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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第三章 勇者降臨

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004

「進め進め者ども~♪ 邪魔な敵を蹴散らせ~♪」


 とりあえずは指定された「謎の遺跡」とやらの手前の町に行って情報収集をしようということになり、聞いたことの無い、だが妙に耳に残る歌を歌いつつ意気揚々とタカシが先頭を歩いている。そんな姿とは対照的に、俺の足取りはこれ以上無く重い。


「ねぇマリィちゃん。神様っていると思う?」


「神様、ねぇ……定義によるわね。全知全能の存在、みたいなのは否定も肯定もしないけど、人があらがえないほど強いとか、法則を操るみたいなのを神様って言うなら、いるんじゃない? 魔術(マギ)の頂点って、そういう感じなんでしょ?」


「あぁ、そう言われるとそうだね」


 マリィちゃんの指摘で、胡散臭くて仕方なかった神様の存在が、一気に身近なモノに感じられた。想像も出来ないモノではなく、魔物の一番強い奴くらいに思えば、確かに今くらいの理不尽さを強要される力は持っていてしかるべきだ。


「おいおい、オレを無視して何の話だ?」


 そんな俺たちの会話に、いつの間にかこっちに寄ってきたタカシが割り込んでくる。


「いや、お前さっきまで歌って……まあいいや。神様はいるのかとか、そんな話だな」


「神ねぇ……とりあえず、あの依頼者の『女神』ってのはいると思うぞ。いっつも声が聞こえてるからな」


「……へぇ、そりゃ大変だな……」


「まてまて、距離を開けるな。わかってるよ。オレだって自分で言っててヤバいなって思うし。でも聞こえるんだから仕方ないだろ。百歩譲って聞こえるだけならオレだって自分の頭がおかしくなったのかと思わなくもないけど、こうして全然違う世界に飛ばされて、チートスキルとかも貰っちゃったからなぁ……」


 そう言って、タカシが遠い目をする。何とも言えない、苦労人の目だ。


「前もそんなこと言っていたけど、貴方ってその……異世界人? 違う世界から来たの?」


「おう、そうだぜ。日本っていうか地球っていうか、少なくとも魔法の無い世界だな。あー、でもなぁ……この世界も、1000年前まで魔法って無かったんだろ? そうすると、俺のいた時代のもの凄い未来っていう可能性も一応あるんだが……うーん。自由の女神でも立ってたら確実なんだけど」


「また女神かよ。なに、お前のいた世界って、そんなに女神が一杯いたの?」


「いや、神を信じる宗教はいくらでもあったけど、神の存在が証明されたことは無い……はず。だから、自由の女神は単なる銅像で……そうだよな? 別に宗教的な意味は無いと思うんだけど……」


「何かもうふわっふわだな。設定作りが甘すぎるんじゃないか?」


「設定じゃねーよ! てか、じゃあドネットはこの世界の事をどのくらい理解してるんだ? 全然前提知識の無い奴に、どのくらい説明できる?」


「そりゃあ……」


 言われてみて、頭をひねって、確かに言われたとおりだと思った。自分のいる世界のことなんて、何となくしか理解してない。これを「異世界人」に説明しようと思ったら、確かにふわふわした解説がせいぜいだ。


「あー、すまん。確かにそうだな。俺も無理だわ」


 素直に謝る俺に、タカシはまた疲れた目になって答える。


「だろ? それでも、もうちょっと文明が遅れた世界なら、まだ異世界アドバンテージがあったと思うんだけどな……

 ほら、この世界って中世ファンタジーっぽいのに、やたら技術が進んでるじゃん? ギルド……ああいや、協会か? の入り口が自動ドアだったり、奥の方でパソコンっぽいので情報を管理してたり、料理も普通に美味いしトイレとかも綺麗だし、俺の現代知識が入り込む余地がひとっつも無いんだよ。紙もマヨネーズも普通にあるってどういうことだよ!? 農業も魔法の力で発展してるし、内政チートで成り上がりのルートが最初から完全閉鎖されてるとかクソすぎるだろ!?」


 肩を怒らせ吐き捨てるようにそういったタカシの背中が、次の瞬間には力なくうなだれる。それがあまりにも哀れで、俺は思わず、その背中にポンと手を当てる。


「まあ、あれだ。人生なんて理不尽なもんだよ。な?」


「ううぅ、ドネット……わかってくれるのはアンタだけだよ……」


 ついさっきまで怒っていて、一瞬前までうなだれていたタカシが、今度は俺の胸にすがりついて弱音を吐いている。いや、情緒不安定すぎるだろ。見た目は15か16歳くらいだと思うんだが、こうしていると6、7歳の子供のようにも思える。少なくとも、サンティよりは年下っぽい。


「そうだな。頑張ったな。辛かったな。まあ、人生なるようになるさ。タカシはまだ若いんだから、これからいくらでもいいことあるって」


「うぅ……ぐずっ……ドネット、いやアニキ……ドネットのアニキぃ」


「あら、随分懐かれたわね? アニキ?」


 すがりつかれて身動きの取れない俺を見て、マリィちゃんが笑う。知らない人が見れば妖艶なその微笑みは、その実単に俺をからかってるだけだ。


「あーもう勘弁してくれ。ほら、タカシも泣き止め。クソな世界でクソな女神を見返すために、クソな依頼なんてさっさと片付けちまおうぜ?」


「ぐずっ、そうだな。アニキの言う通りだ! みんなで頑張って、さっさと世界を救っちまおうぜ! で、その後はハーレムエンドだ!」


「ハーレムって……ああ、うん。若者らしいいい夢だ。いい具合に頑張れ。俺もまあ、娼婦とかで良ければ美人で気立ての良い人とか紹介してやるから」


「そうね。私も可愛い子を紹介してあげるわ」


「アニキ……それにマリィの姉さん……」


 あ、マリィちゃんは姉御じゃないんだ。


「ありがとう! オレ頑張るよ! よーし、勇者タカシ、まだ見ぬハーレムメンバーに向けて、全速前進だ!」


 最終的にはウザイくらいまで元気になったタカシが、俺たちの前を肩で風を切って歩く。不振なのを通り越していっそ心配にすら思えてくるその背中を見つつ、俺はこっそりとマリィちゃんに話しかける。


「で、実際どうだと思う?」


「そうね。私よりDDの知り合いの子を紹介してあげるのが良いと思うわよ? あの手の男は、しっかりした年上の女性の尻に敷かれるくらいが一番幸せになれると思うし」


「いや、そうじゃなくて」


 突っ込みを入れる俺に、マリィちゃんの目が刹那真剣になる。


「少なくとも、嘘を言ってる感じは無いわね。騙そうと演技してるとも思えない。私たちに取り入ろうとしている……というのも無いでしょうね。慕われてるとか、頼りにされてるとは感じるけど、利用しようみたいな悪意や敵意は、全然感じないもの」


「てことは、まあ様子見か。行動を縛られてるのか、思考を誘導されてるのかわからないけど……あんまり面白くは無いよね」


 俺はいつだって、自分で自分の道を選んできた。だからこそ、成功も失敗も、栄光も挫折も、その全てが俺のものだ。そこに横やりを入れられるのは、かなり気に入らない。でも、そんな横やりを入れられるほどの存在にむやみに抵抗しないくらいには、俺も大人だ。ならばやるべきは、折り合いをつけられる場所を見つけること。


「まあ、たまにはいいんじゃない? 面倒を見る駄目男が1人から2人に増えたくらいなら、どうとでもなるわよ」


「そうだ……あれ? 今凄く自然に俺のこともカウントされてなかった?」


「おーい、二人とも何やってるんだよ! 早く来いよ!」


「はいはい。今行くからあんまり先走らないの! 早い男は嫌われるわよ!

 さ、行きましょDD」


 さりげない会話の端々にまで毒を染み込ませてくるマリィちゃんに、俺は苦笑いして肩をすくめてから、二人の後を追ってゆっくりと歩いて行った。

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