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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第三章 勇者降臨

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006

「で、これで本当に開くのか?」


「ああ、うん。大丈夫だから任せて……」


 とりあえず全員が朝食を済ませて出発し、今は件の遺跡の前。未だに調子の戻らないタカシが掃除人の登録証(ライセンス)の様な板きれを技術(テクニカ)に通し、横のボタンを何度か押す。ピッピッと押した数だけ音がなり、次の瞬間、プシューっと音を立てて、扉が開く。


「本当に開くのか……しかも、開いたってことは、これ動力が生きてるってことだよな……」


 予定通りに事が運んだのだから、本来なら喜ぶところなんだろうが、とてもそんな気にはなれない。だから俺は、ここで聞くことにした。


「なあタカシ。ちょっと真面目な話があるんだが……」


「何だい? アニキ」


「何て言うかその……お前は、これでいいのか・・・・・・・?」


 俺の言葉に、タカシは一瞬驚いた顔をしてから、苦笑いを浮かべる。


「ふっ。ああ、そうだよなぁ。オレにとっては当たり前・・・・だけど、オレ以外にとっては、そんなわけ無いもんなぁ……うん。大丈夫。ちゃんとわかってるし、これでいい・・・・・んだ。

 多分これが、オレの目的を果たすには一番の近道だしね」


「目的……あー、魔王を倒す、とか言ったか?」


 問う俺に、タカシは寂しそうに首を横に振る。


「それは『この世界での目的』だよ。正確には、俺が目的を達成するための手段ってことになる。俺は……家に帰りたいんだ」


 その瞳が、あまりにも悲しそうで。その言葉が、あまりにも重くて。俺はそれ以上、何も聞くことができなかった。俺の方からその先に踏み込むには、俺たちの関係はまだ浅すぎる。無遠慮に他人の事情に首を突っ込むのは、いい男のすることじゃない。俺がすべきことは、いつかタカシが話したいと思った時に、しっかり聞いてやれる心構えをしておくことだけだ。だから、今俺が言うべきことはひとつだけ。


「そうか。帰れるといいな」


「……ああ。ま、そんなに悲観しなくても、このまま進めばそのうち帰れるさ。世界が平和っぽくて、魔王が何なのか全然検討がつかねーのが困りもんだけど、こうしてはずれようが無い道・・・・・・・・・が用意されてるからな」


 そう言ってニカッと笑うと、タカシが率先して遺跡の中へと入っていった。なるほど、俺には胡散臭くて堪らない意図が、タカシにとっては導きの糸になってるってことか。本人が納得済みなら、確かにこれほど確実な道はない。


「じゃ、まあ行きますか。タカシが前衛なら俺が中衛に入るから、マリィちゃんは殿宜しく」


「了解。と言っても、タカシの『エンカウント』があれば、あんまり意味が無いかも知れないけどね」


 言葉を交わし、役割を決め、俺とマリィちゃんもタカシの後を追って中に入る。ちなみに、使っている照明は今回もタカシの『ライト』の魔法だ。タカシが暗視系の用意が無いというのもあるが、そもそもこっちが発見されて不意打ち先制されないという確証があるなら、『ライト』の魔法が最も懐に優しいのは事実だ。

 勿論、まだまだ確信に至るほどの付き合いじゃないから、警戒そのものは怠らないけどな。


「お、来たか。そしたら、この扉の中を調べたいから、アニキは一緒に来てくれないか? あ、マリィさんは入り口で警戒お願いします。天井から落ちてきたり、床を高速で這い回ったりする魔物がいると、触られるのを回避できなくて普通に遭遇戦みたいになっちゃうことがあるんで」


「ほぅ、『エンカウント』も万能じゃないってことだな。それを自覚できてるのはいいことだ。マリィちゃん?」


「OK。私はここで警戒してるから、気をつけてね」


 全員で意識を確認してから、俺とタカシは入ってすぐの所にあった扉の中に入る。すんなり開いたが、入り口のところにあったのと同じ技術(テクニカ)が扉の横に付いていたので、俺たちが来る前にタカシが鍵を外したんだろう。


「入り口のすぐ横なら、おそらく警備室のはず。なら……これかな?」


 俺にとっては何が何だかわからないものばかりだが、タカシは迷いつつもいくつかのボタンを押し、次の瞬間、部屋の天井が煌々と光を放ち始める。


「おっしゃ! なら、あとはドアのセキュリティーを……あー、それは中を回って集めるタイプか。なら、部屋から出てマリィさんと合流しよう。あ、アニキ、その辺のボタンは絶対触らないでくれよ? 警備システムとか動き出したら面倒なことになるし」


「餓鬼じゃねーんだ。選択の余地があるときに、訳のわからない物に触ったりしないさ」


 オヤクソクがどうのと騒ぐタカシに肩をすくめて答え、俺たちはそのまま部屋を出て、何事も無くマリィちゃんと合流。タカシの「これから本格的なダンジョンアタックだ」という言葉に、正直ここまで何もしてない俺たちは、やっと出番かと危険を喜ぶくらいの余裕すらあったんだが……


「……なあ、タカシ。これ俺たちがいる意味あるのか?」


「うーん。おかしいな。たぶん3人いないと解けない仕掛けがあるはずなんだけど……」


 必要最低限の警戒心は残しつつも、それ以外の大部分で「飽きて」いる俺に、焦った表情を隠せないままタカシが答える。

 そう、俺たちは……俺とマリィちゃんには、何もすることが無かった。


 まず、この遺跡には敵がいなかった。タカシは「番人的なモノがいるはず」と言っていたので、遺跡の雰囲気から機械人(マシナリー)がいるんじゃないかと想定していたんだが、ねずみ1匹出なかった。


 そして、遺跡の攻略も、タカシが一人でやっていた。正確には、俺たちには何をしていいのかがわからなかったのだ。タカシが一人で遺跡の中を右に左に行ったり来たりして、壁のくぼみに動物のレリーフをはめ込んだり、虹色の円盤を差し込んだり、片手で押すだけで簡単に動くが、引っ張ることのできない石柱を動かしたりして、途中の扉を開いていったのだ。


「ねえ、この遺跡って何なの? 研究所だろうと住居だろうと、こんな馬鹿みたいな仕掛けを使わなきゃ扉が開かないなんて、どう考えたって不便じゃない。何を考えて設計されてるの? それとも、ここにいた人達は全員壁抜けか空間移動でも出来たの?」


 あまりにすることが無くてイライラしているマリィちゃんの言葉に、タカシが「これはこういうものだから。様式美って奴だから」などと答えたものだから、マリィちゃんの機嫌はさらに急降下。出現しない魔物より、意味不明な仕掛けより、マリィちゃんをなだめることこそが俺にとっての一番の難問だった。


 結局俺とマリィちゃんはその後も出番が無いまま、タカシは全ての扉を開き、最奥の部屋と思われる場所へと辿り着いた。最後の希望だった「ダンジョンボス」とやらも存在せず、ただの一度たりとも戦っていないというのに、俺は何だか疲れ果ててしまった。


「はぁぁ……終わりか? いや、苦労もしなけりゃ危険も無く終わったんだから、良かったと言うべきなんだろうが……」


「……いや、おかしいよ」


 ウンザリした声を出した俺に対して、部屋の中央から虹色に光る四角い何かを手に取ったタカシが、真剣な表情で呟く。


「おかしい。こんなのあり得ない。アニキとマリィさんがついてきてくれたのに、3人いなきゃ倒せない敵も、3人いないと解けない仕掛けも無かった。オレ一人で全部こなせるなんて、あり得ない」


「あり得ないって……いや、そうなのか……?」


 退屈に沸いた頭を冷やすと、確かに引っかかるものがある。タカシの言う「女神の導き」には、必ず明確な意図があった。一見すると意味不明だが、終わってみれば全てが必要不可欠な要因となる、精密な技術(テクニカ)のような流れがあった。

 そんな力の持ち主が、わざわざ俺たち二人を引っ張ってきて、何もさせないってのは確かに不自然だ。それが不自然だと理解出来るくらいには、俺もタカシに馴染んでしまった。


「何か見落としてる? それともこれから……何だっ!?」


 悩む俺たちを嘲笑うように、馬鹿みたいにでかい地響きが、俺たち全員に襲いかかった。

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