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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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003

「ねぇマリィちゃん、とりあえず一度――」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 撤退して様子を見よう――そう言おうとした俺の耳に、何となく聞き覚えのあるような男の声が聞こえてきた。場所はおそらく角を曲がった通路の先。ガシャンガシャンと音がしているので、おそらく戦闘中なんだろう。


「行ってみる?」


「勿論」


 無理に関わる必要は無いが、行けば情報が得られる可能性もある。俺たちが通路を小走りに進むと、その先では鎧姿の剣士の男が、一人で派手に立ち回って……


「って、お前タカシか!?」


「へっ!? あ、アニキ!? っと、うわっ!」


 その見覚えのある姿に思わず声をかけてしまい、こっちを振り返ったタカシの頭上を機械人(マシナリー)の腕が振り抜けていく。


「話は後だ。まずは敵を片づけるぞ」


「了解。タカシもいいわね?」


「勿論! こいつら数ばっかり多くて大変だったんだよ!」


 タカシの側に素早くマリィちゃんが掛けより、爆裂恐斧を手にタカシと背中合わせになる。俺はやや離れたところから、銃による遠距離攻撃担当だ。機械人(マシナリー)の魔石に直接当てるには正面からしか狙えないので、俺はとりあえず目につく奴らに3連射。1発は外れるも残り2発は命中し、魔力障壁をものともしない技術(テクニカ)の塊である鉛弾は機械人(マシナリー)の魔石をたやすく粉砕した。そのまま油断無く銃を構える間に、マリィちゃんが近づいてきた3匹を倒し、タカシも正面に来た2匹を倒し、残りは2匹。


「マリィちゃん!」


 俺の声に反応して、マリィちゃんがその場で地面すれすれまで腰を落とす。射線が通ったところで2射、1匹倒す。そして最後の1匹も、腰を落としたマリィちゃんが勢いを付けて立ち上がりつつ切り上げの一閃を放って……


「終わりよ!」


 カシャンという軽い音を立てて魔石が砕け、辺りには大量の機械人(マシナリー)のパーツが散乱するのみ。この場にて動いているのは、俺たち3人だけだ。


「ふぅ。とりあえず片づいたな」


「ええ、これでしばらくは静かになるでしょ」


 そう言って一息ついた俺たちが向けた視線の先にいるのは、タカシ……そう、間違いなくあの時別れた『勇者』タカシだ。


「いやー、助かった! ありがとうアニキにマリィさん! てか久しぶり!」


「おう、久しぶりだなタカシ。元気にしてたか?」


「そりゃあもうバリバリ元気ですよ!」


 そう言って笑うタカシの顔は、以前よりも若干だが精悍な感じがする。甘さと幼さが抜け、鋭さが増したような……それは正しく『戦う者』の顔だ。


「で、アニキとマリィさんはどうしてここに? やっぱり調査・・ですか?」


「ん? ああそうだぞ。ということはタカシもか?」


 特に隠すようなことでもないのでそう答えると、タカシもまた納得したように頷く。


「ああ、そうだぜ。あ、でもそういうことなら、アニキたちも一緒に調査しないか? 魔物の強さ自体はオレ一人でもいけるんだけど、こう数が多いときつくて……」


「あー、確かに。この数じゃなぁ……ん? タカシは確か『エンカウント』とかいう能力持ってただろ? アレ使えばいいんじゃないか?」


「いや、それが……その辺の便利能力は、女神様に加護を返した後はうまく使えなくなっちゃって……」


 俺の言葉に、言いづらそうにタカシが視線を斜めに落とす。まあ加護は返上するのに与えられた能力だけは返さないってのは都合が良すぎだ。


「あ、全く使えないってわけじゃないんだぜ? ただこう、波があるっていうか、使えるときと使えないときの差があって、しかもそれが自分じゃどうにかできない感じで……だから、今はあえて使えるときでも使わないようにしてるんだ。それに頼り切っていざって時に使えなかったりすると大変だしさ」


「ほぅ。そいつぁまた殊勝な心がけだな」


 自分の持ってる便利で強力な力を「使わない」と判断出来る奴は少ない。例え不安定で頼り切るのが危険だとわかっていても、人は楽出来る時は楽をしようとするものだ。その誘惑を振り切って「自分の力」を高めようとしている辺り、タカシは順調に成長してるんだろう。元々知らない仲でも無いし、これなら共に戦うのに不足は無い。


「俺はいいと思うけど、マリィちゃんは?」


「私もいいわよ。知らない仲じゃないから、背中を気にする必要が無いもの」


 俺の言葉にマリィちゃんも同意してくれる。一時的にとはいえ他人と組むに当たって、裏切りを心配する必要が無いというのは破格の条件だ。多少実力が劣っても選べるなら間違いなく信頼出来る方を選ぶし、タカシに関しては実力だって決して低いわけじゃない。ここの機械人(マシナリー)を相手にする程度なら十分以上に期待出来る。


「なら決まりだな。ということで、宜しくなタカシ」


「うっす! ありがとうございますアニキにマリィさん! いやぁ嬉しいなぁ。こんなところでまた『勇者パーティ』が組めるなんて!」


 そう言って笑うタカシを見て、俺も思わず笑みを浮かべる。そう言うってことは、こいつは今も『勇者』をやってるってことだ。そこまで時間がたったわけじゃないが、それでも今日まで折れず曲がらず信念を貫き通せているなら、その生き方を応援した俺としても非常に嬉しい。


「勇者ねぇ……俺としては柄じゃ無いんだが。まあでも魔物の大量発生の原因を探れ、ってのは勇者っぽい仕事なのかな?」


「大量発生? やけに数が多いと思ったら、そっか。そんなことになってたんだ」


 俺の言葉にタカシが疑問の表情を浮かべ、だからこそ俺も疑問を投げ返す。


「ん? タカシも魔物の大量発生の原因調査に来たんじゃ無いのか?」


「違うぜ? オレがここに来たのは、最近頻発してる誘拐事件・・・・の調査のためだよ」


「誘拐……?」


 全く予想していなかったその言葉に、俺とマリィちゃんは思わず顔を見合わせる。


「その話、詳しく聞いても大丈夫なのかしら?」


「ああ、うん。別に秘密にしろって言われてるわけじゃないから、大丈夫だけど……えっと、最近この辺で小さな子供が居なくなる事件が頻発してるんで、調べたらどうもこの遺跡が怪しいってことで依頼を受けてオレが来たんだけど……」


「怪しいって……何をどう調べてそうなったの? 子供を攫った誘拐犯がこの遺跡に出入りしているのを見たとか?」


「それは……何でだろう? 理由は聞いてないな」


「おいおい……普通そこは気にするだろ」


 あまりにも抜けているタカシの言葉に、俺は呆れを隠すこと無く口にする。


「す、すいません……オレにとっては依頼って『そういうもの』だったから、どうやって調べたのかとか、そういうことに気が回らなくて……」


「あー、まあ、そうか……」


 以前のタカシの状況を知っているだけに、そう言われると強く指摘も出来ない。あの当時のタカシなら、確かに原因なんて気にするだけ無駄だっただろう。訳のわからない理屈で意味のわからない依頼をたらい回しにされると、結果として目的のものに辿り着くなんて状況になれていたなら、この程度の不自然さには気が回らなくても仕方が無いと言える。


「とはいえ、今はもうあの女神に振り回されてるわけじゃないんだろ? だったら依頼の裏を取るのは絶対に必要だ。貧乏くじを引かされるくらいならまだしも、変な奴に利用されて悪事の片棒を担がされたりするのは嫌だろ?」


「そりゃそうですよ! ってか、そうか……反省して気をつけます。教えてくれてありがとうございました」


 素直に頭を下げるタカシ。その素直さは得がたい美点ではあるが、同時に危うい欠点でもある。出来ればもう少しくらい、年嵩の掃除人にその手の常識を教え込んでもらえればいいんだが……


「なあタカシ。お前パーティとか組まないのか?」


「パーティ? うーん。今みたいに臨時で誰かのパーティに入ることはあるんだけど、自分では組まないというか、組めないというか……何故かオレが良いと思う人って、パーティ組もうとすると都合が悪くなるんですよね」


 そう言って首を捻るタカシ。だがその背中が一瞬だけチカッと光ったのを俺は見逃さない。ということは、あの女神の仕業か? なら考えられるのは……


「お前がパーティ組みたい奴って、どんな奴だ? ひょっとして可愛い女の子とかか?」


「へ? いや、別に女の子に拘る気は無いけど……ああでも、今まで組もうと思った相手のパーティには、確かに可愛い女の子がいたかも。妙に懐いてくる子とかもいて、学校の後輩を思い出すなぁ」


 懐かしそうに語るタカシの背中で、さっきより強くチカチカと光が点滅している。まあつまりそういうことだろう。


「まあ頑張れ」


「え? あ、はい。頑張ります?」


 現実はいつだって残酷で、因縁はいつだってそう簡単に切れやしない。不思議そうに俺を見るタカシに、俺はただ肩を叩いてそう励ますことしかできなかった。

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