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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第九章 永劫へ至る道
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今回はパレオ視点です

「むふー! さぁ、ドンドン来るです!」


 サクッとイタした男を放り投げ、私は新たな挑戦者を募ります。何せ相手は大量ですから、手でも口でも脇でも腹でも使えるところは全部使って相手をしなければなかなか数が減りません。


 とは言え、流石にちょっとお腹がもたれてきた感じです。吸収出来る量もとっくに超えて溢れた分は駄々漏らし……ビー姉ちゃんがいたら「はしたない」と怒られるかも知れませんが、今は仕方がありません。何せ仲間のため! 仲間のために仕方なくなのです! 決して食い放題の獲物の山の前に、雑に食べ散らかすという贅沢をしているわけではないのです!


 まあ、味的にはジャンクフードというか、あんまり美味しくはないのですが……というかこいつら、せっかく魅了テンプテーションを使ったのにどうにも情念の向く方向がおかしいというか、真っ直ぐに性欲を認めてきません。葛藤しているとかでもなく、もっと変な方向に精神がねじれているというか……これで生きてて楽しいんでしょうか? 人生の楽しみの9割は1発かますことだと思うのですが。


「ぷはぁっ! 次です! 次のヤローを連れてくるです! ハリーハリー!」


 体中の穴という穴、へこみというへこみを使って次々と搾り取る。男はまだ楽ですが、女の相手がきついです。女の子はデリケートですから、男みたいに擦ればいいってわけじゃいのが困りものです。その分手間もかかるし、何より魅了の効きが――


「あれ? 私は何を……っ!?」


「おっと、戻さないですよ? むっはぁっ!」


「はうっ!」


 軽く正気に戻りかけた女性に、私は改めて魅了をかけ直しました。やっぱり同性だとソッチの趣味が無い相手には効きが今ひとつです。まあ異性であってもビー姉ちゃんみたいに年上黒乳首が大好きな奴とかにはあんまり効かないのですが……でも、それにしても効きが今ひとつな人が多いような? この教団は年増好きばっかりなんでしょうか? だとしたらちょっと趣味が悪い気がします。魅惑のロリ巨乳な私の魅力を理解しないとか……おぉぉ?


「ぬっ……ここは……?」


「私は一体何を……」


「えっ? 何で裸!? あれ!?」


「お。おやぁ? これはちょっとヤバイ感じです?」


 なんだか良くわかりませんが、次々と魅了が解けていっています。が、理由が全く……いや、確かこの前ママに仕込まれた時に、そんな事を教えられたような気がしなくもないような……あっ!?


『いい、パレオ? 許容量を超えて精気を絞った場合、受け入れきれない分は全部大気に放出されます。その結果近似空間内における魔力の量が一時的に大幅に濃くなることで、そこにいる相手には、魅了に対する抵抗力が生じます。よっぽどの大人数から無駄に絞らない限りそんな事になることはないでしょうが、もし万が一そんな粗雑な……絞る相手への敬意を忘れて食い散らかすようなことをしたら、その時は覚悟しておきなさい?』


 ……あわわ、ヤバイです。あの時も散々「夜魔族サキュバスなのにまだ魅了も満足に使えないなんて!」と尻を叩かれ仕込まれたのです。私の可愛いお尻がママのでかいケツより大きく腫れ上がる悲劇が発生したというのに、今度はあの時よりもっと叱られる感じになりそうです。何とか、何とかしなくては……


「も、もう1回魅了を……ふぎゃっ!?」


 殴られました。殴られました! プレイの一環とかじゃなく、結構なパワーを込めてグーで殴られました!


「お前か、悪魔め……」


「不浄なヒトモドキが……」


「許せない……許さない……」


「あわ、あわわ、ちょっと待つです!? 平和的に! ここは平和的に話し合いましょう! 暴力は何も解決しないのです! 強姦は犯罪ぐふっ……」


 さっきまで私の下でアヘっていた男が、思い切り腹を蹴ってきました。上からも下からも、白かったり赤かったりするものがリバースしてきます。この鈍痛は話に聞く生理痛とやらよりもきついのですかね……?


「お、女の子のお腹を蹴るとか……いい男のやる事じゃないですよ……?」


「黙れ悪魔。雌が女を語るな」


「がぁっ! ぐっ……」


 熱狂とは違う、静かな怒り。お腹を押さえたせいで下がってしまった私の頭を殴り飛ばし、地に伏した私の上に無数の足が踏み降ろされる。


「不浄なるモノ、不純なるモノ。混じり物に生存する権利などない」


「汚らわしい。汚らしい。存在するだけで気分が悪くなる」


「地に這いつくばり、許しを請え。この世に生まれてきたことが誤りであったと、謝りながら死んでいけ」


 痛い。痛いです。踏まれて蹴られて体中が痛いです。色々と激しいプレイは経験していますが、これは全く気持ちよくないです。


 悪意にまみれ、敵意に満ち、彼らに浮かぶのは暗い愉悦。それは明るく楽しいいつものプレイとは何もかもが真逆で、だからこそ恐ろしい。ママだったら、こういう感情すらうまく満足させられるのかも知れませんが、今の私には無理です。


「死ね。さっさと死ね」


「消えろ、消えろ」


 むき出しの殺意ですらない、無邪気な意思。彼らに私を恨む気持ちなどないのです。ただ目の前に不快な虫がいるから潰したい、その程度の行為なのです。故に自らの行動に罪悪感などなく、命を摘むという感覚すら無いかも知れません。当然です。夜寝る前に蚊が飛んできたら凄くうっとうしいですし、それを叩き潰して罪の意識を感じる奴などいないでしょう。達成感すらなく「やっと落ち着いて寝られる」という障害を排除した安堵があるのが精々です。そして彼らにとって、私はその蚊なのでしょう。


「うぅ……辞めて……辞めてください……」


 悲しくなりました。いかに魅了を使ったからといって、さっきまで私の脇に擦りつけて鼻息を荒くしていた男にこんな目で見られるのは嫌です。尻の割れ目に鼻を突っ込んでうっとりと深呼吸していたような奴に踏まれるのは心外です。


 魅了は洗脳なんかじゃありません。意識の誘導くらいはしても、やりたくないことをやらせたりする力ではないのです。彼らだってきちんと楽しんでいたはずなのです。なのに何故コイツらはそれを辞めて、私を踏むのでしょうか? そっちの方が楽しいんでしょうか? 全員揃ってサドですか? だとしたらとんでもない特殊性癖集団です。流石の私もちょっと引くのです。


「泣くな。うっとうしい」


「騒ぐな。うっとうしい」


「死ね。うっとうしい」


 彼らの中に苛立ちが生まれています。さっきの例えを引き摺るなら、なかなか蚊が潰せない感じでしょうか? 明かりを付けて臨戦態勢を整えたのに、どうしても仕留められない感じです。なら諦めて寝ればいいのでしょうが、彼らは足を踏み降ろすことを辞めません。


「痛い……ぐふっ……痛いですって……もう辞めて……」


 せめて彼らが興奮してガッチガチにでもしていればこっちも合わせられるのですが、どいつもこいつもヘニャチン野郎です。あくまでも作業的に私を踏みつけ、痛めつけてきます。お姉様の愛のある責めが懐かしいです。糞ヘニャチンのドネットですら、優しい分だけこいつらよりマシです。


 ああ、お姉様。もう一度会って、可愛がって欲しかったです……


 嬲られることも犯されることもなく、ただ純粋に暴力のみを与えられ、私の意識は少しずつ闇に沈んでいきました。

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