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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第二章 一杯の借り

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011

「何だこりゃ、遺跡か……?」


 目の前にあるのは、どう見ても人工物。全体が蔦や苔に覆われてはいるが、横幅は10メートル、縦は3メートルくらいが露出していて、そこから下は土に覆われている。上は土が被っていてわからないけど、横の壁の厚さは30センチほどしかないから、建物というよりは、蓋の開いた箱が倒れている感じだろうか?


「コンテナ……? いや、それとも大型輸送機の貨物部分か?」


「輸送機? こんなでかい物を、レールも無いのに走らせてたのか?」


 顎に手を当て呟くダレルに俺が問うと、ダレルは首を振ってそれを否定する。


「地上じゃない。空だ。こういうでかくて大量に荷物を運べる空飛ぶ乗り物が、昔は沢山あったんだよ」


「空!? それはまた豪儀な話ね」


 驚きの声を上げるマリィちゃんに、何故かダレルの方も驚いた顔をして、それからすぐにしたり顔になる。


「ああ、そうか。今でこそ誰も空は飛ばねぇ。ドラゴンだの何だのに対抗できねぇからな。でも、『大変遷』の前はそんなものいなかったから、普通に空飛ぶ乗り物はあったんだよ。それこそ個人で持ってる奴だっていたし、何なら星の海にまで行った奴もいたしな」


「そーなんだ。昔は凄かったんだね!」


 無邪気にそう言うサンティの頭を、強面の癖して優しい顔つきになったダレルが撫でる。


「今の方が便利なことも大分多いが、空とかに関しちゃ、確かに昔の方が凄かったな。

そんなことより、さっさと追うぞ。こいつも調べたいが、まずは奴を確実に仕留めておきたいしな」


 そうダレルに促され、俺たちはシュトラグルディアーを追って中に入る。と言っても、終点はあっという間だ。光が差し込まなかったから暗くて見えなかっただけで、入り口から最奥まで、せいぜい30メートルあるかないか程度だろう。


「なるほど。ここが巣だったってわけか。にしても、どうしたもんかねこれは……」


 目の前には、遂に倒れ込んだシュトラグルディアーと、そこに必死に頭をすり寄せる、子供のシュトラグルディアーがいる。


「ねえドネット……」


 サンティの声に、俺は嫌な予感を感じつつ、顔を向ける。


「子供の方が肉が軟らかくて、美味しいかな?」


「……ハッ! そうだな。たぶん美味いんじゃないか?」


 馬鹿みたいに的外れだった自分の考えに、思わず笑ってしまった俺を見て、ダレルが苦笑する。


「手負いの親を見逃したりしたら、次は積極的に人を襲う。子供にしたって、普通の野生動物ならともかく、魔物を見逃すなんてあり得ねぇだろ?」


 「俺の娘を馬鹿にするな」とでも言いたげな顔のダレルに、俺は肩をすくめて答える。そして、そういう判断が出来てるなら、躊躇う理由は何も無い。

 ダレルの一撃で子供が吹っ飛び、マリィちゃんが首を落とす。動けなくなった親の方もマリィちゃんの手で首を落として、俺とダレルの二人がかりで血抜きのために逆さづりにする。勿論、遺跡の外でだ。

 血の臭いで他の魔物が集まってくることも考慮し、マリィちゃんを見張りに残して、俺たちは改めて遺跡の調査を始めた。率先して見張りを引き受けてくれたマリィちゃんに「これだから男はいくつになっても……」みたいな顔で見られたが、いい男ってのはいくつになっても冒険心を忘れないものなんだから、仕方ない。


「うーん。何にもないなぁ……」


 探し続けること、しばし。明らかなガラクタならそれなりに転がっているが、価値のありそうなものはない。完全に文明が崩壊してるならネジ1本だって貴重品だろうが、衰退したのは技術(テクニカ)だけで、文明の水準そのものは落ちてないから、こんな物持って帰ってもゴミにしかならないだろう。もしもこいつが錆びたネジ型の超兵器とかだったなら……まあ、その時は神様にでも恨み言を吐けばいいさ。


 振り返って声をかければ、サンティの方でも何も見つかってないらしい。そっちは一応後で俺が調べ直すが、まあ期待薄だろう。もうちょっと入り組んでたり、ドアが閉まって密閉されていたりすれば何かが残っている可能性があるが、何せ魔物の巣だ。普通に外気に触れてるし、そもそもあんなでかい魔物が歩き回っていたんなら、足下にまともな物が落ちてるはずが無い。

 そんなことはわかりきってるが、それでも調べずにいられないのが、男の浪漫ってやつなんだ。


「おーい、ダレル。そっちは……って、何やってんだ?」


 顔を向ければ、ダレルがしきりに壁やら天井やらを調べている。そういうところなら、確かにケーブル類やちょっとした技術(テクニカ)の産物はあるだろうが、それこそ大抵の遺跡でありふれているそれらには、取り出す労力に見合う価値は無く、それをダレルが知らないわけがない。


「壁の中にお宝でもあるのか? 壊すならマリィちゃんと見張り変わるけど……」


「いや、そうじゃない。ってか待て。絶対壊すな。いいか、俺が指示するまで、壁とか床とかは絶対に壊すな」


 いつになく真剣なダレルの言葉に、俺とサンティはその場でおとなしく奴の作業を見守る。しばらくして、待つのに飽きたサンティがマリィちゃんのところに行き、俺もそっちに行こうかと思った頃。


「やった! ある! こりゃあるぞ! こいドネット! 手伝え!」


 突然騒ぎ出したダレルに連れられ、俺は遺跡の上に登らされる。


「いいかドネット。この辺を掘れ。素手で、慎重にだ。下にあるものを絶対に傷つけないようにな」


「素手で掘れって……横から見た感じだと、結構土の厚さあるぞ? せめてある程度までスコップとかで……」


「絶対駄目だ! 最低でも下にあるものの確認が出来るまでは、傷が付きそうな方法は全部許さねぇ!」


 有無を言わせぬダレルの勢いに押されて、俺たちは発掘作業を始めることになった。そう、本当に発掘作業だ。何せ2週間近くここに通わされて、毎日地面を掘り返し続けさせられたんだからな。来る日も来る日も地面を掘らされ、クタクタになったら帰って寝て、朝起きたらまたやってきて、掘って掘って……の繰り返し。シュトラグルディアーが美味かったことだけが救いだが、来る日も来る日もむさい親父と二人で土いじりなんて、精神衛生上も良くない。だが、これだけ必死のダレルの頼みを断るってのも、俺の選択肢には無い。


 掘って、掘って、掘り続けて……そして遂に、地面の底……遺跡の天井に当たった。見えたのは、黒いような青いような感じの、平べったい板。いや、箱形の遺跡の天井なんだから、平べったいのは当然だが。


「あった。あったぞ……墜ちてすぐ土に埋まったのか? ほとんど通電して無いから、状態も悪くない。経年劣化は当然あるが、これなら……」


「おいダレル。結局これは何なんだ?」


「あー、あとで全部説明してやるから、俺の言う通りに掘り出して、この板はずせ。たぶん4枚あるはずだから、全部外して家に持って帰ったら、全員にまとめて教えてやる」


 そう言われれば、ここで俺だけ聞くのもいただけない。俺はその後も必死で発掘作業を続け……結局その日どころか、外して持ち帰るのにさらに3日かかった……やっとのことで、その板をダレルの家へと持ち帰った。


「よーしよしよし! お前ら、本当に良くやってくれた!」


「いや、やったの俺だけだけどね……マリィちゃんとサンティは留守番頼んでたし」


「チッ。ちいせぇ事を言うんじゃねぇ! いい男ってのはつまんない愚痴は言わねぇもんだ」


「おまっ、お前がそういうこと言うのかよ!?」


「はいはい、じゃれ合うのは後。で、結局これは何なの?」


 マリィちゃんの言葉に、ダレルが会心の笑みを浮かべて答えた。


「こいつぁ、太陽光発電機ソーラーパネルだ」

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