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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
終章 硝煙の幻想郷
132/138

008

「クォォォォォォォォ!!!」


 3度目の咆哮。遠距離攻撃が駄目だと悟ったのか、体から無数の触手を生やす。そいつのはだいぶ煮え湯を飲まされたが、同じ轍を踏んでやるほど俺はお人好しじゃない。そういうことなら、次はこれだ。


物質完全再現生成フルマテリアルクラフタライズ 『第4の不死鳥フォルス・フェニキス』! 行け、勇者タカシ!」


「おうよ!」


 剣を掲げたタカシの幻影が、真っ直ぐに魔術食いに向かう。その体を触手が貫き、タカシの姿が消えて……だが、すぐにまた現れる。


「クォォ!? クォォォ!!!」


 魔術食いの触手が当たる度、タカシは消える。だがどれだけ消えても蘇る。蘇って剣を振るう。不死鳥の如く舞い踊り、やがてその剣閃は魔術食いの生やした全ての触手を切り落とした。


「見たか! 諦めない限り勇者は無敵だ!」


 最後に高らかにそう宣言して、タカシは消えた。本物が同じ台詞を言える日が来るのかはわからないが、奴ならまあ、そのうちいいところまで行けるだろう。


「グォォォォ!!! グオォォォォォォォォ!!!」


 全ての攻撃を封じられ、遂に魔術食いがこっちに向かって突っ込んでくる。速度はともかく、あれだけの質量だ。体当たりされればただじゃ済まないし、踏み潰されれば即死だろう。

 だが、怯える必要なんてこれっぽっちもない。俺には最高の相棒(パートナー)がいる!


物質完全再現生成フルマテリアルクラフタライズ 『第6の仮面シクス・ペルソナ』! 決めてやれ、マリィちゃん!」


「ふふっ。貸しは高いわよ、DD?」


 笑顔で飛び出すマリィちゃんが、魔術食いの前で2人に分かれる。同じ顔、同じ体。でも服と獲物がそれぞれ違う。


武装具現化(マテリアライズ)孤華裂夜コノハナサクヤ!」


 その手に生み出された大鎌が、あの時のように魔術食いの顔を切り裂く。だが、その程度で奴の突進は止まらない。


武装具現化(マテリアライズ)爆裂恐斧(ばくれつきょうふ)!」


 その手に生み出された大斧が、全身のバネを使って最大限に振りかぶられる。これだけ大きな相手。はずす要素などあり得ない。


「裂き誇れ、孤華裂夜コノハナサクヤ!」


 魔術食いについた傷が開き、そこにマリィちゃんの爆裂恐斧(ばくれつきょうふ)が叩き込まれる。巨大な斧の刃が半ば程まで食い込んで――


「吹き飛ばせ! 爆裂恐斧(ばくれつきょうふ)!」


「グオォォォォォォォッ!!!」


 切り込まれた傷口の中での大爆発。流石の魔術食いもその身をよじり、激痛にもだえている。


「ふっ。まあこんなものね。じゃ、貸しを返して貰うわよ?」


 自分の戦果を満足そうに確認してから、マリィちゃんがこっちに向かって一直線に突っ込んで――っ!?


「うぉっ!? お、おぉぉ?」


 そのまま俺の体を通り過ぎていった。思わず顔を腕で覆ってしまったので、衝突寸前のマリィちゃんの顔はわからなかったけど……でも、俺の唇にかすかに優しい感触が残っている。どうやらしっかり取り立てはされたらしい。


 そんなことをしているうちに、魔術食いは体勢を立て直した。こっちの手札は全て切り終わり、奴を止める手段はもう無い……だが、十分だ。


 俺の相棒の中には、とびっきりの銃弾が出来ていた。人が持ちうる全ての力、全ての未来、全ての可能性を詰め込んだ、それはいわば小さな世界。後はこいつに世界として成立するための最後の条件を詰め込んだら、ヒビの向こう側に向かって撃ち出すだけだ。


『何とか間に合ったみたいだね。相棒』


 そんな俺の周囲の時間が体の感覚と共に停止し、再び俺の目の前に優男が姿を現す。


「おぅ、オマエか。ああ、これで十分だろ?」


『ああ、上出来だ。後はこれに最後の味付けをするだけだけど……それは俺が代わろう』


「…………何のつもりだ?」


 俺の問いかけに、ヤツはおどけた態度を崩さない。


『どんなに力に満ちていたって、そこに生きている物が居なかったらそれは世界になり得ない。故にこの弾丸には魂を込める必要があるわけだけど、君はもうそれを使いすぎた。これ以上絞ったら、本当に死んじゃうよ?』


「いや、そこはまあ、いい具合にギリギリを見極めてっていうか……」


『君の消耗は、既にそんなレベルじゃないよ。この戦いが終わって俺の力を解除したら、今ですらまともな自我が保てるかどうかギリギリくらいだ。故に、ここで俺の出番ってわけさ! 俺が君の負債の全てを背負う。そして銃弾と共に異世界にSAYONARA! それで君が不老不死になることもないし、全て解決、めでたしめでたしって寸法だよ!

 いやー、俺って凄いね。いい男だね』


「……何故そこまでしてくれる? お前って、本当は一体何なんだ?


 最初は、銃に宿った遺志のようなものだと思ってた。普段は無機質な応答しかできなくても、深く接続することで人間らしい意識を感じ取れてるんじゃないかってな。だが、ジェシカもジェイもお前みたいな存在を知っているそぶりはなかった。つまり、お前だけが特別な存在で、俺とお前だけが特別な関係だったってことだ。


 だから、教えてくれ。お前は一体何……いや、なんだ?」


 まるで小さな子供みたいにずっとその場でクルクル回っていたそいつが、動きを止めて大きくため息をついた。


『はぁ……聞いちゃう? それ聞いちゃうんだ。知らなくてもいいと思うけどなぁ……まあ、聞かれたからには教えてあげるよ。ダレルさんの話、覚えてる?』


「は? 何だいきなり?」


『ほら、ダレルさんが魂魄再誕機ソウルリバーサーの説明してたとき、教えてくれたでしょ? 「先に体を作ってから元の体を分解したら、何故かうまくいかなくて死んだ奴がいた」って。あれが俺ね』


「そ、そうなのか!?」


『あれってさ。要は魂が装置の中に存在しない状態で体を生成すると、魂に対する紐付け? そういうのが上手くいかなくて体に魂が定着できないって現象なんだよ。で、その実験があの技術(テクニカ)を動かした最後だったから……その後ずっと、俺はあの技術(テクニカ)の中にいたんだ。何も見えず何も聞こえず、でも俺という自我だけが存在する。そんな場所に何百年もずっとね』


「それ、は…………」


 それがどれほどのものだったのか、俺には想像することすらできない。共感を示すことも、同情を投げかけることも――


『だから、君が入ってきた時ラッキーって思ったんだよ。あ、この体乗っ取っちゃおうって! そうやって1つの体に2つの魂を無理矢理詰め込んだりしたから復活まで10年もかかっちゃったってわけ。ごめんねー!』


「ふざけんなクソ野郎」


 前言撤回。コイツは最低のクソ野郎であり、同情の余地は微塵も無い。


『そんな怒らないでよ。実際の所他人の体に馴染むのって凄く難しくて、結局ナノマシン経路を経由して銃の方のAI領域に移ったんだしさ。そのおかげで君だって色々助かったでしょ? 俺が居なかったらとっくに死んじゃってるよ? ね? ね?』


「うぜぇ。それとこれとは話が別だろ! 別だから……それに関しては、まあ礼を言っておく。助かった、ありがとう」


『ふふふ。どういたしまして! 君に死なれたら俺も困るからね。まあ助け合い、ギブアンドテイクって奴さ』


 得意げに語るコイツを前に、俺の胸にはただひとつ、コイツが俺の別人格とか、そういうのじゃなくて本当に良かったという思いだけが去来していた。

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