕で攻撃が通る。それは逆説的に俺の銃弾にどれだけ威力が無いのかってことになるが……銃はあくまで生物を対象にした武器であって、金属の寄せ集めである機械人(マシナリー)とは相性が悪いのだ。この世に万能の武器などなく、だからこそこれは仕方ないことなのだ。うむ。いい男はちゃんと自分の欠点を理解し受け入れるものだ。


 俺は素早く腰から弾を取り出してリロード。瞬く間に6発補充すると、剣を突き刺しているがために動けないタカシの背に向かってきた機械人(マシナリー)に1発。魔石が砕け散り、また1つガラクタの山が出来る。


「残り10匹! これで決めるわよ!」


 声を上げたマリィちゃんが爆裂恐斧を振り上げると、その斧身にひび割れのような赤い筋が走り出す。っと、これはマズい!?


「タカシ伏せろ!」


「えっ!? うわっ!?」


 俺はタカシの頭を抑え、その場に倒れ込む。そして次の瞬間。


ドゴーン!


 派手な爆発音と共に、辺りに衝撃が走る。風圧に飛ばされたナットやらケーブルやらがペシペシと俺の体を叩き、やっと全てが収まったことを確認してから顔をあげると……


「ふぅ。スッキリしたわ」


 一仕事終えたとばかりにいい顔をしたマリィちゃんが、その場で額の汗を拭っていた。


「ぐぁぁ……痛ってぇ……何だ今の……?」


「いやいや、今爆破する必要無かったよね? 100体近く倒してきたのに、最後の10体程度で使う必要無かったよね?」


 頭を抑えて起き上がるタカシをよそに、俺はマリィちゃんへと抗議の声をあげる。だがマリィちゃんは涼しい顔を崩さない。


「だって、ストレスが溜まっていたんだもの。いいじゃない最後くらい派手だって」


「いやでも、ここ地下だよ? 崩れたらどうするのさ?」


「1000年たって尚これだけしっかりした形を残してる遺跡よ? 直接斧を叩き込んだならともかく、上で立っているだけの機械人(マシナリー)を起点に爆発させたくらいじゃ崩れたりしないわよ」


「いや、そうかも知れないけど……はぁ、勘弁してよマリィちゃん……」


「マリィさんパネェ……」


 俺たちの内情をよそに、マリィちゃんは実にご機嫌だ。確かに何だかんだでストレスは溜まっていたのかも知れないし、俺も前に似たようなことをやったことがあるから強くは言えないけど……


「あー、まあとりあえず片付きはしたね」


 見回しても周囲に敵影は無く、足下のガラクタの山も今の爆発でだいぶ吹き飛んだ。近くの小部屋にでも退避すれば、とりあえず一休みくらいは出来そうだ。


「じゃ、ちょっと休憩しようか。地図も確認したいし」


「そうね。じゃ、そこの小部屋でいいかしら?」


「了解っす」


 俺たちは連れ立って近くの部屋に入り、まずは一番若いタカシを入り口に歩哨として立たせることにして、俺とマリィちゃんは部屋にあった椅子に腰掛け、とりあえず一息ついた。


「で、今はどの辺なの?」


「えーっと、ここがさっきいたところで、ここは通り過ぎたはずだから……ここかしら? 下り階段までもうちょっとね」


 そう言ってマリィちゃんが指し示したのは、地下1階の端の方だ。確かにもうすぐそこに下り階段がある。地下は2階までなので、次が一応最下層だ。


「ほうほう。で、目的地というか、一番怪しそうな所は?」


「それは……一応ここかしら?」


 次にマリィちゃんが指し示したのは、地下2階の一番奥。元研究所というだけあって居住性より機密保持を重要視されているらしく、階段がそれぞれの階の反対側の一番奥にあるという作りになっているため、そこに辿り着くには来た道と同じくらいの距離を移動しなければならない……つまりまだ折り返し地点にすら辿り着いてないということだ。


「うへぇ。あのペースで機械人(マシナリー)が来るなら、なかなか厳しそうだねぇ。まあ横に広いだけ助かるけど」


 もしこれが横は狭くても縦に広いだった場合は、苦労は今の比ではない。横になら歩こうが走ろうが、それこそ這いずってでも移動できるが、縦となれば話が違う。空を飛べない人の身では、降りるのも登るのも大きな制限がかかる。


「まあ嘆いても仕方ないし、行くしかないわね。もうとっくにお昼は過ぎてるでしょうから、軽く食べ物を胃に入れて、水分補給をしておきましょう」


「そうだね。おいタカシ! お前保存食は持ってきてるか?」


 マリィちゃんに同意して自分の鞄から荷物を探りつつ、タカシにも声をかける。


「オレ? ああ、大丈夫。水は魔法で作れるし、食料も3日分くらいはあるよ」


「そっか。ならいいな。じゃあ俺が飯食ったら見張りを代わるから、そしたら食事と休憩とっとけ」


「うっす」


 タカシにそう言っておいて、俺は手早く食事の準備を整える。今日は籠もる予定は無かったけど、それでも常に一週間分程度の保存食は用意してある。水生成の魔法を付与した魔石もあるから、よほどのことが無ければこの程度の深さの遺跡で餓死するようなことはない。

 ちなみに、腹黒商会で買い込んだ保存食はもうとっくに無くなっている。なかなかの味だったのもあって、外に出るのが面倒な時とかにもちょこちょこ食べていたらあっという間に無くなってしまった。いずれ機会があってあっちの町まで足を伸ばすことがあれば、また買い足しておきたい。


 そんなことを考えている間にも携帯用の簡易コンロで湯が沸き、そこに干し肉を付けて戻しつつ、固い黒パンに歯を立てる。相変わらず美味くは無いが、もうずっと食べてきた味だ。干し肉の味が染み出した湯でふやかせば、まあまあそこそこ食えないことも無くも無い。


 夕食がいつになるか解らないから、軽くとは言いつつそれなりの量を腹に入れ、俺はタカシと見張りを交代。その間はマリィちゃんが軽い仮眠を取っている。あれだけ暴れ回れば疲れて当然だ。ほんの10分ほどだとしても、寝ておけばいくらかは違うだろう。タカシの食事が終われば俺とタカシも休憩になり、その間はマリィちゃんが見張りに立つことになる。


 そうして全員の食事と休憩を終えたところで、俺たちは再び地下への遺跡アタックを開始した。

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