表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第一章 一発屋
12/138

012

4/30 内容微修正

「マリィちゃん、記録水晶(ログ)は?」


 素早く近くの岩塊に身を隠し、俺はマリィちゃんに問う。


「ばっちり。これなら応戦しても何の問題もないわ」


 同じく身を隠したマリィちゃんの手には、赤い水晶球。まさに手のひらサイズのそれは、世界座標や時刻と共に、周囲の音を記録する、ただそれだけの道具だ。

 単純故に改竄は極めて困難で、ちょっとした約束事や、こういう時の証拠として広く使われている。ちなみに、再生自体は何度でもできるけど、内容を消して新たに記録することはできないので、基本的に使い捨てだ。


「てか、あいつ何なの? あの見た目で魔法使いとか、違和感ありすぎだろ」


 俺は腰から相棒を引き抜き、ハゲマッチョの様子をうかがう。


 奴が両手に装備しているのは、ガトリング銃。だが、本来なら在るべき弾倉と呼べるものが無い。いや、無い方が普通なのだ。あんなものを実弾で撃つとか、浪漫とか以前の問題だし。


「属性付与が無いし、詠唱もしてない。てことは、無属性の衝撃弾(ブリット)ってところか。威力はしょっぱいけど、こう乱射されちゃな」


 火や雷みたいな属性弾なら、見た目で赤かったり黄色かったりするし、そもそも燃えたりビリッときたりする。風系なら無色透明はありけるけど、ガトリング銃をガトリング銃として運用出来る連射力で、しかも2丁同時に撃ちまくるとか、消費魔力を考えたら流石にあり得ない。

 いや、そもそもいかに極小しか魔力を消費しない最低レベルの弾とはいえ、それでもこの連射力は……


「ガッハッハ! どうした一発屋! 隠れてないでさっさと出てこい!」


「出てくわけないだろ。馬鹿か?」


「そりゃそうだな。ならこのまま岩塊ごと削り取ってやるぜ!」


 俺とマリィちゃんの両方を撃っていた銃撃が、俺の方にだけ集中する。その隙を見逃すほど、マリィちゃんは甘くない。素早く岩塊の影から飛び出して……


「かかったな!」


 目の前にちらついた影を、衝撃の嵐が襲う。だが、そこにあるのは真っ赤なハーフマント。掃除人ならずとも旅人なら大抵1つは持っている、雨風を避けるための基本的な旅装の1つであり、赤いのはマリィちゃんのお気に入りだ。なにしろ良く目立つ。それがむなしくヒラヒラしているのを見て、ハゲマッチョに驚愕の表情が浮かぶ。その隙に隙が重なった瞬間を見逃すほど、マリィちゃんは甘くない。


武装具現化(マテリアライズ)爆裂恐斧(ばくれつきょうふ)


 詠唱と共に、マリィちゃんの手の中に、鋼の死神が生み出される。最初から具現化しておかなかったのは、こんなでかい物を持ってたら、陽動も糞もないからだ。


「てやぁぁぁ!」


 掛け声と共に振るわれる爆裂恐斧を、しかしハゲマッチョは右腕のガトリング銃で受け止める。ガキィーンという甲高い音を立てて両者がぶつかり、マリィちゃんの斧が、銃の中程まで食い込む。


「へぇ。私の爆裂恐斧で切れないなんて、随分上等な魔導銃を使ってるのね。これなら貴方程度の掃除人がB級になれるのも頷けるわ」


「ほざけ糞アマぁ!」


 がらくたになった、だがまだ鉄の塊ではある右腕のガトリング銃をなぎ払うように動かし、マリィちゃんを吹き飛ばすハゲマッチョ。爆裂恐斧で受けているが、重量が無い以上踏ん張りがきかないのは当然だ。

 そして、距離が開いてしまえば、ガトリング銃の乱射が使える。ハゲマッチョは残った左腕のそれの銃口を、マリィちゃんへと向けて……


「がぁぁっ!?」


「そりゃ悪手だろ」


 射線を外し、視界どころか意識からすら俺を消したら、攻撃しないわけが無い。連射は4発。命中も4発。2発ずつ当たった奴の右足と左腕は、これで使い物にならないだろう。


「おい、あー、ハゲマッチョ。これで終わりだ。投降しろ」


 油断無く銃口を向けたまま、俺はそう呼びかける。別に人道主義者だからとかじゃない。さっきの記録水晶(ログ)でも大丈夫だとは思うが、それでも「現段階では」こいつは一般人なので、殺すよりは生かしておいた方が、後々の処理が楽だからだ。


「うるせぇうるせぇ! 殺す! 殺す! コロスコロスゴロズゥゥゥゥゥゥ!」


「おいおい、こいつなんかヤバくね……?」


 さっきまでと違って、明らかに理性が飛んでる。目は血走り、口からは泡を吹いて……てか、うわっ!? 人間の首はそっちに曲がったら駄目じゃないか!?


「魔力が暴走してる……!?」


「え? 人間の魔力って暴走とかするの!? そんなの初耳なんだけど!?」


「私も初めて見たけど、視える(・・・)感じではそうとしか……」


 そんな話をしている間にも、ハゲマッチョの体が何か膨らんできている。うわ、これ絶対爆発する感じだ。


「これ、放っておいたら爆発するよね? もうこのまま逃げた方が良くない?」


「そうね。それじゃ……きゃっ!?」


 決して警戒を緩めたわけじゃないのに、マリィちゃんがギリギリ反応出来る程の速度で、ハゲマッチョが突っ込んでいく。爆裂恐斧を盾にはできても、マリィちゃんの腕力では、のしかかっているハゲマッチョをどかすことができない。


「チッ!」


 舌打ちとともに、弾倉に残った2発を、ハゲマッチョの脳天に撃ち込む。奴がよろけた隙をついて、何とか下からマリィちゃんが這い出してきたが、奴の目は死んでいない。というか、普通に唸り続けてるので、間違いなく生きている。


「ゴロスゴロスゴロスゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


「ふぅ。これじゃ逃げることもできないわね。こうなったら、私が爆裂恐斧を使って(・・・)……」


「いや、駄目だよマリィちゃん。あんな、見るからに爆発しそうな奴のとどめを、近接のマリィちゃんには任せられないでしょ」


 そう言って、俺は手にした相棒(リボルバー)の弾倉を振り出し、中に入っている使用済みの薬莢を排出すると、何も装填しないまま(・・・・・・・・・)元に戻す。


「1分頼むよ。俺が片をつける」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ