007
『で、これはもう映ってるですか?』
『わかんねーけど、多分……ですよね?』
『接続と設定は完了しています。ただ向こうに表示されているかどうかは確認する手段がありません』
『何かもう……何なのここの技術。何をやっても半端じゃない!?』
「パレオに、タカシ? ミリィちゃんにジェシカまで!?」
映し出された映像には、確かにみんなが映っている。様子からすると、今まさに向こうと繋がっているんだろう。
「おい、みんな! 大丈夫なのか!?」
『あー、あー、テステス。この映像をドネットが見ているものと仮定して発言します。まず最初に、この映像はこちらから情報を送るのみで、そちらの映像や音声を拾うものではありません。一方通行なので、話しかけたりしないでください。無駄です』
「お、おぅ。そうなんだ……」
可能であれば、第一声の前に警告して欲しかったが……まあ、俺が何を叫んだのかも聞こえていないのだろうから、気にする必要も無いだろう。
『とはいえ、きっとドネットであれば「大丈夫なのか!?」とか叫んでいることでしょう。それをあえて茶化したりはしません。それに何より……貴方のおかげで、皆大丈夫です』
そう言うミリィちゃんの手には、大事そうに銃弾が握られている。改めてそれを確認したことで、俺の胸に例えようも無いほどの安堵が広がる。
『そして、今のドネットであれば半ばやけになって特攻気味に事態の解決を図るかも知れません。なので、ここで皆からのメッセージを伝えます。ここがきっと、今日一番の盛り上がり所ですよ? では、どうぞ』
ミリィちゃんが横に退いて、最初に映ってきたのはパレオだ。服にこそダメージが残るが、顔の血色も良く体調は完全に戻っているようだ。
『やっほードネット! 私はすっかり元気になりましたよ! 戻ってきたらタップリ絞ってやるですから、あんな太くて長くて黒いのなんて、ドネットのヘニャチンでぶっ飛ばしてさっさと帰ってくるのです! 今こそ革の鎧の防御力を――』
極めて余計なことを口走りそうになったパレオを押しのけて現れたのは、タカシ。鎧にはかなりの傷があるが、少なくとも体から血を流している箇所は見られない。何らかの回復手段を用いたんだろう。
『いや、本当に勘弁してやれよパレオ……あの、アニキ。俺の世界では成人男性の7割は……ってそうじゃなくて! あの、オレ、あんな偉そうなこと言ったのにまた一緒に戦えなくて……でも、待ってますから! アニキなら絶対帰ってくるって! 信じてますから!』
拳を握って力説するタカシが横にずれれば、次に映るのはジェシカだ。服もボロボロだし、傷も治りきってない。だがその顔はいつもの余裕に満ちた強気の笑顔だ。
『アタシが言うようなことじゃないけど、さっさと終わらせて帰ってらっしゃい。こんな魅力的なレディを待たせたりしたら、他の男に取られちゃうわよ?』
パチリとウインクをして画面から外れたら、最後に映るのはミリィちゃん。あの時の笑顔が幻だったんじゃないかと思ってしまうくらい、相変わらずの無表情だ。
『新たな主のお帰りを、お姉様共々お待ちしております。どうか……どうか無事にお帰り下さい』
そう言って、丁寧に腰を折る。そこから姿勢を戻したならば、ミリィちゃんの顔には笑顔が浮かんでいた。
『無事に帰っていただければ、私のささやかな胸で良ければ吸わせて差し上げましょう』
ただし、それはニヤリとした嫌な笑いだ。してやったりという顔で、ミリィちゃんが映像から消える。悔しかったら帰ってきて文句を言って見ろ、といったところだろうか。
『うぉぉ! ミリィ、あのヘニャチンにオッパイを差し出すですか!?』
『え? 何? どういうこと!? アタシに解るように説明しなさ』
プツンと、そこで唐突に映像が切れた。パレオの痴態を表示させたときと同じ切れ方だったので、きっと向こうで任意に切ったのだろう。
気になる。一体この後どうなるんだろう? というか、あんな話が何処から漏れているんだろうか? 何だかもの凄く帰りたく無くなったというか、むしろこのまま遠くに旅立ちたい気持ちがムクムクと湧き上がってくるが……それでも。
「女を待たすのは、いい男のすることじゃないよね」
ニヤリと笑って、俺は全身に力を入れ直す。突然色々な声が聞こえたことで一時的に進行を停止していた魔術食いも、その動きを再開した。なら改めて勝負続行だ。だが、今度こそ負ける要素は無い。やるべき事はもう見えた。
弾丸を造る。あのデカブツが涎を垂らして食いつきたくなるような、極上の弾丸だ。だが今のままじゃ造れない。ならどうすればいい? 出来るようにするだけだ。
「物質完全再現生成 『第7の王冠』! 最後くらい役に立てジェイ!」
「ふぅ。まったく人使いが荒いなドネットは……上位命令 『限界解除』」
幻の如く現れたジェイが、天に向かって引き金を引く。ただそれだけで全ての銃にかかっていたあらゆる制御、制限が解除され、安全や安定を度外視して全ての力を引き出し尽くすことが出来るようになった。
これで弾は造れる。だが造るには時間が必要だ。デカブツはドンドンこっちに近づいてきていて、それを造っている間は俺の銃では攻撃できない。だが、それだってもう問題じゃない。俺は決して、一人で戦ってなんていなかったのだから。
「物質完全再現生成 『第1の巨人』! ぶん殴れクソ親父!」
「任せろクソ餓鬼! 吹き飛びやがれ!」
放たれた閃光の如き弾丸は、ダレルの拳となって魔術食いの顔面に炸裂する。それは体験したことの無い衝撃と爆音を持って魔術食いを吹き飛ばし、こちらに出てきていた奴の体の半分近くを消し飛ばした。
「クォォォォォォォォ!!!」
即座に傷を癒やした魔術食いが、初めて鳴き声をあげた。それは俺を羽虫でも餌でもなく、倒さなければいけない敵と認識した証拠だろうか? 奴が上に向けて口を開けば例の黒い球体が生まれ、再び回避しようのない黒の散弾が放たれる。
だが、焦る必要はない。俺の仲間の存在の前に、あんなものは紙屑も同然だ。
「物質完全再現生成 『第5の先導者』! 頼むぜジェシカ!」
「こんなの楽勝よ。アタシを誰だと思ってるの?」
稲妻そのものとなったジェシカが、降り注ぐ全ての散弾を打ち落としていく。疾風迅雷、電光石火。瞬きする間に世界を駆け巡るジェシカを前に、奴の攻撃はその全てが消滅する。
「クォォォォォォォォ!!!」
2度目の咆哮。今度はあのでかい黒玉を直接こっちに撃ち出して来やがった。威力で押せばと考えたんだろうが、所詮は獣の浅知恵だ。これにピッタリの仲間は、既に俺の中に控えている。
「物質完全再現生成 『第3の蛇』! 思いっきりやれパレオ!」
「吸い尽くしてぇー! ぶっ飛ばすでーす!」
パレオの左手が奴の黒玉を一瞬にして吸い尽くし、その右手からピンク色の玉にして打ち返した。
「……何故ピンク?」
「サービスです!」
それだけ言って、パレオの姿は消える。そして色はともかく、威力はバッチリだったのだろう。ダレルの時ほどじゃないが、魔術食いの体が大きく吹き飛ばされる。
「サービスか……ふっ」
思わず笑う。笑うくらいの余裕がある。さぁデカブツ。今度の俺はへこたれないぜ?