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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第二章 一杯の借り
15/138

001

「お嬢さん? どこかで知り合った女の子が、わざわざ訪ねてきてくれたとか? いやぁ、いい男は違うね」


「わざわざDDを訪ねてくるなんて、酔狂な女がいるものね」


 ハゲマッチョの事件の後、詳細を報告するために協会に出向いた俺たちだったが、リューちゃんの言葉に俺は照れ、マリィちゃんは意外そうな声をあげる。


「ああ、いえ、そうではなく。お嬢さん……ドネットさんの娘だと言っていたんですが……心当たりは?」


「…………娘?」


 完全に、動きが止まる。当たり前だが、娘がいる記憶は無い。抱いた女は無数にいるが、子供が出来るところまですすんだ相手は一人も……ああ、思うだけで悲しくなってくるな……


「DDに娘なんているわけ無いでしょ。間違いか詐欺か美人局か……どれがいい?」


「その三択なの? それならまだ間違いが……いや、そこは『貴方娘がいたの!?』とか驚くところじゃないの?」


「……ふっ」


「ですよねぇ……」


「えぇ……てか、マリィちゃんはともかく、リューちゃんまで最近きつくない? 俺のグラスハートが崩壊寸前なんだけど」


「あら、この程度受け流せないようじゃ、いい男とは言えないんじゃない?」


 マリィちゃんからの回避不能な口撃に、一瞬俺は言葉に詰まる。


「ぐぅ……ま、まあそうだな。俺いい男だしな。

 まあそれはそれとして、実際俺はどうすりゃいいの? てか、その子の名前とか年齢とか、そういうのは?」


「あ、はい。名前はサンテナ・マキーニちゃん。年齢は9歳だそうです」


「……マキーニ?」


 その名に、俺は思わず聞き返す。蘇るのは、一杯の酒の味。ずっと前に霞んで消えた、苦くて甘い琥珀の思い出。


「……その子に会いたい。どうすればいい?」


「DD?」


 俺の様子の変わりように、マリィちゃんが声をかけてくれるが、俺はそれを無視して、リューちゃんに再度問いかける。


「その子に会いたい。リューちゃん。俺はどうすればいい?」


「あ、はい。明日もまたここに来るそうなので、朝の9時くらいに来てくれればいいかと」


「9時か。わかった」


「ねえ、DD?」


 俺はそのまま、協会を出る。まだ日は高く、今すぐに何をどうこうということはない。いや、こっちから探せばあるいは……


「ちょっとDD!」


 大きな声と共に、肩を掴まれる。振り返った先にいたのは……ただ心配そうな顔のマリィちゃん。


 ちっ、何やってるんだ俺は。これじゃ駄目だろ……


「ごめん。マリィちゃん。もう大丈夫」


 軽く頭を振ってから、いつもの笑顔を作ったつもり(・・・)だった俺の顔を、マリィちゃんが両手で挟み込む。


「ふぁ、ふぁりぃちゃん?」


「大丈夫って顔してないわよ? 言いたくないことを詮索するつもりはないけど、そんな顔をした相棒(パートナー)を黙って送り出すほど、私は甘くないわよ?」


 じっと目を見つめられる。ルビーのように燃えさかるマリィちゃんの赤い瞳が、どうやら俺の心の氷山を、ゆっくり融解してくれたらしい。

 落ち着いてきた思考と共に、俺はゆっくり息を吐く。


「わかった。説明するよ」


「そ。でも、その前にやることを済ませるわよ?」


「やることって……マリィちゃんったら、朝から大胆だなぁ。惚れちゃった?」


「はいはい、惚れてないから。この前のハゲ、げふん。ブランドルの事を報告しに来たのに、貴方何も説明しないで出てきちゃったのよ? まずはリューにしっかり報告しなさい」


「あー、確かにそうだ。悪いことしちゃったなぁ」


 報告するって言っておいて、何も言わずに出てくるとか、あっけにとられる何てもんじゃ無いだろう。しかも、そこに今から戻っていくっていうんだから、ばつが悪いなんてもんじゃない。


「ほら、私も一緒に行ってあげるから。行くわよ?」


 言って、マリィちゃんが俺の手を引いて歩き出す。


「ありがとうマリィちゃん……って、マリィちゃんも当事者なんだし、一緒に行くのは当たり前じゃない?」


 俺の言葉に、ただ笑顔だけを返してくるマリィちゃん。引いてくれる手は、何故だかとても温かかった。

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