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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第八章 青い人
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011

魔術(マギ)を……駆逐?」


 その言葉に、俺は思わず頭を捻る。すぐにはイメージが湧かない。そりゃそうだ。生まれる前からあったものを駆逐すると言われてもピンと来ないし、そもそも魔術(マギ)は「概念」だ。明日から物が下に落ちない世界を作る、と言われても漠然とした想像しか浮かばないのと同じだろう。


「そうです。そもそも『大変遷』などというものが起こるまで、この世界に魔術(マギ)などというものはありませんでした。魔術(マギ)などというものがあるからあらゆる異常が起こり、この世界は変わり果ててしまった。


 故に私はこの世界を元に戻します。魔術(マギ)を……魔力を無くし、この世界を真の『人間』の手に取り戻す。そうすることで私もまた人としての死を得られるようになる……どうです、実に素晴らしい計画でしょう?」


「ジェイ……?」


 ジェイの目の色が、さっきまでと明らかに違う。さっきまで憎らしいほどに冷静で理性的だったはずのそれが、今は狂気の炎を宿している。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 今の世界で魔術(マギ)が無くなったりしたら、それこそ文明が崩壊するわよ!?」


「それがどうしたというのです? 確かに魔力が無くなれば、今現在魔術(マギ)によって支えられている文明は崩壊するでしょうが、代わりに魔力が無ければ生きられない魔物は全滅します。亜人や獣人などのヒトモドキは……どうでしょう? 微妙なところですが、おそらく死ぬでしょう。ですが安心なさい。『人間モドキ』は多少身体能力が落ちる程度で生き残りますし、我々『人間』にはナノマシンから受けていたプラスの効果が無くなるだけで、実質影響はありませんから」


「おいおいおい、それは流石に話がでかすぎるだろ。それじゃまるで――」


「そうですね。『大変遷』によって間違った方向に進んでしまった世界をリセットしてやり直す。いわば『大変遷』のやり直しですよ」


「な……ん、だ、そりゃ……? そんな事人間に……」


「できるんだよドネット。そのための1000年。そのための銃だ」


 気まぐれな神の所行であり、大規模な自然災害であったはずの『大変遷』を人為的にやり直す。狂人の戯れ言でしかないそれを、目の前の男は自信満々に語る。


「そもそもおかしいと思わなかったかい? 6丁の銃その全ての効果が、純技術(テクニカ)製だというのにやたらと魔術(マギ)に近いことに。だが、それは当然だ。魔術(マギ)に慣れきった人類が魔術(マギ)を無くしても生活できるように、魔術(マギ)を解析して作り上げた魔術(マギ)に頼らない技術(テクニカ)。それこそがこの6丁なのだよ。


 1番目は、攻撃力。世界から魔力を駆逐しても、ドラゴンだけは残る。奴らは魔力と一緒にこちらに流れ込んできた上位世界の住人だからね。それに対抗するための力として存在するのが第1の巨人ファースト・タイタン。人が竜に勝つための巨人の拳だ。


 2番目は、生産力。今は君の血……即ち君の体内のナノマシンを用いて弾丸を精製しているが、これの規模を大きくすればあらゆる物質を精製できるようになる。要は魔力を使わない物質複製機(デュプリケーター)だよ。魔術(マギ)の解析なくしては作れなかった技術(テクニカ)だが、君のおかげで実働データは揃った。第2の銀セカンド・シルバー。飢えることが無いようにと親から送られる、尽きることの無い銀の匙だ。


 3番目は、活動力。あらゆる物質からエネルギーを抽出できるという特製は実に有用だ。使いすぎれば世界を崩壊させてしまうが、魔術(マギ)文明崩壊直後から想定されるエネルギー不足を一時的に補うためには必要不可欠な存在、それが第3の蛇サード・ウロボロス。未来の自分たちから力を前借りする、自らの尾を食う無限の蛇だ。


 4番目は、再生力。機械化義肢などの技術(テクニカ)を喪失している現在に置いて、回復魔法を失えば人はかつて無いほど死に近い存在になる。だがそれを回避し、肉体を再生する能力を有しているのが、私の所持している第4の不死鳥フォルス・フェニキス。この身の不死性を利用して研究を重ねた、人を死から遠ざける文字通り不死鳥の羽だ。


 5番目は、身体能力。魔術(マギ)の力を失い脆弱な肉体しか持たない人間が、この世界でより効率的に活動するために技術(テクニカ)による能力強化を行う必要がある。生体電流を活性化させることで全体的な能力と思考速度を加速するきっかけとなるのが第5の先導者フィフス・ヴァンガード。広大な大地を生身で駆け抜け敵を狩る、まさにユピテルの稲妻だ。


 6番目は、労働力。著しく減った人手を補うためには、普通に人口の増加を待つのではとても間に合わない。それを一気に解決するためにこそ存在するのが第6の仮面シクス・ペルソナ。前借りしたエネルギーで人に忠実な人形を生み出し文明復興の底を支える力とする労働者を生み出すのだ。自分の知識と経験という仮面をかぶせてね。


 わかるかい? 全ての銃が、魔術(マギ)喪失後の文明復興のために作られているんだ。そういう風に作ったんだ。全てはこの時のために。志を同じくする同士たちと協力し、失意を胸に死に行く同士を横目で見ながら、ただ一人死なぬこの身をもって。


 わかるかい? 人の世を取り戻すことを夢見た幾千もの協力者達と、幾万もの失敗と挫折を繰り返し、幾十万もの昼と夜を越え、幾百万もの資材と金を投入し、幾千万もの今を生きる命を犠牲にすることすらいとわず、私はやっとここに辿り着いたのだ! 全ては今、この時のために!」


 最初は淡々と、だが最後は叫ぶようにジェイが言う。それは狂っているとしか思えない姿。だが俺は、それを狂っていると断じることはできない。それほどの長い時を、それほどの人々と歩み、それでも変わらぬ思いを貫こうとするならば、その結論こそが正しいと辿り着くのかも知れないから。たかだか25年しか生きていない自分が、その心理を己の物差しで測るなんて、あまりにもおこがましい。


「ジェイ……本当にそれを実行するつもりなのか?」


 故に、俺はそんなことを言わない。ジェイが間違っているとか、そんな風には思わない。ただ俺が、俺に取ってそれが都合がいいか悪いか、その程度の基準でしか判断しない。世界でもなく、人類でもなく、これはただ俺の都合。俺の価値観。


「するとも。だがその表情……やはり君は同意してはくれないんだね」


「そうだな。俺がアンタみたいになって、自分だけ死ねずに1000年生きたら、その結論に辿り着くのかも知れないが……今の俺には、アンタを認められない……いや、違うな。アンタの願いは俺にとって都合が悪い。だから阻む。ただそれだけだ」


 俺は静かにジェイを見つめる。この手に相棒セカンド・シルバーは無く、俺の隣に相棒(パートナー)はいない。だがそれでも、ここで立ち向かわない訳にはいかない。


「アタシもよ。正直話が大きすぎてついていけないんだけど、アンタを見逃したら後で後悔しそうだから、とりあえず止めることにするわ。それでいいんでしょ?」


 そう言って、ジェシカが俺にパチリとウインク。その様子に俺は思わず笑みをこぼす。


「ああ、こんな馬鹿を止めるには、それで十分だ」


「なるほど。その結果として私を殺してくれるなら、止めて貰うというのもやぶさかでは無いのですが……それは流石に望み薄でしょう。であれば、邪魔されるのも面倒です。私も切り札を1つ切らせて貰うとしましょう」


 パチリとジェイが指を鳴らす。それだけ。ただそれだけだが――


「へぁ……?」


「あぅ……」


 たったそれだけのことで、俺の意識は一瞬にして暗闇に落ちていった。

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