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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
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4/28 内容微修正。大きな違いはありません。

「時間通りね」


 朝。待ち合わせの場所にたどり着いた俺に、先に来ていたマリィちゃんが挨拶をしてくる。


「で、昨夜は何処に泊まったの? 貴方の手持ちじゃ、あのお酒1杯で打ち止めだったと思うけど?」


「ああ、それわかっててスルーしたんだ……ふっ、まあ、いい男は放っておかれないもんだからな」


 そう、俺は昨夜、酒場で知り合った素敵なレディーとベッドを共にしていた。残り半分のグラスを空けるまですら放っておかれないのが、いい男ってものだ。


「あぁ、それでその顔なのね」


 納得したように、同情したようにマリィちゃんが言う。俺の顔には、赤い手のひらの後が、くっきりと残っているであろうから。


「ふっ。いい男ってのは、別れるときに女を泣かせちまうもんだからな」


「どうせあれでしょ? いつもみたいにロマンチックに盛り上げて、手慣れた前技で燃え上がらせて、でも我慢出来ずに口か手で出しちゃって、それで終わりで復活しない。

 流石よねぇ。永遠の半童貞。『一発屋ワンショット・フィニッシャー』さん?」


「……ふっ。いい男ってのは、だらだら女を抱いたりしないからな……」


「それは抱いたって言えるの? まあ別にいいけど。っと、依頼主が来たみたいね」


 マリィちゃんの言葉に合わせるように、旅慣れた旅装の男が、馬車を引いてやってくる。出立の準備をしている奴らはそれなりにいるが、門の前で突っ立って話しているのは俺たちだけだったから、すぐにこちらを見つけて、手を振ってくる。


「護衛の依頼を出したものなんですが、貴方たちが?」


「依頼を受けたB級掃除人(スイーパー)、ドネット・ダストです」


「同じく、B級掃除人のマリィ・マクミランです」


 俺たちは登録証を取り出し、依頼主だと思われる相手に見せる。彼も自分の行商人(マーチャント)登録証を取り出し、俺たちの登録証にかざす。すると、一瞬キラッと俺たちと彼の登録証の上を光が走り、そしてすぐに消える。


「はい、確認できました。改めまして、私がお二方に護衛を依頼した、行商人のマール・デオールです。短い間ですが、宜しくお願いします」


 俺たちは互いに挨拶を交わし、荷馬車のチェックが終わると、街の門から外に出た。ぽかぽかとした春の陽気の下、俺たちはゆったりと旅を続ける。


「天気は快晴、視界は良好。見渡す限りに敵は無し……か。平和なもんだな」


「はっは。この辺は治安も良いですし、街道沿いなら魔物も滅多に現れませんからね。まあ、だからこそ護衛代をけちって、その滅多なことに遭遇して、命や財産を無くす人もいますけど」


「まあ、そうでしょうね。安全は目に見えないですから。最近は魔導列車の料金も下がってきたって言いますから、尚更」


「いやいや、王都や大都市を股にかける大商人ならともかく、私みたいな普通の行商人に、魔導列車の料金は無理ですよ。そもそもあれじゃ、小さな街や村には回れませんから」


「まあ、徒歩と違ってレールが無いところには行けませんしね」


 見た目は文句なしの美少女なマリィちゃんとの会話に、マール氏も楽しそうに応じている。

 ちなみに、魔導列車ってのは、魔術(マギ)技術(テクニカ)の集大成だ。鋼鉄の車体を馬鹿みたいな出力の魔力障壁で覆って、これまた馬鹿みたいな速度で街から街を駆け抜ける、世界最高の移動手段。ただし、移動するにはレールと呼ばれる鉄の道を先に敷設しなくちゃならないので、今走ってるのは大国の首都や主要都市なんかを結んでるルートだけだ。

 当然運賃は、人でも物でも馬鹿高い。とはいえ、ほぼ間違いない安全に、高速・大量の物資輸送ができるとなれば、大金をかけても使う奴はいくらでもいる。それこそ今マール氏が言っていたように、大商人なんて呼ばれる奴らは、だいたい魔導列車のルートを商売の基点にしている。


「そういや、何で魔導列車のレールって盗まれないんだ?」


 ふと浮かんだ俺の素朴な疑問に、マリィちゃんがあり得ない物を見たという形相をする。


「DD……貴方それ、本気で聞いてる?」


「……いい男は、細かいことは気にしないもんさ……」


 驚愕の視線を向けるマリィちゃんから、俺はそっと視線を外す。皆が当たり前に語るからこそ実は知らないってことは、往々にしてあると思うんだが……今回はそれよりちょっとはずれていたようだ。


「魔導列車のレールには、高度な警備用の魔法が仕込まれていて、下手に掘り出そうとしたりしたら、大きな音が鳴って、周囲の魔物を呼び集めるんです。当然同時に警備隊にも連絡が行きますから、大きくて重いレールを抱えて魔物の集団を蹴散らし、警備隊が来るまでに撤収……というのは、現実的ではないでしょう。魔物自体は、生きていない物であるレールには興味を示しませんしね」


 マリィちゃんの代わりに、マール氏が親切にも説明してくれた。おぉ、そんなことになってたんだ。今度酒場で引っかけた女の子にも教えてあげよう……


「言っておくけど、今の常識よ? こんなこと自慢げに話されたら、むしろ馬鹿だと思われて引かれると思うわよ」


「……わかってるさ。いい男は知識をひけらかしたりしないしな」


 マリィちゃんの千里眼は、俺の心の中までお見通しらしい。怖い怖い……


「っと、そんなこと言ってる間に、お客さんみたいよ。右前方、ゴブリン6!」


「なっ!? よ、宜しくお願いします」


「勿論。マール氏は下がっててくださいね。あ、でも、離れすぎないように」


 若干のおびえと共に背後に下がるマール氏の動きを見届けてから、俺はゆっくりと、腰のホルスターから相棒を引き抜いた。

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