013
「わかったわ。1分ね?」
俺の返答を待たず、マリィちゃんが奴に突っ込んでいく。腕に残ったガトリング銃こそ使わないが、獣のような力任せの動きに加え、下手に攻撃すると爆発しそうなため、防戦一方にならざるを得ないマリィちゃんの形勢は、決して良くない。
ならばこそ、俺は札を切る。俺の持つ、本当の切り札。
「接続。起動せよ『第2の銀』」
「イエス、マスター。リンケージ、オールグリーン」
俺の『命令』に従って、右手に握った相棒が目を覚まし、機械音声で応答する。
「精神同調 接続臨界 30%」
「オーダー、アクセプト。マインドハーモナイズ、リンケージスタート」
相棒のボディがほのかな蒼い光を放ち、それが俺自身に、まるでひび割れのように浸透していく。今この時、俺と相棒は、文字通り一体となる。
「紅血弾 生成開始 内容物指定 オクタニトロキュバン」
「オーダー、アクセプト。ブラッドバレット、クラフタライズ……コンプリート」
俺の体から、急速に熱が抜けていく。そしてそれを材料に、空だったシリンダーの中に、真っ赤な銃弾が生成される。
これこそが、俺の切り札。血液を材料に、あらゆる物質を生成し弾丸にすることのできる、第2の銀の真の力。人が人の身のまま、魔術を超えよと生み出された、純粋なる技術の頂点。
「マリィちゃん!」
叫ぶ。それに気づいたマリィちゃんが、あえて奴に吹っ飛ばされることで、見るからに爆発寸前なハゲマッチョから、必要十分な距離を取る。
「穿て! 『The Exploder』!」
引き金と共に、銃声が鳴り響く。紅色の弾丸が、紅い軌跡を引いて、奴の体内に深々と突き刺さる。そして……
「『起爆』」
轟音。目も眩むほどの爆発が、奴の全てを吹き飛ばし、焼き尽くし……そして後には、何も残らない。
「マリィちゃん、だいじょうぶへっ!?」
何故か肩を怒らせ、ちょっと涙目になったレアなマリィちゃんが、爆裂恐斧の柄で、俺をバシバシ叩いてくる。
「馬鹿じゃないの! 馬鹿じゃないの! 私の近くであんな大爆発起こすとか、本気で馬鹿じゃないの!?」
「いや、ちゃんと安全距離とれてたのは確認したし、爆裂恐斧で体を隠せば大丈夫かなーって」
「大丈夫だったけど! 大丈夫だったけども!もーっばかーっ!」
「痛い! 痛いってマリィちゃん! 割と深刻に痛いよ! 悪かった! 悪かったって! って、おぉぉ!?」
マリィちゃんにしこたま叩かれている俺の耳に、何やらグゴゴゴゴ……な感じの、凄く不吉な音が響いてくる。
「あれ? これ、やばくない? 坑道崩れるんじゃね?」
「あったり前でしょ! この坑道は魔術で支えられてたの! でも、貴方がやったのは物理現象による爆発なのよ!? 魔術の介在しない力は、魔力防壁の影響を受けないのなんて、常識じゃない!」
そう。それこそが技術の真骨頂。魔力を介在しないが故に、魔力をすり抜け無効化する。故にこそ、完全な物理武器がこの世界には絶滅せずに残っているのだ。
もっとも、あくまでも残っているだけだ。魔術の力に頼らないということは、重さもそのまま、刃こぼれはするし、血糊も毎回拭き取らなきゃならない。属性を付与することもできなければ、物理的に固い敵や、魔法しか通じない敵には完全に無力になるなど、デメリットがあまりに大きい。しかも、魔力の付与は加算なので、元の武器の性能が落ちるわけでもない。
故に、普通は「魔力量が大きくて魔力障壁がもの凄く強いけど、物理的には脆弱な敵」みたいな極めて限定的なターゲットに対し、そいつの討伐のみを目的として武器を持っていく、という使い方くらいしかされない。
そもそも、今回の爆発だって、相応の魔法使いなら同規模の爆発は起こせる。無論、魔力抵抗を完全無視できる第2の銀の方が、殺傷力は数倍あるだろうけど。
そもそも……
「何をぼーっとしてるのよ!? さっさと逃げないと、本当に生き埋めになるわよ!?」
「うぉ!? そりゃそうだ。じゃ、とっととずらかろうか」
焦るマリィちゃんに促され、俺たちは急いで坑道を駆け抜ける。というか、天井が普通に崩れてきててマジヤバイ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「いーーーーやーーーーーーーーっ!」
ゴゴーン……
俺たち二人が青空の下に飛び出したまさにその瞬間、背後から地響きとともに、営業終了のお知らせが聞こえてきた。