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「確認、ゴブリン6! ファイター5とアーチャー1」
「確認。ゴブリン6。アーチャーは俺がやる。ファイターは任せても?」
「誰に言ってるのかしら? 余裕よ」
そう言って笑うと、マリィちゃんが飛び出していく。その手には、30センチほどの金属の棒。
「武装具現化・爆裂恐斧!」
言霊の詠唱と共に、マリィちゃんの持つ棒から、馬鹿でかい両刃の斧が、光の粒子と共に生えてくる。真っ黒な本体に、血のように赤い筋が幾本も走り、まるでひび割れているように、あるいは、押さえきれないほどの力が爆発寸前になっているかのように見える。
マリィちゃんは、割と小さめの女性だ。身長は150センチちょいとやや小柄で、体重もそれに見合う程度しかない……はず。言及は絶対にしないが。とはいえどれほど多く見積もったとしても、あのサイズの鉄の塊を振り回せるほど重いとは、天地が裂けても口に出来ない。それに対して、爆裂恐斧は刃渡りだけでも100センチ。柄も入れれば2メートルは超える超重量兵器だ。
そんなものを、マリィちゃんは軽々と振り回し、ゴブリン達を圧殺している。爆裂恐斧は切れ味もバツグンだが、それ以前にあの重量で叩き付けられたら、ゴブリンなんて脆弱な雑魚は、一瞬でミンチになってしまう。
それほどの武器を、何故マリィちゃんのような女性が振り回せるのか? 答えは勿論、魔術である。魔術で具現化された武器は、金属であって金属ではない。質量はあるのに、重量が無いのだ。そのため、叩き付けられた方は見た目通りの衝撃を受けるのに、扱う方のマリィちゃんは、持ち手の鉄の棒の部分の重さしか感じないという、反則どころかイカサマレベルの超技術なのだ。
勿論、スーパーな技術だけにスーパーに高額であり、爆裂恐斧レベルのものになると、もはや金を積んだら買えるというものではない。何故そんな物をマリィちゃんみたいな年若い女性が持っているのか……は、彼女の個人情報になるから、俺は知らない。相棒の過去を詮索するのは、掃除人の間では御法度だ。
重要なのはたったひとつ、彼女はそれを持っていて、それを使いこなすだけの実力があるということ……あ、これだと2つか?
まあとにかく、マリィちゃんの近接戦闘能力は馬鹿みたいに高いのだ。だから俺は絶対近づかないし、これっぽっちも心配しない。寝起きで寝ぼけてたって、ゴブリン程度に後れを取ることはない。
「さて、それじゃ俺も仕事しますか」
俺は手にした相棒……6発装填の銀色のリボルバー銃を構え、弓を持ったゴブリンに狙いを定める。所詮はゴブリンだけあって、目の前で吹き荒れる暴虐の嵐に、弓を構えることすらせず怯えて突っ立っている。これなら、外しようが無い。
「狙いは一瞬、撃つのは一発。穿て 一撃必殺!」
パァンという甲高い音と共に、白銀の銃身が腹を輪転させ、飛び出した鋼鉄の牙が、狙い違わずゴブリンの額に風穴を開ける。
「覚えときな。いい男は、狙った獲物を逃さないんだぜ」
フッと銃口から登る煙を吹き消し、俺は腰のホルスターに相棒をしまう。
「何というか、いつも通りねぇ」
そんな、格好いいという言葉の具現化とも言える俺を見て、何故かマリィちゃんはあきれ顔で声をかけてくる。
「何だよマリィちゃん。ひょっとして惚れちゃった?」
「惚れないわよ。そもそも、貴方時々そうやってかっこつけてるけど、私の爆裂恐斧と違って、貴方のは詠唱とか必要無いでしょう?」
「えっ!? 魔導銃じゃないんですか!?」
マリィちゃんの言葉に、マール氏から驚きの声があがる。魔導銃とは、魔石を用いて作られた弾丸を撃ち出す、いわば魔術師の杖の銃バージョンみたいなものだ。杖と違って本人が詠唱する魔術の威力に上乗せはできないが、代わりにあらかじめ弾丸に込めておいた魔術を、ごく短い詠唱で撃ち出すことが出来る、一般的に銃といえばこれ、という魔導具のことだ。
だが、俺の相棒はそんなありきたりなものじゃない。もっと特殊で特別で、特製の……
「ええ。彼が使ってるのは、火薬式の実弾銃よ」
「実弾!? 火薬!? えっ、実際に使ってるんですか!?」
……非常に不本意だが、これが普通の反応らしい。まったくもって、この浪漫が理解できないとは、嘆かわしい……
「正直理解はできないけど、それでも腕はいいのよ。伊達にB級じゃないってことね」
「いやぁ、照れちゃうな」
「別に褒めて……いえ、褒めてるのかしら? まあいいわ。じゃ、討伐証明をつけたらさっさと行きましょうか」
そう言って、マリィちゃんが自らの登録証を、元ゴブリンだった肉塊にかざす。一瞬の後ピカッと光って、それで認証は完了だ。俺の方も自分が倒したゴブリンに同様の処置をして、馬車の方へと歩いて戻る。
後片付けは、必要無い。何百匹とかの大量殺戮でも無い限り、放っておいても他のゴブリンやら何やらが、勝手に食って片付けてくれるからだ。
「お待たせしました。一応確認ですが、怪我などはありませんか?」
「ええ、はい。何の問題もありません」
マリィちゃんににっこりほほえまれて、マール氏は上機嫌だ。勿論、いかなる被害も出さずに戦闘を終えたことも大きい。
まあ、ゴブリン6匹程度で、B級持ちが後れを取るわけないんだが。
「では、行きましょうか」
美女の先導にしたがって、俺たちの旅は再開する。元々大した距離じゃない。目的の町は、もうあと少しだ。