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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第九章 永劫へ至る道
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003

 ジェシカとミリィちゃんの誤解を解いた後、俺たちは教団の建物を後にした。勿論それぞれ銃は回収している。俺の腰に収まっているのは、銀色のリボルバー。大した時間手放していたわけではないのだが、その手触りは何とも懐かしく頼もしい。


 ちなみに、俺たちはともかくミリィちゃんは銃を持っていない。第3の蛇サード・ウロボロスは貸し与えられていただけだし、第6の仮面シクス・ペルソナも所有権はジェイにあるため、この場に呼び寄せることはできなかった。第6の仮面シクス・ペルソナが手に入れば大きな問題をひとつ片付けられたんだが、贅沢は言えない。孤華裂夜コノハナサクヤの方が消えていなかっただけでも僥倖だ。


 ということで、今はここでやるべき事はもう無い。教団の建物を出た俺たちは別行動となる。ジェシカは母親のいるダレルの家に、俺とミリィちゃんはタカシと連絡を付けるためにイアンの所に向かう。タカシにも俺たちが持っているのと同じ通信端末を渡してあるからだ。

 心情的には俺も真っ先にダレルとサンティに会いたかったが、時間はいつだって有限だ。明確な区切りが無いからこそのんびりすることなどできるはずもなく、ジェイに対する切り札の確保は最優先になる。ほんの少し糞親父の顔を見るのが遅れるくらいは我慢しなければならない。


 ちなみに、ジェシカの飛行船で全員揃って移動するというのは最初から案に無い。あれはあくまでも短距離を飛ばすためのものであって、長距離を連続飛行したりはできない。飛行船の性能ではなく、そんな長時間はドラゴンを誤魔化せないからだ。故に俺とミリィちゃんは徒歩と馬車を乗り継ぎ、前に教えて貰った「裏口」からイアンの待つ遺跡内部へと降りたわけだが……


「うわ、凄いことになってるな……」


 そこにいたのは、大量の子供。3桁はいそうな子供達が、地下なのに何故か緑溢れる光景の広がる空間で元気に走り回っていた。


「あ、ドネットじゃないか! 久しぶり……って程でもないけど、まあ久しぶり!」


「イアン。元気そうだな」


「勿論。まあこの体に病気の概念とか無いけどね」


 適当な軽口での挨拶を交わすと、俺はここに至る経緯を説明した。


「なるほど。外はそんな事になってるのか……技術(テクニカ)全盛の世界に戻ることそのものは何の問題も無いけど、魔力が無くなっちゃうのは困りものだね。うちにも獣人の子供とか結構いるし」


 そう言って視線を向けた先には、ふさふさの尻尾を生やしていたり、鱗で覆われた顔をしていたりする子供達がいる。ジェイの話を信じるなら、魔術マギが失われると生きられない子たちだ。


「今はまだ外に出せないから、この部屋にホログラムを投影して我慢して貰ってるんだけど、それでもみんな楽しそうだろ? 人間ばっかりのところにああいう子を混ぜるとトラブルが起こるけど、最初からみんな一緒にしちゃえばそれが普通になる。

 なのに、この世界から『違うモノ』を全部排除ってのは、反乱を起こしてる僕が言うのも何だけどちょっと乱暴すぎるよね。


 いいよ。協力する。何ならベヒモスとか貸そうか? 外からドラゴンスレイヤーをぶっ放せば、そのジェラルドとかいうのを消滅させられたりするんじゃない?」


「いや、駄目だから。それでも多分ジェイは死なないし、それやって万が一第6の仮面シクス・ペルソナが破損したりしたら、マリィちゃんが復活できなくなっちゃうし」


「そっかぁ。残念。一度くらいベヒモスを稼働させてみたかったなぁ……」


 否定する俺に露骨にイアンが残念がるが、いかに浪漫があったとしても、失敗前提どころか致命的な問題が生じる可能性のある作戦は流石に実行出来ない。


「ま、仕方ないか。じゃ、タカシには僕から連絡しておくよ。集合地点はダレルさんの家? でいいの?」


「ああ、頼む。俺たちもこれからすぐそっちに行くからさ」


「了解。じゃ、成功を祈ってるよ」


「ありがとう。おーい、ミリィちゃん! 行くよー?」


 イアンに礼を言って声をあげれば、子供達と遊んでいた……あるいは遊ばれていたミリィちゃんが小走りにこちらにやってくる。


「ふぅ。子供のパワーというのは凄いですね」


「でしょ? そういうのと触れ合うと、世界を守りたいなって気持ちがちょっとだけ強くなったりしない?」


「……まあ、無くも無いです」


「またまた照れちゃって。素直じゃないなぁミリィちゃんはゴフゥ!?」


 俺の無防備な腹に、ミリィちゃんの肘鉄が炸裂する。この強烈なツッコミに、マリィちゃんとの繋がりを体感せざるを得ない。


「さ、行きますよドネット。これで失礼します、イアン」


「あ、ああ。うん。気をつけてね」


 若干引き気味のイアンにエロくない意味で前屈みになったまま別れを告げ、そのままの足でダレルのところまで真っ直ぐ移動。見慣れた道を歩いて進めば、目の前には太陽の様な笑顔を浮かべた素敵なレディが見える。


「あーっ!? ドネットとマリィさん! 久しぶりー!」


 こっちに駆け寄ってきたのは、正真正銘久しぶりなサンティだ。飛び付いてきた小さな体を受け止め、その場でグルグル振り回す。


「変わらず元気そうだな。ダレルも元気か?」


「うん! お父さんもすっっっっごく元気だよ!」


 その溜め具合だけで、ダレルがどれだけ元気なのかが解る。むしろ元気すぎて面倒くさそうだと思ったのは、ここだけの秘密だ。


「マリィさんも……あれ? マリィさん?」


 と、ここでサンティがミリィちゃんのことに気づいたらしい。ただの一言すら喋っていないのに気づかれたことに、むしろミリィちゃんの方が戸惑っている様に見える。


「初めましてサンテナ。私はミリィ・マクミラン。マリィの妹です」


「え? 嘘!? マリィさんに妹なんていたんだ……うわ、凄いそっくり。ひょっとして双子とかですか?」


「え、ええ。そうですね。まあそんな感じですが……良く私がお姉様でないと気づきましたね?」


「んー? そりゃそうだよ。確かに見た目はそっくりだけど、雰囲気が違うっていうか、ミリィさんの方がおとなしい感じがするかな? あ、あと服も全然違うし」


「ああ、それはまあ、そうですね」


 確かにマリィちゃんの旅装と違って、ミリィちゃんは結局最初に会った時のヒラヒラドレスを着続けている。明らかに旅には向かない服装だから一式新調しようかと提案もしたんだけど、それはミリィちゃん自身に断られた。それがファッションへのこだわり程度ならともかく、彼女のアイデンティティに関わるような問題の可能性もあったので容認したんだが……それにしたって、普通は「見知った人が違う服を着ている」と思うはずだ。それを一目で別人だと見抜けるのは、サンティの観察眼の賜物なんだろう。


「あれ? じゃあマリィさんはどうしたの?」


「ん? ああ。マリィちゃんはちょっと別行動中なんだよ。でも大丈夫。例え姿が見えなくても、俺たちはいつも一緒さ。何せ相棒(パートナー)だからね」


「そっか! へへ、いいなぁそういうの」


 両手を水平に広げ、クルクルと回るサンティと共に家の方へと歩いて行く。


「おう、来たかクソ餓鬼」


「来たぜ、クソ親父」


 家の前にて変わらぬ姿で俺を出迎えるダレルに、俺はたっぷりの愛情を乗せた拳をお見舞いしてやった。

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