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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第三章 勇者降臨

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003

「大勝利!」


 高々と剣を掲げ、勝ちどきを上げるタカシ。まあ普通に考えて、ゴブリン5匹に完全な不意打ちで先制攻撃を決められたら、負ける要素なんて微塵も無い。俺が銃で2匹、マリィちゃんが予備のハンドアックスで2匹、タカシが1匹だ。

 ちなみに、マリィちゃんが爆裂恐斧を使わなかったのは、タカシを警戒したからじゃなく、単純にどう動くかわからない、それほど強いわけでもないタカシが側にいたら、大きな斧を振り回すのは危ないと判断したからだろう。俺の切り札と違って、マリィちゃんの斧は別に隠してないしね。


「にしても、やっぱりドネットもマリィも強いな! これはオレも、本腰入れて『強奪』スキルを使うべきかな?」


「……強奪?」


 あまりに自然に、敵意も悪意も警戒心すらなく発せられたその言葉に、俺はさっきまでよりよほど神経を張り詰める。


「おうよ! 俺が貰ったチートの1つでさ。『相手の動きを見て、それを反復練習することで、どんなスキルでも身につけることができる』んだぜ! 凄いだろ!」


「……強奪?」


 さっきとは違う意味での、疑問系の言葉が漏れる。自分の持ってない技術や、自分より優れた技術を持つ相手を見て、それを真似て練習し、身につけるというのは、ごく普通の修行というか、訓練の方法だ。


「……それは普通に訓練して技術を習得するのと、何か違うの?」


 俺と同じ結論に至ったマリィちゃんの発言に、タカシの肩がガックリと落ちる。


「……そうだよなぁ。うん、オレだってわかってるんだよ。でも、これだって使えるんだぜ? 一般人よりちょっとだけ上達する速度が速いし、あとは師匠さえ良ければ、オレ自身の才能とか、向き不向きを無視してスキルが習得できるしな。要するに、オレ自身の能力と関係なく、師匠のスキルの何割かをオレの力に出来るんだよ」


「あら、それは凄いじゃない。つまり、世界最強の人に教えを受けられれば、多少の努力でその何割かの力を得られるってことでしょ?」


「そう、そうだよ! 凄いだろ! やっぱり凄いよな! 凄い……うん、まあ、オレみたいなのに世界最強の人が何ヶ月もつきっきりで修行してくれるかっていう、現実的な壁はあるけどさ。凄いんだよ……凄いチートスキルだよ……」


「あー、まあうん。頑張れ」


 浮き沈みの激しいタカシに、俺は適当な励ましの言葉をかける。言っていることに嘘が無いなら、確かに凄いが、確かに微妙だ。相手の実力の何割か……と言うのが仮に半分だったとしても、自分よりかなり格上の相手に師事しなければ意味が無いということになる。そして、そう言う実力の隔絶した相手と行動を共にする機会は、自分が成長すればするほど減っていく。D級の頃なら面倒を見てくれるC級や、場合によってはB級の掃除人もいるだろうが、Cまで上がれば一人前だ。自分より弱い足手まといと組んで仕事をする奴は、特別な理由が無ければまずいない。


「な、なあドネット。そういうわけだから、オレに銃の使い方とか教えてくれないか?」


「ん? ああ、教えるのは構わないけど、町に着くまでくらいならともかく、ちゃんと指導するなら依頼になるぞ? それと、銃は自前で用意して貰うことになる」


「うぅ……ドネットの銃を貸して貰うとかは……」


「自分の武器を他人に貸す馬鹿がいるわけないだろ。それに、自分の銃が無いなら結局教えられても使えないだろ?」


「オレの場合は、スキルさえ習得しておけば、あとで銃を手に入れたときに使えるから……」


「なら、銃を手に入れた後で指導の依頼を出すんだな。その時は教えてやるよ」


 俺の言葉に、タカシはぐぅぅと唸ってから、諦めた顔で視線を落とした。よし、とりあえずこれでこの旅の間は大丈夫だろう。正式に依頼されれば当然教えるが、B級の指名依頼料は安くないし、魔導銃ははっきりと高い。鎧を纏い、剣を装備するタカシが趣味でそれを入手するほどの金を得られるのは、相当先だろう。


 正直、タカシが悪い奴だとはもう思わない。感情が顔に出すぎで、人を騙したり利用したりするには、あまりにも向いていない。これ全てが計算され尽くした演技だというなら別だが、それは太陽がいつもと反対の方向から昇るような確率だろう。


 だが、こいつから伝わってくる厄介事の匂いが、時を追うごとに強くなっていく。勘どころか本能のレベルで「こいつと関わると面倒なことになる」と感じる。だが、それでいて完全に見捨てるという方向には意識が向かず、そのうえ「既に巻き込まれていて逃げられない」という悪寒……予感がひしひしと感じられる。


 そして、それはきっと間違いないのだろう。結局大したことは無く無事に町までたどり着き、まずはリューちゃんに挨拶でも……と思ったはずなのに、何故か酒場の依頼掲示板(オーダーボード)が気になって仕方がなかったのだ。


「ねぇ、マリィちゃん……」


「はぁ。わかってるわ。行きましょ」


 マリィちゃんと二人、連れだって歩く。依頼掲示板(オーダーボード)にひらめく1枚の依頼書が、まるで石ころに混じる宝石のように、俺の視線を掴んで離さない。手にとって内容を見れば、『突如現れた謎の遺跡の調査』の依頼。


 おかしい。おかしすぎる。掃除人は研究者でも考古学者でもない。なのに、そう言う人達の護衛依頼でもない、直接の調査依頼なんて、普通に考えてあり得ない。しかも、依頼主が『女神』だ。ふざけてるにも程がある。いや、万が一のこととして親に「女神」と名付けられてしまった可哀相な女の子の可能性があるので、そこは言い過ぎかも知れないが……とにかく、色々あり得ない依頼だ。

 だが、俺たちはそこから視線を外せない。変な呪いにでもかかったかのように、依頼書を手に取り、酒場のマスターに渡す。


「……これを受けるのか?」


「まあ、色々事情があってね」


「……そうか。深くは追求しないが、せいぜい気をつけろ」


 登録証(ライセンス)を提示し、ペタリと判子を貰って、結局その日はそのまま泊まった。リューちゃんに挨拶しようと思っていたはずなのに、どうしても協会に足を向ける気分になれなかったのだ。結局そんなもやもやした気分のまま、朝食を済ませてから指定された集合場所へ向かうと……


「おお! ドネットにマリィじゃないか! お前達も依頼を受けたのか!?」


「あー、まあ、何となく……な……」


 輝く笑顔で出迎えてくれた予想通りの人物に、俺は苦り切った口調で答える。たぶんこの流れには逆らえない。流されてもいいことは無いが、逆らうのは無理だというのが本能で感じられる。理不尽きわまりないが、最初から世界には、理不尽なことなんて溢れかえっている。自力で対処できるレベルの理不尽なら、むしろ幸運であったとすら言えるだろう。


「そういうことなら、改めて挨拶しておくか。オレの名はタカシ! お前達二人とも、今日からオレの勇者パーティだ!」


「ドネット・ダストだ。出来ればパーティは遠慮したいな……」


「マリィ・マクミランよ。私も相棒(パートナー)がいるから、パーティは間に合ってるわね」


「照れて遠慮なんてするなって! 大丈夫、お前達のことも、ちゃんと俺の英雄譚サーガに書き加えてやるからな!」


「あー……帰りたい……」


 まだ出発してもいないのに、俺は早くも、暖かいベッドが恋しくなっていた。

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