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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第二章 一杯の借り
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004

 土下座をする俺の視界の端に、ふと見覚えのあるような気がする顔が映る。勿論、俺が気づくくらいだから、リューちゃんも気づくわけで、何故だか顔を歪めた少女を招き寄せ、俺たちに紹介してくれようとしたのだが……


「サンティ!? サンティか! うわ、でっかくなったなぁ!」


 誰の声を聞くまでもなく、俺は飛び出して、その少女の脇に手を入れ、天高く持ち上げる。


「うわっ!? ちょ、え!?」


「ど、ドネットさん!?」


 戸惑いの声を上げる少女とリューちゃんを無視して、俺ははしゃぎながら彼女をクルクルと振り回す。前に会ってからもう5年以上立つのに、この意志の強そうな榛色の目だけは、変わることが無い。大きくなってくれていたことの嬉しさと、変わっていなかったことの懐かしさに、ひとしきり一人ではしゃぎ続けて……


「いい加減にしなさい」


「ぐふっ!?」


 マリィちゃんからの容赦の無いツッコミに、俺はギリギリ少女を軟着陸させると、その場で頭を押さえてうずくまる。


「えっと、ドネットさん。ご存じのようですけど、そちらが例のサンテナ・マキーニちゃんです。マキーニちゃん、こちらが、貴方がお探しのドネット・ダスクさんです」


 一応仕事……でもないのだが、まあそんな感じの一環として、俺とサンティにそれぞれを紹介してくれるリューちゃん。だが、当の本人達はと言えば……


「うぅぅ……まだグルグル回ってる……」


「うぅぅ……頭が……」


「……何て言うか、この光景だけみたら、確かに親子って感じに見えるわね」


 ふらふらのサンティと、頭を押さえている俺を見て、さもありなんという表情で頷くマリィちゃん。だが、当然サンティは俺の娘じゃない。未遂にすら至らず暴発を繰り返すだけの俺に、娘が出来る要素は欠片も無い。


「ふぅ……で、サンティ。何故俺が君の父親だと? ダレルはどうしたんだ? そもそもどうやってここに? 一人で来たのか?」


「あ、あの、アタシ……」


「ちょっとDD。いきなりそんなに質問攻めにしても、困らせるだけよ」


 軽く暴走しかけていた俺を、マリィちゃんがたしなめてくれる。


「ハイ、サンティ。私はマリィ。この馬鹿の相棒(パートナー)よ。宜しくね」


「あ、はい。アタシはサンテナ、です。宜しくお願いします。マリィさん」


 優しく言葉をかけるマリィちゃんに、サンティも若干緊張しながらも、きちんとした返答を返す。


「それじゃ、こんなところで立ち話も何だし、どこかでお茶でもしながら話しましょうか。勿論、貴方の『お父さん』の奢りだから、食べたいものがあったら何でも言っていいのよ?」


「え? でも……」


「おぅ、任せとけ! いい男はいつでも余裕があるものだからな。遠慮なんかしなくていいから、好きな物を言っていいぞ」


 マリィちゃんに目配せされるまでもなく、俺は自慢のナイスなフェイスを浮かべ、親指を立てて歯を見せる。美人や美少女に食事を奢るのに、否やなどあろうはずも無い。


「あの、でも……」


「サンティ」


 未だに緊張の抜けない顔のサンティに、俺は跪いて目線の高さを合わせ、その頭にそっと手を載せ、撫でる。


「君やダレルに何があったのか、俺はまだ知らない。君がどんな苦労をしてここにたどり着いて、どんな気持ちで俺に会ったのかも、聞いてない。君が俺を覚えていないだろうことも、俺は察してる。だから、安心しろとか信頼しろとか、そんなことは今は言わない。でも……


 大丈夫。君はちゃんとここにたどり着いて、俺の手の届くところに来てくれた。ダレルの言葉を信じて頑張ったから、ここでこうして俺たちは出会えた。だからもう少しだけ、ダレルの……君の『お父さん』の言葉を、信じてやってくれ。君のお父さんの友人は、決して君を邪険に扱ったりしない」


「ドネットさん……」


DD(ディーディー)でいいよ。さん付けされるほど、大した男じゃない。まあ、いい男ではあるけどな」


 ここぞとばかりに、会心の笑み。ずっと不安が消えなかったサンティの表情に、ちょっとだけ明るさが戻る。


「それじゃ、行くかサンティ! 何か食べたいものとかあるのか?」


「あー、じゃあ、甘い物とか……」


「いいわね甘い物。それじゃ私の行きつけのお店にしましょうか。おすすめは、ビッグデリシャスゴージャスパフェよ」


「パフェ! ビッグデリシャス!?」


 マリィちゃんのおすすめメニューに、俺のトークを聞かせた時の、数倍の輝きを放つ笑みを浮かべるサンティ。いや、まあ、それ自体は別にいいんだけど……


「ね、ねえマリィちゃん? それ、名前からしてもの凄く高そうなんだけど……」


「そうね。美味しいらしいけど、値段も相応よ。奢りじゃなかったら、絶対に頼まないわね」


「らしいって、自分で食べたこと無いのにおすすめなの!?」


「だって、そんな高い物を食べるとか、勿体ないじゃない。DDがご馳走してくれるっていうから、初トライするのよ。サンティも楽しみよね?」


「うん。楽しみ!」


「あっれぇ、俺旗色悪い? てか、何でマリィちゃんとは一瞬で打ち解けて仲良くなってるの?」


「甘い物は偉大なのよ」


「甘い物は凄いよね」


 二人の女が顔を見合わせ微笑み会う。歳も境遇も、甘い物の前には何の垣根も生み出さないらしい。まるで姉妹のように、仲良く手を繋いで歩く二人の背中を見ながら、サンティ曰く「父親」の俺は、財布の中身を思い出して戦々恐々としていた。

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