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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第二章 一杯の借り
17/138

003

「死んで生き返った、ねぇ……」


 コップの中の液体をクルクル回しながら、マリィちゃんが呟くように言う。


「生きてさえいれば、首から下を瞬時に再生出来るほどの魔術(マギ)があるのは知ってるわ。魔術(マギ)技術(テクニカ)の融合で、寿命を延ばす方法があるなんて話も、聞いたことがある。


 でも、死んだ人間が生き返ったって話は……聞いたことが無いわ」


「……そりゃそ「でも……」」


 俺の言葉を遮って、マリィちゃんの顔が、こっちを向いた。真っ直ぐ俺を見つめてくる。真っ直ぐ俺を、見つけてくれている。


「信じるわ。だって私たちは、相棒(パートナー)だもの」


 たった一言の、短い言葉。他の誰が同じ事を言っても、俺は苦笑するだけだっただろう。でも、マリィちゃんなら。マリィちゃんがそう言ってくれるなら、俺はそれを信じられる。俺を信じるって言葉を、信じられる。


「……ありがとう。マリィちゃん」


「あら、いつも見たいに私に惚れたか聞かないの?」


「そりゃそうだよ。だって……今の流れじゃ、俺の方が惚れちゃうじゃん」


「悪いけど、私はお断りよ。貴方なんて、相棒(パートナー)で十分よ」


「そっか。そりゃ……そりゃ、良かった」


 残念なんかじゃない。マリィちゃんが相棒(パートナー)で、本当に良かった。心からそう思う。ここにいる幸運を。隣にいられる幸せを。


「まあ、その先の細かいことは、多分ダレルに会ってから話した方がいいと思うんだけど……まあ、もの凄く要約しちゃうと、俺はダレルに酒を一杯奢られてるんだよね」


「お酒を……一杯? 沢山の方のいっぱいじゃなくて?」


「そう。一杯。でも、そのたった一杯の借りを、俺は返したい。あいつの娘が俺を頼ってきたんなら、絶対に理由がある。だから……」


「まさか、手伝ってくれ、何て言わないわよね?」


 普通なら、拒絶の言葉。でも、そうじゃないって俺にはわかる。


「ああ。俺たちは相棒(パートナー)だ。手伝うなんて半端な関わり方じゃなくて……俺と一緒に、俺の借りを返してくれ」


 普通なら、最低の言葉。でも、そうじゃないってきっと伝わる。


「まったく、仕方ない男ね。いいわよ。私はいい女だもの」


 笑ってるマリィちゃんに、俺は今日初めて、心から笑って答えた。


「ああ、マリィちゃんは最高にいい女さ。胸は小さいけどな」


「…………」


「……あれ? どうしたのマリィちゃん? ひょっとして」


「ええ、ひょっとしなくてもその通りよ。大丈夫。貴方の借りは、ちゃんと私が返してきてあげるわ。だから安心して……」


「マリィちゃん? 笑ってるけど全然笑ってないよね? あ、あれ!?」


「死 に な さ い」


「ノォォォォォォォォーーー!!!!!!!!!」




 その日、この宿屋には「昼間からあり得ないほど猟奇的なプレイをする変態カップルが泊まっている」と話題になり、俺たち二人は無事出入り禁止になった。そのうえ、全身ズタボロの不審者丸出しである俺は何処の宿屋にも泊めてもらえなくて、一人暖かな宿屋へ消えていくマリィちゃんを見送り、寂しく路上で夜を明かすこととなったのだった。





 そして翌朝。


「いらっしゃうわっ!? え!? あ! ドネットさん、ですか!?」


「おはおううーひゃん。ひょうほいいほんははへ」


「一晩たっても治らないとか、情けない男ねぇ」


 顔の腫れが全く引かず、見ている人だけが引く感じになっている俺を目にして、マリィちゃんが情け容赦なく切って捨てる。マリィちゃんマジパない。


「えっと、流石にこれで子供に会わせるわけにはいかないので、治療薬使いますね」


 そう言って、リューちゃんが奥の棚からスプレー式の治療薬を持ってくる。回復魔法を付与(エンチャント)してある水薬が入ってる奴で、一拭きで広範囲に万遍なく効果を発揮してくれる優れものだ。


 そんな便利アイテムを、俺の顔にプシュッと一拭き。元々見た目が派手なだけで怪我としては大したことないので、みるみる顔の腫れが引き、元に戻っていく。


「ふぅ……やっと元に戻ったよ。ありがとうリューちゃん。どう? いい男に戻った?」


「あははは……」


「あら、ごめんなさいDD。私相棒(パートナー)への理解が足りなかったわ。貴方が潰される寸前じゃなく、きちっと潰されるのが好きだったなんて。2つあるんだから、1つくらい大丈夫なのは当然だったわね」


「すいませんマジすいません。調子に乗りましたすいません」


 乾いた笑いをあげるリューちゃん。冷たく見下ろすマリィちゃん。ゲロッグよりもカエルらしい四つん這いで土下座をする俺。


 そんな俺たちを目の当たりにして、一人の少女が、協会の入り口で固まっていた。


「……パパ。アタシ駄目かも知れない……」

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