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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第六章 機兵の王

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002

「……というわけでこの依頼を受けようと思うんだけど、どう?」


「どうって……その報酬で私にもこの仕事を受けろと?」


 俺の言葉に極寒の視線を向けるマリィちゃん。だがすぐに「あら? でもリューの胸を吸えるっていうのは意外とアリかも……?」と呟いて、その顔に満面の笑みが浮かぶ。


「なかなか良い交渉だったようね。いいわ、やりましょう」


「OK。流石マリィちゃん話がわかるね」


 握り拳に親指を立てて互いに意思を確認し合うと、俺たちはその足で協会へと引き返し、リューちゃんに依頼の受領を申請。リューちゃんが「え、本気でですか? というかドネットさんだけでなく、マリィさんまで吸うんですか? セクハラですか? セクハラで訴えていいんですか!?」と泣いて抗議してきたので、「条件を提示したのはリューちゃんじゃないか」と言ったらガックリと肩を落としていた。思う存分仕返しはできたので、依頼が終わったらまた何か美味しいものでもお土産に持ってくることにしよう。


 その後は1日かけて準備を済ませ、徒歩と馬車にて件の遺跡へと辿り着く。ああ、勿論遺跡近くの町までが馬車で、そこから遺跡までは徒歩だ。目の前にあるのは苔むした壁にぽっかりと入り口の開いた巨大な建物。と言っても上層は大分崩れているので、そっちの調査は必要無い。本命は3ヶ所ある下り階段から行ける地下だ。


「さて、それじゃ行きますか」


 俺は暗視の魔法薬をグビッと飲み、マリィちゃんは鞄から取り出した魔法の片眼鏡をその目に付ける。今回は調査が目的であり、長丁場になるのがわかってるから最初から出し惜しみ無しだ。暗いのに見えるという不思議な感覚を味わいつつ、俺たちは階段を下っていく。


 そうして目の前に広がるのは、規則正しく並んだ部屋と通路だ。間違っても昔タカシと冒険したような、変な仕掛けがあったりはしない。あんな訳のわからない仕掛けなんてあったら生活どころか仕事場ですら不便で仕方ないだろうから当然だ。


「ここって、元は何かの研究所だったのよね?」


「資料によると、そうみたいだね。勿論めぼしいモノは残っちゃいないだろうけど」


 雑談を交わしつつ、俺とマリィちゃんは二人一緒に1つ1つ部屋の中を確認していく。手分けをした方が効率はいいだろうけど、魔物が出るってわかっている場所で一人になるような迂闊な真似をしたりしない。マリィちゃんはまだしも、銃による遠距離攻撃が主体の俺が、物理格闘が基本の機械人(マシナリー)相手に接近されたら戦い辛いなんてもんじゃない。


 俺たちはざっと部屋を見回し、残された机の引き出しなんかも開けてみるが、当然中には何も無い。埃が積もっていることはあっても、紙屑やネジの1本すら入ってないところをみると、本気でここは探索し尽くされた遺跡なんだろう。


「ここまで何も無いと、調査って言われても何を調べたらいいか困っちゃうね」


「そうね……となれば、いちいち引き出しを調べたりしないで、アレ・・の発生源を調べた方がいいかもね」


 そう言って、マリィちゃんが腰から武器を引き抜く。その目線の先にいるのは、話に聞いていた機械人(マシナリー)だ。全身を紫の光で薄く覆い、ケーブルやらボルトやらを大量に集めて手や足を形成している。胸の部分には紫の光の発生源となる魔石が存在しており、それを砕くか外せば全身がバラバラになって活動を停止する……逆に言えば、それさえ無事なら手や足は何度でも普通に再生するってことだ。


 ガシャンガシャンと音を立ててこちらに歩み寄り、機械人(マシナリー)がその腕を振り上げる。その動きはまあまあ速く、そのまま棒立ちならマリィちゃんの小柄な体くらい吹き飛ばせそうな勢いではあるが……


「えいっ!」


 さりげなく具現化していた爆裂恐斧で、胸の魔石を一撃。ただそれだけで断末魔の悲鳴をあげるでもなく、機械人(マシナリー)を構成していたパーツがその場でガシャンと地に落ちて、それにて戦闘は終了だ。


「おぉう、相変わらず凄い威力だね」


「ふんっ。流石にこれは相手にならないわね」


 パチパチと拍手を送る俺に、マリィちゃんは表情を動かすこと無く武器をしまう。魔石がある限り無限再生するとはいえ、肝心の魔石が剥きだしじゃ話にもならない。一応それなりの魔力障壁は持っているのでこっちの武器がしょぼければ多少の脅威ではあるが、爆裂恐斧ほどの高位な魔法武器ともなればあの程度の魔物の魔力障壁なんてペラ紙一枚ほどのものでもない。


「パーツは……いらないわよね?」


「だねぇ。収納鞄(ガレージバッグ)でもあれば拾っていってもいいけど、回収するにしても帰りに値が付きそうなのをいくつかってところかな?」


「そうね。それじゃ行きましょうか」


 相談を終えてマリィちゃんが視線を向けるのは、機械人(マシナリー)がやってきた方……つまりは遺跡の奥の方だ。今は地下1階に居るが、この先にはまた下り階段がある。機械人(マシナリー)がやってきたのはそっちの方で、おそらくはその発生源も地下だろう。今回の依頼はあくまで「機械人(マシナリー)の発生する理由」の調査だから、全ての部屋の引き出しを開けて回る作業を続けるよりは、地下に行く方がずっと建設的だ。


 俺たちは周囲を警戒しつつ、下り階段の方へと足を進める。途中何度か機械人(マシナリー)とは交戦したが、いずれも簡単に片がついている。研究所というだけあって通路も広く天井も高いため、マリィちゃんの動きが妨げられないというのが大きい。2体同時に現れても、3体が群れで現れても、4体が整然と並んできても……


「いやいやいやいや、多くない?」


「多いけど……でも、大量発生って言うならこう言うことなんじゃないの?」


「そう言われたらそうだけどさ……」


 振り返れば、背後には大量のケーブルやら何やらが地面に小山を作っている。俺と同じくらいの身長、体格の機械人(マシナリー)を構成するパーツは、1匹だけでもそれなりの量になる。これだけ倒せば通路が埋まる勢いで……


「あれ?」


「どうかしたの?」


 そこで俺に、大きな違和感が襲いかかる。首を傾げて俺を見つめているマリィちゃんをそのままに、しばし意識を集中して産まれてきた疑問を吟味する。


「いやさ。こんなに大量に機械人(マシナリー)が沸いてるのに、ここに来るまでの通路で奴らのパーツって1つも落ちてなかったよね?」


「そう言われれば……そうね。誰かが拾ったとか?」


「いや、『枯れてる』頃ならともかく、今はここに来るなら自力で機械人(マシナリー)が倒せる奴らだけだろ? で、これだけ獲物がいるなら、金になりそうなパーツ以外は放置するはず。なのに何一つ落ちてないってのは不自然じゃない?」


 そう、これは明らかに不自然だ。相手が普通の魔物なら、腐って崩れた所をスライムにでも食われたと言われれば納得するが、機械人(マシナリー)を構成するガラクタを食べるような魔物はいない。拾い集めるなら人間だが、それにしたってここまで何の痕跡も残さず拾い集めるってのは儲けに対して労力が割に合わない。


「私たちが最初に来た……ってことも無いのよね?」


「無いでしょ。リューちゃんが『何人かに調査をさせた』って言ってたし。機械人(マシナリー)が沸いてることも解ってたんだから、交戦してないってのもあり得ない」


 協会やリューちゃんが俺たちを騙して罠にはめたというなら理解できるが、そもそもそんなことをする理由が思いつかない。そしてそれ以前に……


「そもそもこいつらは、どこからこのパーツを持ってきたんだ?」


 機械人(マシナリー)は憑依するパーツが無ければ存在できない。そしてそのパーツは無から生成されるわけじゃない。こいつらは環境依存……材料となる物資が大量にある場所にしか発生できない、ある意味ではレアな魔物なのだ。


「なるほど、まさに『協会の依頼』ってわけか……」


 一筋縄ではいかなそうな気配に、俺は思わず小さなため息をついた。

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