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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
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004

「お二人のおかげで、無事たどり着くことができました。この度は本当にありがとうございました」


 ゴブリンとの小競り合いから少し。何とか日暮れまでに目的地である隣町までたどり着き、俺たちは別れの挨拶を交わす。


 ちなみに、何で徒歩で日暮れまでにつける程度の距離に隣町があるのかと言えば、この辺はかつて国境があり、それにギリギリ隣接するような形で、それぞれの国が街を作ったから、らしい。ちゃんと調べれば歴史的な経緯とかもわかるのかも知れないが、街の成り立ちにまでは、流石の俺の興味も及ばない。


「……貴方の興味は、いつもお酒と女の子のことばっかりでしょうに」


「うぇ!? 何、マリィちゃん精神感応技能者(エスパー)なの? 俺に興味津々とか……惚れちゃった?」


「はいはい。惚れないわよ」


「いやぁ、お二人は本当に仲がよろしいですなぁ」


「あら、心外ですわ。こんな女ったらしの風来坊と仲良しなんて、私の女としての格が下がってしまいます」


「おいおいマリィちゃん。こんないい男捕まえて、そんなこと……」


「はいはい。いい男ね」


「何というか……本当に仲がよろしくて、うらやましい限りです」


 マール氏の表情が、幾分か寂しそうに曇る。気持ちはわからなくもないけど、残念ながら氏にマリィちゃんを口説くのは、大商人になっても無理だろう。


 俺たちは全員の登録証を取り出し、ピカッとやって確認を終える。これで、本当に依頼は終了だ。


「それでは、私はこれで」


「また何かあったらお願いします」


「ごきげんよう」


 三者三様の挨拶をして、3人は1人と2人に別れる。勿論、1人は俺……え?


「あ、あれ? マリィちゃん、どうしたの?」


「ああ、マールさんが良い宿を紹介してくれるっていうから」


「あれ? 今完全に2人と1人に別れる空気だったよね?」


「ええ、だから私とマールさんが一緒で、貴方が一人よ? 協会への報告宜しくね」


 そう言ってにっこり笑うと、マリィちゃんとマール氏が、笑顔で談笑しながら一緒に歩いて行く。


「……ま、まあそんなこともあるよな。うん。ふっ、いい男は孤独を愛し、孤独に愛されるもんだしな……」


 俺は一人、とぼとぼと問題掃除人協会トラブルスイーパーアソシエーション、通称TSA……ただし、大抵の奴は単に『協会』と呼んでいる……へと足を運んだ。散々見たことのある、何処に行っても同じ作りの外観に、間違える要素は無い。


「邪魔するよ」


「いらっしゃいませ。問題掃除人協会へようこそ」


 自動ドアをくぐり抜けると、受付嬢の美人さんが、営業スマイルで向かえてくれる。ちなみに、この人が近づくと勝手に開く『自動ドア』というのは、かなり技術(テクニカ)よりの物だ。動力にこそ魔石……魔術(マギ)を用いているが、それ以外の機構は全て技術(テクニカ)である。


 それ以外にも、協会の建物や設備など、かなりの部分に技術(テクニカ)が使われている。これは情報の処理や伝達、保存、管理なんかが、技術(テクニカ)を使う方が圧倒的に楽だからと言われている。同じ事を魔術(マギ)で再現しようとすると、やたらでかい儀式場が必要だったり、ちょっとしたことで情報が変質したりするらしい。

 まあ、どんなことでも一長一短ってことだろうな。


 ちなみに俺の場合、いい男であることが長所で、いい男過ぎることが短所だ。


「やぁ、こんにちは。素敵なお嬢さん。今夜一緒にディナーはいかがかな?」


「申し訳ありません。ディナーの予約は3年先まで一杯です」


 俺の誘いに、慣れたように答える。まあ、実際受付嬢ってのは大抵美人だから、こんなやりとりは日常茶飯事なんだろう。そして当然、俺もこのやりとりに慣れきっている。


「久しぶり、リューちゃん。元気にしてた?」


「お久しぶりですドネットさん。そりゃあもう、元気いっぱいですよ! ドネットさんの方は、相変わらず清い体のままなんですか?」


 満面の笑顔から突如発せられた鋭利なナイフに、俺の繊細なピュア・ハートが悲鳴をあげる。


「うっ……リューちゃん、えぐいところ突いてくるね」


「はい。何しろマリィさん直伝ですから」


 えー……マリィちゃん、どれだけ俺の行動範囲に影響及ぼしてるの?


「あー、まあいいや。それじゃ、依頼の処理……」


「おうおうテメェ! 見ねぇ顔だが、何俺のリューに手ぇだしてんだ! あぁん?」


 不意に、横から声がかかる。見れば、何かやたらとでかくゴツイ、髭を生やしたハゲマッチョがいる。何これキャラ濃すぎだろ。


「あー、えっと、どちら様で?」


「ハァ? 俺を知らねぇとか、テメェどこのモグリだ!? それともケツに殻つけたヒヨッコか!?」


 ハゲマッチョが俺に凄んできて、俺は思わず顔をしかめる。

 いや、だって凄むってことは、顔近づけられるってことだぜ? ハゲマッチョの顔が俺のイケメンフェイスに近づいてくるとか、普通に嫌だし。


「あー、すいません。で、えっと……リューちゃん、これ誰?」


「業務の支障になりますので、お静かにお願いします。ブランドル様」


 一点の曇りも無い完璧な営業スマイルを貼り付けて、リューちゃんが言う。うわ、愛想笑いですら浮かべないとか、大概だぞ?


「おぅ、リュー! 他人の前だからって、照れなくていいんだぞ? 俺とお前の仲なんだしな」


「仲と申されましても……受付嬢と掃除人という以外の関係は無いのですが」


「そう照れるなって。ガッハッハ」


 そして、ガッハッハ笑い。実際にこんな風に笑う人なんて初めて見たよ……


「で、お前は結局なんなんだ? ん?」


「そちらの方は……」


 リューちゃんが口ごもる。掃除人の情報は、当たり前だけど個人情報なので、依頼人や官憲からの開示要求ならともかく、同じ掃除人に無断で答えることは無い。

 だが、どう考えてもそれでコイツが納得するとは思えないので、俺はリューちゃんにちらっと視線を送り、それに気づいたリューちゃんが小さく頷く。


「こちらは、B級掃除人のドネット・ダスト様です」


「B級!? このヒョロガリがか? 嘘だろ!?」


「どうも。ドネットです」


 ヒョロガリ……こんなハゲマッチョから比べたら、世の中の9割の奴はヒョロガリだろう……の俺が、ハゲマッチョの……ええと、やばい。さっき聞いたはずなのに、もう名前が思い出せない。


「いや、まて、ドネット……? ひょっとして、一発屋ワンショット・フィニッシャーか?」


 あれ、コイツ俺のこと知ってるの?

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