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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
終章 硝煙の幻想郷
125/138

001

「へぇ。こりゃまた……」


 奥の通路を進み、階段を登った先に広がっていたのは、満天の星空だった。その予想外な光景に、俺たちは全員圧倒される。


「夜空? え、まだ昼間よね?」


「全方位型のプラネタリウムかな? こりゃスゲェや」


 時差に疑問を持つジェシカに、まるで既知の光景であるかのように単純な感嘆を示すタカシ。無言で口をぽかんと開けるパレオに、特に何の反応も示していないミリィちゃん。それぞれがそれぞれの反応を示す中、俺はゆっくりと部屋の中央に歩いて行く。


「で、これが世界から魔術(マギ)を駆逐する装置、だよな?」


 そこに設置されているのは、巨大な銃だった。と言っても形的にはでかくて丸い筒だ。何故それを銃だと表現したかと言えば、横たわる筒の口から現在進行形で光線が発射され続けているからに他ならない。それなら大砲の方がいいんじゃないかと言われそうだが、ジェイが今まで作ってきたのは銃ばかりなのだから、これも銃でいいだろうと思った、まあ要はそれだけのことだ。


「これって、具体的には何をしてるの? というか、そもそもどうやって世界から魔術(マギ)を無くすつもりだったのかしら?」


「あー、そう言えば俺もそれは聞いてないや。ミリィちゃんは知ってる?」


「私も何も知りません。ここまで重要度の高い情報には触れさせてもらえませんでしたから」


「じゃあどうするです? とりあえず適当なボタンっぽいものを押しまくったり、ぶっとい線を引きちぎったりしてみるですか?」


「ちょ、おま、マジで辞めろよ!? こんだけ太いレーザー発射してるんだから、莫大なエネルギーが流れてるはず。こんなのに不用意なことして爆発でもしたらどうするんだよ?」


 不用意なパレオの発言にタカシが泡を食って止めるが、現実は非情だ。


「うーん。いきなりってのは無いけど、最悪の場合は壊す可能性はあるぜ? その時はタカシ、宜しくな」


「アニキまで!? うぅ、何でオレだけ……」


「そう腐るなって。その場合は俺も一緒だろうからな。普通に考えて、どうしても壊すならここと一緒に動力部は破壊したいし」


 落ち込むタカシの肩を叩き、慰めにもならないと知りつつ言葉をかける。もっともその場合は実際に爆発するかしないかに関わらず、万が一に備えて人を辞めなきゃならないので、本当に最後の手段ではあるが。


「そういうことなら、やっぱり強力な爆弾とかを用意しておくべきだったかしら?」


「いや、壊す方前提で考えるのは辞めようぜ。流石に止める方法が一切無いってことは無いはず。ジェイが手がけたなら尚更な」


 絶対に止められたくない技術(テクニカ)があるなら、停止手段を作らないのが一番だ。だが世の中に完璧なんてものは存在しない。いつどんな不具合が生じるかわからないのに、いかなる手段を持ってしても停止出来ないなんて装置を作るのはよほどの馬鹿だけだ。与えられたものを使うだけの奴ならともかく、自分で考え、作っていたジェイであれば停止手段はあって当然となる。


「そうは言っても、何の手がかりも無しじゃ……その辺にある技術(テクニカ)を適当に触ってみるのもゾッとしないし……」


「いや、適当に触ってみよう」


 全員の気持ちを代弁するかのようなジェシカの台詞に、だが俺はあえて否定の言葉を返す。


「ドネット?」


「だってさ、ここはジェイにとっても最重要拠点なわけだろ? だったら手順1つで警告も無しに致命的な状況を生み出すようなものがそこら辺に転がってる可能性はまずない。危険があるなら厳重に隔離して保管するか、もしくは何度も出る警告を無視して操作し続けるとかしなかったら作動しないようにしてるだろ」


 自分も足を踏み入れる、しかも重要度が極めて高い場所に危険物を放置するなんてことは普通しないし、ついうっかり置き忘れるみたいな可能性まで考慮し始めたらそれこそ何も出来なくなってしまう。


「そうね。どうせこのままじゃ時間切れを待つか本気で全部ぶっ壊すしか無いんだし、とりあえず軽く見てみましょうか」


「了解しました。そういうことなら解析はお任せ下さい」


「わかったですー! 適当にいぢり倒してやるのです!」


「いや、パレオは……まあいいか。じゃ、オレも見てみますね」


 若干一名不安が残らなくも無いが、あれでもここに来るまでに十分役に立ってくれた仲間だ。信じても大丈夫だろう……多分。


 そんなわけで、俺たちは手分けして床に転がっていたり机のような物に固定されていたりする技術(テクニカ)を適当に触って回る。が、少なくとも俺に関してはほぼほぼ何の理解も進まない。今手にしている複雑な溝のついた四角い箱とかも、壊れているのが動いていないのか、はたまたただの置物であるのかの判別すらできない。


「これをどうしろって言うんだ……?」


 溝を指でなぞったり、へこんだところを押してみたり、逆に出っ張ったところを引っ張ってみたり、箱の縁を持って回してみたり……何をどうやってもいかなる反応も返ってこない。光るとか音が鳴るとか何らかの変化があればまだ調べようもあるが、完全に何の変化も無いとなると本当にただの置物なんじゃないかとすら思えてくる。


 小さく息を吐いてから周囲を見回してみれば、ジェシカは穴の開いた丸い玉に指を突っ込んだり穴を覗き込んだりしているし、パレオはギザギザのついた細長い棒を一心不乱に擦り上げている。ジェシカはともかく、パレオの行動は完全に理解不能だ。


 あっちも駄目そうだな……


 ならばと反対方向に首を回せば、そこには机の上に乗った謎の技術(テクニカ)を操作しているように見えるタカシと、その横に寄りそうミリィちゃんの姿がある。


「タカシ、何かあったのか?」


「ああ、アニキ? いや、これ何かパソコンっぽかったから、何かデータとか引き出せないかなって思って……」


「ぱそ……? 何だそりゃ?」


「あー、えっと、冒険……じゃない。掃除人協会の奥とかにもある、色んな情報を蓄積したり技術(テクニカ)を操作したりできる奴だよ。ただキーボードの文字配列がオレの知ってるのとは全然違うから、操作がしづらくて……ああっ!?」


 話している間にも、何か操作をミスったらしい。ミリィちゃんに「最初からやり直しです」と言われてタカシがガックリとうなだれる。だが、タカシの言ってることが正しければそこから情報が得られそうではある。


「タカシの方は何かあったの?」


「おもしろ技術(テクニカ)の発見ですか? 私も是非混ぜるです!」


 俺がタカシの方に向かうのに合わせるようにジェシカたちもやってきて、結局全員で謎の技術(テクニカ)と向き合うことになった。


「これはどうです?」


「あっ、それ名前の変更のショートカット!? うわ、駄目だ、すぐキャンセルしないとわからなく……ああっ、確定したら駄目だって!?」


「何やってるのよ、もう! ここはこうでしょ?」


「上書き!? 辞めて、それは絶対駄目だって! コピペならまだしもそれやったら元に戻せないから!」


「元になる情報源の変更率が5%を超えました。これ以上無秩序な変更は加えるべきではないと提言します」


「それはわかってるんだって! えっと……ん? 音声、いや動画データ? ひょっとしてこれか!?」


 そう呟いてからタカシがなにがしかの操作をすると、突然中空に映像が浮かび上がる。


『あっはぁーん!』


 そこには、大量の男に囲まれ身もだえるパレオの姿が映し出されていた。

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