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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
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006

 朝。宿屋の一室から出てくるのは、当然男と女である。


「あー、えっと、ごめんね? あんまり気を落とさないで」


「いや、こっちこそごめん。俺は生まれてきたら駄目な男だったんだ……」


 気を遣ってくれる女性に、俺のテンションはどん底に低い。


「それじゃ、その、また宜しくね。それじゃ……」


 そんな俺の態度に耐えかねて……いや、商売とは言え一晩付き合ってくれただけでも、相当いい女だ……彼女は宿から去って行く。残されるのは、使えない最底辺のゴミクズ野郎ただ一人。


 と、そこに、隣の部屋から扉を開けて、出てくる人影がある。


 朝。宿屋の一室から出てくるのは、男と女とは限らない。


「えーん。マリィお姉様。私寂しいです。もっと可愛がって欲しかったですぅ」


「ふふっ。とても可愛らしかったですよ。機会があったら、またしましょうね」


 蕩けるような表情の女性(・・)に、マリィちゃんのテンションは平常通りだ。


「じゃ、お姉様。またね~♪」


 ご機嫌で去って行く女性を見送り、マリィちゃんがこちらにやってくる。


「はぁ。また使い物にならなくなってるのねぇ。毎回こうなるってわかってるんだから、暴発する前に突っ込むとか、やりようはあるでしょうに」


「うるせぇ。女を楽しませられない男なんて、最低だろ……」


「盛り上げるだけ盛り上げておいて、最後の一線を越えられない男の方が、より最低だと思うけど?」


「うぅ……俺は本当に駄目な糞虫だ……」


「まったくもぅ……」


 落ち込む俺の手を引いて、マリィちゃんが1階へと降りていく。その姿はさながら駄目亭主と嫁さん……というより、むしろ駄目息子と母親の方が近いかも知れない。


「ほら、元気を出しなさいな。ご飯を食べたら、依頼を見に行くわよ?」


「……うん……」


 ぼそぼそと食事をすると、落ち込んでいたテンションが元に戻っていく。撃った直後から糞虫モードに入る俺だが、だいたい朝食を食べてる間に回復するようになっている。というか、そこで回復しないようなら、流石に俺自身が自重するか、もしくはマリィちゃんですら俺を見捨てていただろう。


「ふっー。食ったな」


「元に戻った?」


「ああ、オーケーだマリィちゃん。今日も俺のいい男具合は絶好調だぜ」


「あー、うん。大丈夫そうね。それじゃ、お茶を飲んだら行きましょうか」


 会計を済ませて、俺たちは宿を出る。ちなみに、朝食は当然俺の奢りだ。あの状態の俺と食事をしてくれるなら、食事代なんて安いもんさ。


「さてっと、食事したばっかりだし、酒場じゃなくて協会の方の依頼掲示板(オーダーボード)を見ましょうか」


「そうだな。てか、マリィちゃんは昨日のゴブリンの討伐証明は?」


「当然まだよ。だから、一緒に済ませちゃおうと思って」


「了解。じゃ、行こっか」


 俺たちは連れだって、協会へと歩き出す。朝でそれなりの人通りがあるとはいえ、流石に迷う要素などないので、程なくして普通に協会にたどり着き、俺たちは自動ドアをくぐる。


「おはよう、リューちゃん。今日も美人だね」


「おはよう、リュー。お久しぶりね」


「あ! ドネットさんに、マリィさん! おはようございます」


 笑顔で挨拶してくれるリューちゃんに、俺は手を振って答える。


「ドネットさん。昨日は本当に申し訳ありませんでした。お怪我は大丈夫でしたか?」


「怪我? 何かあったの?」


「ああ、うん。まあ、ちょっとしたいざこざみたいなのが、ね」


 俺は言葉を濁すが、マリィちゃんは納得しない。というか、あっさり問う矛先をリューちゃんに代え、必要な情報を引き出していく。


「そう。ブル・ブランドル……聞いたことがないわね」


「急に頭角を現した……とかではなく、C級にくすぶっていたのが、良い武器を手に入れたとかで順当にB級に昇格したって感じですから」


 なるほど。強力な武器を手に入れたおかげで最近昇格したってなったら、そりゃこの町にいなかった俺たちは、知らなくて当然だ。


「その武器って……聞いたら不味いわよね」


「えっと……すいません。個人情報なんで」


 申し訳なさそうに断るリューちゃんに、むしろ俺もマリィちゃんも嬉しくなる。それは、個人的な感情じゃなく、ちゃんと仕事の責任を重要視してるってことだ。これが出来ない奴に、自分の情報なんて渡せない。


「いいよいいよ。あらゆる意味でリューちゃん悪くないし。それじゃ、俺は依頼掲示板(オーダーボード)の方を見てくるから、マリィちゃんは……」


「登録証のチェックをお願い。昨日ゴブリンを倒してるから」


「あ、はい。わかりました」


 二人を残して、俺は依頼掲示板(オーダーボード)の方へと向かう。さてさて、今日はどんな依頼があるかな……?

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