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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
13/138

013

「わかったわ。1分ね?」


 俺の返答を待たず、マリィちゃんが奴に突っ込んでいく。腕に残ったガトリング銃こそ使わないが、獣のような力任せの動きに加え、下手に攻撃すると爆発しそうなため、防戦一方にならざるを得ないマリィちゃんの形勢は、決して良くない。


 ならばこそ、俺は札を切る。俺の持つ、本当の切り札。


接続(コネクト)起動せよ(ウェイクアップ)第2の銀(セカンド・シルバー)』」


「イエス、マスター。リンケージ、オールグリーン」


 俺の『命令(オーダー)』に従って、右手に握った相棒(セカンド・シルバー)が目を覚まし、機械音声で応答する。


精神同調(マインドハーモナイズ) 接続臨界(リミットマックス) 30%(ダブル・スリー)


「オーダー、アクセプト。マインドハーモナイズ、リンケージスタート」


 相棒のボディがほのかな蒼い光を放ち、それが俺自身に、まるでひび割れのように浸透していく。今この時、俺と相棒は、文字通り一体となる。


紅血弾(ブラッドバレット) 生成開始(クラフタライズ) 内容物指定(インストール) オクタニトロキュバン」


「オーダー、アクセプト。ブラッドバレット、クラフタライズ……コンプリート」


 俺の体から、急速に熱が抜けていく。そしてそれを材料に、空だったシリンダーの中に、真っ赤な銃弾が生成される。

 これこそが、俺の切り札。血液を材料に、あらゆる物質を生成し弾丸にすることのできる、第2の銀(セカンド・シルバー)の真の力。人が人の身のまま、魔術(マギ)を超えよと生み出された、純粋なる技術(テクニカ)の頂点。


「マリィちゃん!」


 叫ぶ。それに気づいたマリィちゃんが、あえて奴に吹っ飛ばされることで、見るからに爆発寸前なハゲマッチョから、必要十分な距離を取る。


「穿て! 『The Exploder』!」


 引き金と共に、銃声(ほうこう)が鳴り響く。紅色の弾丸が、紅い軌跡を引いて、奴の体内に深々と突き刺さる。そして……


「『起爆(イグニッション)』」


 轟音。目も眩むほどの爆発が、奴の全てを吹き飛ばし、焼き尽くし……そして後には、何も残らない。


「マリィちゃん、だいじょうぶへっ!?」


 何故か肩を怒らせ、ちょっと涙目になったレアなマリィちゃんが、爆裂恐斧の柄で、俺をバシバシ叩いてくる。


「馬鹿じゃないの! 馬鹿じゃないの! 私の近くであんな大爆発起こすとか、本気で馬鹿じゃないの!?」


「いや、ちゃんと安全距離とれてたのは確認したし、爆裂恐斧で体を隠せば大丈夫かなーって」


「大丈夫だったけど! 大丈夫だったけども!もーっばかーっ!」


「痛い! 痛いってマリィちゃん! 割と深刻に痛いよ! 悪かった! 悪かったって! って、おぉぉ!?」


 マリィちゃんにしこたま叩かれている俺の耳に、何やらグゴゴゴゴ……な感じの、凄く不吉な音が響いてくる。


「あれ? これ、やばくない? 坑道崩れるんじゃね?」


「あったり前でしょ! この坑道は魔術(マギ)で支えられてたの! でも、貴方がやったのは物理現象による爆発(・・・・・・・・・)なのよ!? 魔術(マギ)の介在しない力は、魔力防壁の影響を受けないのなんて、常識じゃない!」


 そう。それこそが技術(テクニカ)の真骨頂。魔力を介在しないが故に、魔力をすり抜け無効化する。故にこそ、完全な物理武器がこの世界には絶滅せずに残っているのだ。


 もっとも、あくまでも残っているだけだ。魔術(マギ)の力に頼らないということは、重さもそのまま、刃こぼれはするし、血糊も毎回拭き取らなきゃならない。属性を付与することもできなければ、物理的に固い敵や、魔法しか通じない敵には完全に無力になるなど、デメリットがあまりに大きい。しかも、魔力の付与は加算なので、元の武器の性能が落ちるわけでもない。


 故に、普通は「魔力量が大きくて魔力障壁がもの凄く強いけど、物理的には脆弱な敵」みたいな極めて限定的なターゲットに対し、そいつの討伐のみを目的として武器を持っていく、という使い方くらいしかされない。


 そもそも、今回の爆発だって、相応の魔法使いなら同規模の爆発は起こせる。無論、魔力抵抗を完全無視できる第2の銀(オレ)の方が、殺傷力は数倍あるだろうけど。


 そもそも……


「何をぼーっとしてるのよ!? さっさと逃げないと、本当に生き埋めになるわよ!?」


「うぉ!? そりゃそうだ。じゃ、とっととずらかろうか」


 焦るマリィちゃんに促され、俺たちは急いで坑道を駆け抜ける。というか、天井が普通に崩れてきててマジヤバイ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


「いーーーーやーーーーーーーーっ!」


 ゴゴーン……


 俺たち二人が青空の下に飛び出したまさにその瞬間、背後から地響きとともに、営業終了のお知らせが聞こえてきた。

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