001
改稿というか、この話の前半以後は完全に書き直しております。ご注意下さい。
「邪魔するよ」
「いらっしゃいませ。問題掃除人協会へようこそ」
いつかもやった、そしていつもやっているやりとりを経て、俺は『協会』へと足を踏み入れる。
「やぁリューちゃん。相変わらず美人だねぇ」
「こんにちはドネットさん。そちらも相変わらず清い体のままなようで」
今日もリューちゃんの言葉は鋭い。そしてその鋭さは、何故か俺を限定して発揮されているような気がしてならない。まあ確かに俺くらいいい男にならないと、これを笑顔で受け流すのは難しいんだろう。
「ハッハッハ。何ヲ言ッテルノカナ? この前だって散々美女を鳴かせてきたところだぜ?」
「あれ? マリィさんの話だと、むしろドネットさんの方が泣かされたと聞きましたけど?」
「ぐぉ!? え、前も思ったけど、リューちゃんとマリィちゃんて、どれだけ俺のこと話してるの!?」
予想をはるかに超えた鋭さで切りつけられ、俺は思わず一歩後ずさる。流石に全部を話してるとは思えないけど、それでも上辺を掠めるだけ、という濃さでは無さそうだ。
「それは勿論、秘密です。何せ受付嬢ですからね」
そんな俺の問いに、にっこりと営業スマイルで答えるリューちゃん。それは「俺の秘密を漏らさない」ということであり、「マリィちゃんから何を聞いたか」という情報も漏らさないということである。一点の曇りも無い完璧な作り笑いを浮かべられたら、流石にこれ以上追求するのは無理だろう。普通なら。
「ねぇリューちゃん。最近出来たスイーツのお店って知ってる?」
「へ? ええ、知ってますよ。美味しいって評判ですよね。そのせいでいつも混んでいて、しばらくは予約が無いと入れないって話ですけど」
「実はここにこの前の依頼で貰った特別優待券があるんだけど……」
「申し訳ありませんドネット様。ただいまから5分ほど休憩時間になりますので、業務のお問い合わせは別の窓口にお願い致します」
俺の差し出したプラチナチケットをサッとかすめ取り、慇懃無礼な口調でそう言ってリューちゃんが頭を下げる。つまり今から5分の間、彼女は秘密を守る受付嬢じゃなく、ただの女の子ってことだ。
「で、マリィちゃんから何を聞いたの?」
「女の子の秘密を詮索するなんて、モテない男性のすることですよ?」
「いや、普通ならそうだけど、話してる内容が俺のことって言われたらなぁ」
「仕方ないですね。じゃあちょっとだけですよ?」
そう言ってリューちゃんが手招きしたので、俺はカウンターに身を乗り出すようにする。そんな俺の耳元に、吐息がかかるほどリューちゃんが唇を寄せてきて……
「私の胸は吸わせてあげません」
「ぶふぉっ!? げふっ、ごっほごっほ……え、マジで!?」
思わず咳き込みうっすらと涙すら浮かべる俺を、さっきの作り笑いとは違う極上の笑みを浮かべてリューちゃんが見ている。
「……口止め料はその券で足りるかい?」
「あら、協会の受付嬢を買収しようなんて悪い人ですね? でもまあ買収されてあげます。私っていい女ですから」
ふふんと得意げに胸を張る様とそのバストサイズが何となくパレオを彷彿させて、俺は思わず苦笑いを浮かべる。リューちゃんは基本できる女だけど、こういう可愛いところがあるのが実にチャーミングだ。
「さて、それじゃ5分立ちましたから、業務に戻りますね……ドネットさん、最近北の方の遺跡で起きてる事件って知ってますか?」
真面目な顔に戻ったリューちゃんの言葉に、俺は軽く頭を捻る。
「北? 北っていうと……ああアレかな? 大変遷前の建造物だっていう、でっかい遺跡。事件って、何かあったの?」
「場所はそこであってます。で、ですね。その遺跡の中で、最近大量の機械人が沸いてるらしいんです」
「へぇ……あれ? あの遺跡って確か『枯れて』なかったか?」
遺跡が『枯れる』とは、その遺跡の中の魔物が駆逐し終わり、隅々まで探索が終了したという証だ。ゴブリンなんかが新たに住み着いたり、いわくのある場所ならゴーストやスケルトンみたいな魔物が沸いたりすることはあるが、流石に機械人が沸くことはない。奴らの体を構成するパーツは二束三文とはいえ金になるから、遺跡が『枯れる』まで調査され尽くしてるなら、D級やC級の奴らによってそういうのは拾い尽くされるのが基本だからだ。
「ええ。だからこそ不思議というか……でも、掃除人の方が何人か出向いて追加調査したんですけど、特に何も見つからないんですよね。ただ機械人だけがどこからともなく沸いてくるというか……」
「そりゃまた確かに、不思議だねぇ」
「ということで、ドネットさんたちも調査してみませんか? 協会の依頼になるんで、勿論報酬も出しますよ?」
にっこりと営業スマイルを浮かべるリューちゃんに資料を手渡され、俺は顎に手をやり思案する。
機械人自体はそれほど強敵というわけじゃない。『枯れた』遺跡なので詳細な地図もついてくる。勿論それをしらみつぶしに調べていくのは面倒ではあるが、それは手間がかかるだけで危険というわけじゃなく、そして何より報酬がなかなかだ。
「うん、悪く無さそうだな。マリィちゃんにも聞かないと確約は出来ないけど、受ける方向で検討してみるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます。いやぁ、これなかなか受けてくれる人がいなくて困ってたんですよ」
安堵の表情と共にそんな言葉を漏らすリューちゃんに、俺は思わず首を傾げる。
「うん? この条件で受け手がいないってことは無さそうだけど?」
「それはドネットさんたちが二人組だからですよ。普通の5、6人で組んでるパーティだと、その報酬ではなかなか厳しいんです。機械人のパーツもかさばる割に売値が安いですから、魔物としては旨味が無い方ですしね」
「ああ、なるほどね」
リューちゃんの言葉に、俺は納得して頷く。俺たちならこの報酬を折半だけど、6人パーティなら一人当たりの取り分は2割に満たないわけで……いくら手が増えて調査が楽になるとはいえ、その額でやりたいとは思えない。増額分である魔物の討伐による稼ぎが大して見込めないなら、受け手がいないのも納得だ。
「じゃ、検討してみるからこの依頼書貰ってもいい?」
「勿論です。どうぞ宜しくお願いします。受けてくれたらサービスしちゃいますよ? ちょっとくらいなら吸わせてあげても……」
「待って、そのネタまだ引っ張るの? 勘弁してよ……」
両手を挙げて降伏宣言をする俺に、悪い顔をしたリューちゃんが小悪魔のような笑みを浮かべている。
「弄れるネタは死ぬまで弄れって言うのが、マリィさんの教えですから」
「何を教えてるのさマリィちゃん……あ、いや、そうか。そういうことなら追加報酬は吸わせて貰うってことで」
「えっ!? あれ、ちょ、本気ですか!?」
意趣返しとばかりにニヤリと笑ってそう言う俺に、今度はリューちゃんの方が慌て始める。
「ふふふ。それじゃこの依頼は受けるから、報酬の方宜しくね」
「ま、待ってくださいドネットさん!? 検討を! もう一度報酬の件について見直しをしませんか!? 今ならもうちょっと良い感じに……待ってぇぇぇ!!!」
意外と本気で引き留めてくるリューちゃんを背に、俺はヒラヒラと手を振って協会の建物を後にするのだった。




