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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第八章 青い人
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「へぇ……アタシと戦った時からあんな短時間での再開で完全回復してたから、どんな凄腕の回復魔法の使い手とコネがあるのかと思ってたけど、そう言うことだったのね」


「まあ、そんなところさ。甚だ不本意ではあるけどね」


 ジェイに馬乗りになったままのジェシカがしたり顔で頷き、肩をすくめて俺は答える。


「おや、嬉しくないのかい? 不老不死と言えば、世の権力者がこぞって求めるものだぞ?」


「馬鹿言え。アンタがそれを捨てるためにこれだけの苦労をしてるのを目の当たりにして、それでも喜べるほど俺はお気楽な男じゃない。いい男は散り際だって鮮やかなものさ。だらだらと生かされるより、俺は人として死にたい」


「はは。やはり気が合うなドネット。不老不死を捨てたいと言って共感を示すのは、君くらいのものだ。ならば私も、君の血が青くならないように祈っておこう」


 ジェシカをそっと押しのけ、ジェイが立ち上がる。冷静になったジェシカもまたそれを邪魔せず見守り、みんな揃ってソファへと座り直す。何とも間抜けな仕切り直しではあるが、少女に馬乗りになられたままの男と話すような愉快な会話ではないから、まあ丁度いいきっかけだろう。


「アンタ、そう言えば血が青いわよね。それが不老不死の証なの?」


「ええ、そうですよ。ナノマシンの同調率と体内における含有量は密接に関係しており、同調率が高いほど体内で活動出来るナノマシンの量が増え、肉体の再生速度が早くなります。そしてそれが一定を……要は不老不死と言えるレベルを超えた辺りで、血液の色が赤から青に変わるんです。これは血中を流れるヘモグロビンの量をナノマシンが凌駕するからであり……」


「あー、そういう専門的な蘊蓄はもういいわ。聞いてもわからないもの」


「そうですか……」


 聞いておいて切り捨てる鮮やかなジェシカの手並みに、流石のジェイもちょっとだけ残念そうな顔をする。どうやらジェシカも完全に冷静に戻ったようだ。ジェイの扱いは随分と変わったようだが。


「はぁ。何だか色々ありすぎて疲れちゃったわ。アンタの言う通り確かにお母様は遅かれ早かれ復活できたんでしょうし、マリィも元に戻るんでしょ? ならもう、細かいことはどうでもいいからさっさと銃を返して貰って休みたいわ」


「そ、そうだ! 元に戻せるって聞いて安心してたけど、結局マリィちゃんはどうやったら戻せるんだ?」


「ああ、その話かね。簡単だよ。6番目に君が大事そうにしまい込んだ銃弾を込めて撃ち出せばいい。実際には細かい手順があるが、それは銃を手にすれば自ずと解るだろう」


「そ、そうか。それなら今すぐ……」


「ドネット……今銃のデータを取っているのだから、もう少しくらいは待ちたまえ。君とて何度もコレが人の姿を失うのを見たいわけではないのだろう?」


「お、おう。そうだな……」


 マリィちゃんを物扱いするのが相変わらず気に入らないが、ここでそれを表に出してジェイの機嫌を損ねない程度には俺の理性も戻っている。


「ねえ、でもさっきの話だと、マリィを元に戻すのって凄いエネルギーがいるんじゃないの? それは?」


「うむ? そうですね。これらの銃は全て純技術(テクニカ)製ですから、エネルギーも当然そっちでなければなりません。魔石を変換器コンバーターにかけて使用するなら、ドラゴン級のものを10個くらいでしょうか? それならマキーニ氏のところにある太陽光発電機ソーラーパネル物質複製機(デュプリケーター)で増やした方が変換のロスが無い分効率が良いでしょうが」


「なっ!? そんなに!?」


 ジェイが平然と口にしたそのエネルギー量は、まともな手段で賄えるような量じゃない。少なくとも俺が掃除人として普通に活動するなら、一生かけてもそこまで稼ぐことはできないだろう。


「これでも再起動だから必要量はだいぶ減っているんだがね。何なら3番目を使うかい? それなら一瞬でコレを人に戻せるだろうが」


「それは…………」


 第3の蛇サード・ウロボロスを使うということは、再び「砂の町」を作り出すということだ。マリィちゃんを蘇らせるためなら大抵のことをする覚悟はあるが、流石に無関係の数千人を犠牲にしようとは思えない。他にいかなる手段も無いというならあるいは最後の最後でそういう決断をしないとは断言できないが、金か時間で解決できる問題を大量虐殺で解決するのは寝覚めが悪いなんてもんじゃない。


「まあ、その辺はゆっくり考えたまえ。休止状態にタイムリミットがあるわけじゃない」


「そう、か……わかった……」


 これは本格的に金策なり遺跡探索なりを考えなければならないだろう。あるいは手っ取り早くギャンブルか……いや、それは確実に破滅の呼び声だ。マリィちゃんというストッパーがいない今、底の見えないリスクを冒すような行為は控えるべきだろう。いい男は自重を知っているものだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。アタシも協力するから」


「ジェシカ……いいのか?」


「いいのよ。アタシだって喧嘩する相手がいないのはつまらないしね。それに、マリィがいないのにドネットを奪っても……」


「ジェシカ?」


「な、何でも無いわ! いいからアタシに任せなさい! ドネットがお母様を復活させてくれるなら、アタシがマリィを復活させてあげる。感謝しなさいよ?」


「ああ、心から感謝するとも。ありがとうジェシカ」


 そっとジェシカの手を取り礼を言う俺に、ジェシカは真っ赤にした顔を背ける。実に初心で可愛らしい反応だが、こう言うときは気づかないふりをするのがいい男ってものだ。


「ふぅ……あ、そういえば。なあジェイ。アンタ結局どうやって死ぬことにしたんだ?」


 こんな所に呼び出された理由もわかり、マリィちゃんに関する謎も判明し、その復活方法にも目処が付いた。ならばするべき話はこれで終わりでも良かったが、俺はふとそれが気になって聞いてみた。このまま戦い続けるならばいつか俺の血が青くなる日も来るかも知れない。その先に待つ未来を時の牢獄に変えないためにも、その情報は知っておいた方が有益だ。


「言葉にすると酷いわね……でも、アタシも興味あるわ。不老不死がどうやって死ぬのかしら?」


「おやおや、二人とも興味津々だね。スカッドレイ嬢は純粋な好奇心、ドネットはいずれ我が身に降りかかる災厄を回避するためと言ったところか。教えるのは構わないが、意味は無いと思うぞ?」


「ん? 意味が無いってことは、アンタ個人じゃなくもっと大規模な影響の出ることをするってことか?」


 その言葉に真っ先に思いつくのは、ナントカの停止だ。それが動いているから死ねないっていうなら、その機能を止めてしまえばいい。


「ひょっとして、世界中のナノマシンの活動を停止でもするの? そんなことしたらアタシ達の銃が使えなくなるんじゃない?」


 俺と同じ懸念にジェシカも辿り着いたらしい。それは出来れば避けて欲しい未来ではあるが、だがジェイの念願を考えれば……


「って、ちょっと待て。そんなことされたらマリィちゃんが復活させられなくなっちゃうだろ! 考え直せ……とは言えないが、せめてマリィちゃんが復活するまでは待ってくれないか?」


「はっはっは。大丈夫だよドネット。確かにナノマシンは停止させるつもりだが、それはあくまで『魔力の影響を受けたナノマシン』だけだ。あれらの銃は純粋な技術(テクニカ)の産物だから、その機能が失われることはない」


 その言葉に、俺はホッと胸を撫で下ろす。だが、それならば確かに問題はない。いや、俺の体の再生能力もがくっと下がるだろうから問題が無いわけではないが、人で在りたいと思い続けていた俺が完全に人になるのだから、それは喜んで受け入れるべき当たり前のリスクだ。


「なら、どうするんだ?」


 故に、俺の口から出たのはそんな都合の良い奇跡を起こす方法に対する興味の言葉だ。それに対して、ジェイは今までで一番いい笑顔を見せて答えた。


「簡単ですよ。この世界から魔力を……魔術(マギ)を駆逐します」

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