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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
終章 硝煙の幻想郷
126/138

002

『今のはなかなか良かったです。ほら、お前らももっと気合いを入れて腰を――』


 プツンと、映し出されていた映像が消える。きっとタカシが消したのだろう。そして辺りに流れるのは、なんとも言えない空気。


「……なんか、ごめん……」


「何で消しちゃうですか? せっかくの私の勇姿なのに……」


 唯一映し出された本人であるパレオだけは残念がっているが、それに触れるのは例え本物の「勇者」であっても憚られるらしい。であれば俺が何事も無い感じでスルーしたとしても臆病者呼ばわりされたりはしないだろう。


「てことは、ここは監視カメラのフォルダなのか。だったら階層を登って別のフォルダに……これかな?」


 再度試みられた操作にて、今度は無事にジェイの姿が中空に映し出される。ついさっきまで見ていた敵の顔ではあるが、思わずホッとしてしまったのは俺だけじゃないはずだ。


『やあやあ。この映像が再生されるというのは、かなり特殊な状況のはずなんだが……ああ、いや、私の目的が達成された後、魔術(マギ)の力が失われた世界でここを探索して発見した可能性もあるのかな? まあとにかく、おめでとう。君たちは世界の真実に辿り着いた。故にこれから、私がいかにしてこの世界を変革したか、否、元に戻したかを語るとしよう。フフフ、死ぬ前に自分の成すことをペラペラ喋るのは『オヤクソク』というものらしいと友人から聞いたのだが、死んだ後に語る場合は何というのだろうね?』


「何て言うんだタカシ?」


「え? いや、これはこれでお約束のテンプレ展開じゃないかと思うけど……」


 こっそり問いかけた俺に、タカシが答えてくれた。なるほど、『オヤクソクノテンプレ』と言うのか。万が一だが俺は使う可能性があるかも知れないから、覚えておくことにしよう……


『さて、では私が何を成したかだが……目の前にいる君は、『大変遷』という言葉を知っているだろうか? かつてこの世界は、今と同じように魔術(マギ)など存在しない世界だった。そこには技術(テクニカ)の力しかなく……それ故、文明は停滞していた。そこで学者たちは、1つの手段を講じた。即ち、より高位の次元から「法則」を持ってくることだ。法則……わかるかね? 物が上から下に落ちる、時が過去から未来へ流れる、そういう「この世界を構成する基本概念」が「法則」だ。


 と言っても、4次元や5次元などといった「1つ上の次元」などというものと世界を繋ぐ技術など有るはずも無い。故に学者達が出来た精一杯の手段は、極めて近く似通った世界でありながら、この世界には無い独自の「法則」を持った、ここより少しだけ高い世界とこの世界を繋げるということだ。


 この世界に存在する「法則」の1つに、「あらゆる物は上から下に移動する」というものがある。極めて近いが少しだけ高い位置にある世界への穴を開けた結果、そこから低いこの世界に高い世界の法則……即ち「魔術(マギ)」が流れ込んだ。これが『大変遷』の正体だ。要はあれは天災などではなく、世界を前に進めるための人災、あるいは壮大な実験であったとすら言えるだろう』


「嘘……『大変遷』を人が起こした……!?」


 語られた事実はあまりにも大きい。魔物の生まれた理由を聞いた時よりも更に大きな衝撃が俺たちを襲う。が、ここで驚いてばかりいるわけにはいかない。ジェイの話はまだ終わっていない。


『だが、流入した魔術(マギ)によって、世界は汚染されてしまった。「法則」だけ手に入れるつもりが、それがもたらす力や変化まで流し込まれてしまったのだ。ある程度は予想していた事態ではあったけど、流石にこれほどの被害は予想外だ。ほんの僅か……それこそ爪の厚みほどの違いしか無い上位世界ですらこれほど圧倒的な物であると知っていれば、もっと別の方法を考えたのだろうが……まあ、それは今更言っても意味の無いことだ。


 なので、私はこの世界から再び魔術(マギ)を消し去った。その方法は、簡単だ。もう一度……今度はこの世界よりやや低位の世界に対して穴を開けてやればいい。そうすれば、今この世界にあるあらゆる「法則」の最上位にある「法則」……即ち、物理学、熱力学、重力、慣性、質量保存の法則などなど、それら全てを無視してねじ伏せることのできる魔術(マギ)の「法則」が、最優先でそちらに流れ込むことになる。そうやって全てを流し込み……あるいは捨て終えたなら、後は穴を閉じてやれば、この世界は元通りということだ。それは水面に浮かべた油のみを下水に捨てるような行為であり、油を完全に捨て去ろうと思えば多少の水も一緒にこぼれてしまうかも知れないが、汚染されたままの世界に居続けるよりはずっとましだろう? 感謝してくれたまえ』


「……何か、自分勝手な奴ですね。ぶん殴って……死んでる奴はこれ以上殴れないですね……」


 世界が魔術(マギ)を失ったことを前提に、傲慢にそう言い放つジェイ。その後は未だに光を放ち続けている銃の構造やら空間に対する亀裂の入れ方やらの専門的な解説があったが、それに関しては俺は全くわからなかったのでミリィちゃんに丸投げした。緊急かつ失敗の許されない内容なら、下手に理解したつもりになるより解らないと切り捨てる方が安全だ。決して俺の頭が悪いわけではないし、無責任なわけでもない。いい男はいつだって分を弁えているのだ。


「理解の及ばない範囲もだいぶありましたが、とりあえずこの技術(テクニカ)を停止する方法は解りました。直ちに実行しますか?」


「お、そうなの? 凄いねミリィちゃん。止めることで何か問題が生じたりは?」


「私の理解した範囲内では、穴を開けるために使用したエネルギーが全て無駄になるため、再起動するためには相当量のエネルギーを再充填する必要があることくらいでしょうか?」


「それなら問題無いな。よし、やっちゃって」


「了解しました。では直ちに作業に取りかかります。タカシ、ジェシカ、手伝って下さい」


 二人に声をかけて、ミリィちゃんがでかい銃の台座部分で何やらごそごそし始める。そしてこの場に取り残されたのは、俺とパレオの二人きり。


「あ、あれ? パレオはともかく、俺は手伝わなくてもいいの?」


 「ともかくとは何ですか!」と俺に食ってかかってくるパレオの顔面を手で押さえつつ問う俺に、返ってくるのは無慈悲な答え。


「ドネットの理解度では邪魔になるだけです。そこでおとなしくしていてください」


「あー、そうなんだ…………」


「へへーん! 私とおそろいですねドネット?」


「いや、そこは偉そうに言うところじゃないと思うけど……」


 何故かどや顔をするパレオと友に、特にすることも無く待つことしばし。ギュンギュン鳴っていた音がゆっくりと小さくなり、それに伴って銃口から発射されていた光の帯も細くなり、やがてそれが完全に停止する。


「ふぅ。技術(テクニカ)の完全停止を確認。これにて作業終了です」


「終わったぁ……うぁ、目がシバシバする……」


「とりあえず、暫く細くて長いものの色を見分ける作業はしたくないわね……」


「みんなお疲れさん」


 いつもと変わらないながらも、何処かやりきった感を醸し出すミリィちゃんや、目頭を指で押さえてたり瞬きを繰り返したりしてるタカシとジェシカの苦労を労いつつ、俺とパレオも装置の方へと歩いて行く。


「てか、これを止めたってことは、これで終わり? 何か拍子抜けっていうか、肩すかしっていうか……」


「何だ、ヤバそうな技術(テクニカ)がヤバイ効果を発揮する前に停止できたってのに、勇者様はご不満かい?」


「理解不能です。問題発生を未然に防げたのは最上の結果であるのに、それに不満を持つとは……もしや破滅主義者とかですか?」


「いやいや、そんな物騒なものじゃないですよミリィさん!? そうじゃなくて、こう最後はみんなで力を合わせて戦いたかったというか……」


「それはさっきやったですよ? ダーリンたらその若さでボケたですか?」


「そうだけど! ……いや、いいよ。オレが我が儘言ってるのはわかってるしさ」


 そう言って拗ねるタカシの肩を叩こうとしたその時、俺の背後でピシリという音が響く。何の気なしに振り返ってみれば……満天の夜空にヒビが入っている。


 どうやら、勇者様の希望に添う展開になりそうだ。

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