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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第三章 勇者降臨

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001

 それは、町の協会で無事に護衛の依頼を受け、本拠地(ホームタウン)へと帰る途中の出来事だった。護衛依頼があるくらいだから、魔物の襲撃も当然ある。1日2日ならともかく、1週間全く襲われないというのは、よほどの幸運の持ち主でもなければあり得ない。


 だが、世の中には自分がその「よほどの幸運の持ち主」であることを盲目的に信じる奴というのがいる。あるいは、護衛すら雇えない程に困窮している可能性もあるが、普通に考えてそれなら町の中で金を稼ぐ手段を探す。1週間程度の距離で移動出来る町との交易で、人生を一発逆転できるような稼ぎなんて常識的には上げられないし、そのくせ途中で魔物に襲われれば、金や積み荷どころか人生すら終わりになるのだから。


 遠くに見える魔物に襲われている馬車の持ち主が、果たしてどんな経緯の元そうなったのかはわからない。散々言ったが、護衛が依頼主をほっぽり出して逃げたという可能性だって当然あるのだ。襲われている人だけが悪いとは限らない。


「で、どうします? 迂回出来る程道は広くないですから、戦闘を回避するならここで待機になりますけど……」


 俺の言葉に、護衛対象の商人がうーんと唸る。全く関係ない人間を助けるために自分たちを危険に晒すのは論外だ。とはいえ、何もしないのが最善というわけでもない。助ければ恩が売れるだろうし、放置しても血に酔った魔物がこっちに襲いかかってくる可能性もある。それなりの距離を引き返すなら別だが、そうなれば到着予定日がずれ、俺たちに払う護衛の依頼料が上がる。


「魔物の詳細はわかりますか? 戦った場合は?」


「遠目だから絶対とは言えないけど……グレイウルフかしら? 群れで狩りをする魔物ね。脅威度はC。数は5。戦った場合は……まあ余裕ね」


 マリィちゃんの言葉に、商人が目を閉じて唸る。頭の中で、損得を考えているんだろう。

 俺たちにしてみれば、グレイウルフは敵じゃない。20、30といれば2人だけで護衛対象を守るのは難しいが、俺たちしか狙われないなら、50いたって蹴散らせるだろう。だが、戦闘経験の無い人間にとって、連携した・・・・5匹が襲いかかってくるのは、ほとんどどうしようも無いだろう。


「わかりました。助けます。お願い出来ますか?」


 いかなる計算が成されたか、とにかく決断が成された。ならば、やることは簡単だ。


「了解。じゃ、俺はちょっと行ってくるから、マリィちゃんは馬車を護衛しながら歩いてきてくれる?」


「了解。気をつけてね」


 頷くマリィちゃんと商人を見て、俺は襲われている馬車に向かって走り出す。全員でのんびり歩いて行って間に合うわけがないし、護衛対象を放り出すのは論外なので、これが最善の選択だ。数百メートルの走りきり、周囲にいたグレイウルフの足下に牽制の銃弾を撃ち込みながら、襲われていた人の側に行く。


「加勢に来たんだが、助けられる気はあるか?」


「お、お願いします!」


 震える声の商人に確認を取ると、俺は改めて銃を構えた。ただ倒すだけなら遠距離から撃ち殺せば良かったが、これをやっておかないと、後々のトラブルになることがある。自分が助かった瞬間、手のひらを返して馬鹿みたいな要求や、いちゃもんをつけてくる事例は少なくない。命をかけて助けてやって、その結果が「お前達が遅かったから被害が出た。弁償しろ!」だなんて、馬鹿らしくてやってられない。


 改めて、周囲を見回す。4匹のグレイウルフがこちらを囲むように円を描いて動き、1匹が奥からこちらを見ている。なかなかに狡猾で慎重だ。まあ、だからこそこの商人が生きていたとも言える。これがゴブリンとかだったなら、何も考えずに突っ込んできて、とっくにやられていただろう。


 2匹までなら、一息で撃ち殺せる。だが、残り3匹に一斉に襲いかかられるのは面白くない。俺はともかく、商人や馬車には被害が出るだろう。とはいえ、切り札を切るような状況では全く無いし、ほんの数分時間を稼げば、マリィちゃんがやってくる。ならば、ここは慎重に……


「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 不意に……本当に不意に、1匹のグレイウルフの背後に、掃除人と思われる男が現れた。大上段から直剣を振り下ろし、目の前にいたグレイウルフを一刀両断する。


「嘘だろっ!?」


 驚愕の声を上げつつ、俺は馬車の背後の方にいた2匹を撃ち殺す。これで後ろを取られることは無い。残りは馬車の前方に2匹。そいつらは時間差で剣士に飛びかかり、1匹は切り伏せられるも、最後の1匹が、剣士の顔に牙を立てようとする。


「伏せろ!」


 俺の言葉に反応して、剣士がカクッと膝を落とす。そうなれば、誤射の心配も無い。俺は最後の1匹を素早く撃ち殺し……それで、戦闘は終了だ。


「ふぅ……大丈夫か?」


 一息ついた俺の言葉は、2人に向けてのものだ。商人の方からは「大丈夫です。助かりました」と言葉が返り、剣士の方は、笑顔を浮かべて手を振ってくる。


「オレの方も大丈夫だ。あんたいい腕だな!」


「そりゃどうも。あんたの方もかなりのもんだろ? 声を出して攻撃するまで、気配を全く感じなかった」


 それこそが、驚愕の理由。いかに格下の魔物だったとはいえ、戦闘中に気を抜いたりはしない。なのに、魔物の背後に立ってるコイツに、俺は気づかなかった。


「ん? エンカウントしてみるまで見えないのなんて、当たり前だろ?」


「……ん?」


 何でも無い、当たり前のことを話すように言った剣士の言葉の意味が、俺にはわからない。何だろう? 何かの専門用語か?


「あら、随分早く終わったと思ったら、私たちの他にもお客さんがいたのね。それとも、気づかなかっただけで護衛の人がいたのかしら?」


 混乱する俺の背後から、合流してきたマリィちゃんの声が聞こえる。これで全員揃ったので、状況の整理も踏まえて、まずは全員で自己紹介することになった。


「俺はドネット・ダスト。B級掃除人だ。で、こっちは同じくB級のマリィちゃん。こちらの商人……デニさんの護衛を務めている」


「マリィ・マクミラン。B級掃除人よ。DD……ドネットとは相棒(パートナー)よ。宜しくね」


「デニです。宜しくお願いします」


 俺たちの方が終わると、襲われていた商人が、困り果てたような表情で口を開く。


「私は行商人で、ハデナと言います。護衛の方は、雇っていたのですが……魔物が現れたら、一目散に逃げてしまいまして……」


「逃げた? 護衛対象を差し置いて逃げたりしたら、例え生還しても協会から事情聴取や、ペナルティーがあると思うけど……?」


「はい。あの、その……協会を通してではなく、町で知り合った方に、直接依頼したので……」


「ああ……それはまあ、ご愁傷様」


 言いずらそうにそう答えたハデナ氏に、俺は言葉だけのお悔やみを示す。協会を通さないってことは、そういうことだ。僅かな手数料をケチり、自分の命を安売りするような奴に、同情の余地は無い。


「それじゃ、最後はオレだな。オレはタカシ。C級冒険者……こっちだと問題掃除人(トラブルスイーパー)か? で、勇者だ!」


「はぁ……勇者?」


 またしても、奴の言葉がわからない。いや、勇者という言葉の意味はわかる。わかるが……自分で勇者と名乗る意味がわからない。


「そうとも! 魔王を倒して世界を救う、異世界からの使者! それがオレ、勇者タカシだ!」


 ……どうやら、あまり関わらない方が良さそうだ……

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