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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第八章 青い人
108/138

008

今回から通常視点に戻ります。

 目の前で起きたことに、意識が追いつかない。ジェイが一言呟いた瞬間にマリィちゃんが光に包まれ消えたかと思えば、そこには一発の弾丸が残されている。


「…………マリィちゃん?」


 呼びかけたところで、返事などあるわけがない。何度目をしばたかせようと、目の前の光景に変化があるわけじゃない。


「全く余計な手間を取らせてくれたものだ。だが漸くにして……」


 ジェイの言葉は続かない。俺の撃った銃弾が奴の脳天を、眼球を、鼻を、口を貫き、その体からカクリと力が抜ける。それでもまだ足りないと壊れた機械のように人差し指を繰り返し曲げても、それ以上弾が出ることは無い。故にジェイはすぐに復活して、何の痛痒も感じていない顔で俺を見つめ……俺は飛び付くようにして、奴の胸ぐらを思い切り掴む。


「マリィちゃんに何をした?」


「落ち着きたまえドネット。いや、それとも慌てたフリ・・でもしているのかね? この程度は想定の範囲内だろう?」


「…………っ」


 余裕タップリ……と言うよりは、全く慌てることのない平常なままのジェイの物言いに、俺は一瞬言葉に詰まる。


 確かに、ミリィちゃんと戦った時からある程度の覚悟はしていた。突然消えていなくなるなんて事態も、全く考えなかったとは言わない。が、いくら何でも突然すぎる。そして何より、突然だろうが事前告知があろうが、そんなものを受け入れるつもりなど毛頭無い。


「ふぅ。まあいいさ。約束だから説明しよう。掛け直したまえ」


「……わかった」


 手を離し、ソファに腰を落とす。だが視線は一瞬たりともジェイを捕らえて放さない。


「と言っても、説明するべき事など大してないのだがね。この銃は第6の仮面シクス・ペルソナ。名前の通り君たちの持つ銃の6番目であり、その機能は所持者、もしくはターゲットの人格データを模倣した疑似人格コアを生成し、それを元に人形を生み出すことだ。これにより教育課程を経ること無く知識や技術を実体験として身につけた労働力を無限に……まあエネルギーがあればだが……生み出すことができるという、極めて画期的な銃だよ。


 ああ、それと本来の機能が戦闘向きじゃないので、それを補うために『模倣』の拡張機能にて銃本体を別の何かに可能な範囲で変化させる能力もあるね。先ほど聞かれたスカッドレイ嬢の攻撃を防げた理由は、受けた本体が兄弟銃、しかも後継機だったからということになる」


「人形……最初に会った時のミリィちゃんみたいなものか?」


「ふむ? 最初に会ったというのが、データの更新を失敗する前のアレの状態だったとするなら、そうだな。人の臨機応変さを持ちつつも、人の命令を忠実に実行する人形。兵器としても労働力としても、実に理想的だと思わないかね?」


「反吐が出るな。人の意識を、心を持った存在を隷属させて自由に使うなんて、糞くらえだ」


 使い切った弾丸をリロードしながら言い捨てる俺に、意外にもジェイは同意を示すように頷き答える。


「そうだな。私も奴隷制度などには反対だし、そもそも自我なんてものを与えたら反乱を起こされるのが明白だ。故に今回のアレやコレ……マリィとミリィか? この2体は極めて例外的に発生したものだ。ならばこそアレの運用には自我にプロテクトをかけるなんて面倒な処理をしていたんだが、どうも不完全だったようだしな」


「例外? どういうことだ?」


「簡単さ。3番目を使った時、本来は回収するべきエネルギーがたまたま近くにあった6番目に全て吸収されてしまったんだよ。そのせいで6番目の機能が暴走してしまい、本来は不必要な人格データまで模倣してしまってもまだ消費仕切れず、人形を2体同時に生成してしまった。

 それに消費されてしまったせいで本来の目的であったエネルギーの回収もできず、とんだ二度手間だったよ」


 そういって肩をすくめてみせるジェイに、俺は言葉も出ない。入ってきた情報があまりに多すぎて、頭がパンクしそうだ。


「ね、ねえドネット? アタシ全然話についていけないんだけど……結局マリィはどうしたの?」


「そ、そうだよ! マリィちゃんはどうしたんだ!?」


「どうと言われても……そこにあるだろう?」


 そう言ってジェイが指し示すのは、ソファの上に転がったままの弾丸。


「それが君たちがマリィと呼ぶ存在の全データが詰まったペルソナ・コアだ。今は銃からの『命令オーダー』で休止状態にしてあるが、必要なエネルギーを調達したうえで再起動してやれば普通に元に戻る」


「も、戻るのか!?」


 思わず勢い込んだ俺を手で制し、ジェイが少しだけ嘲るような目をして答える。


「当然だとも。君はどうやらコレにご執心のようだったからね。銃のデータが必要だったからこういう処置になったが、ペルソナ・コアの方は私にはどうでもいいものだ。ならばあえて敵対する必要などないからね」


「そう、か……」


 マリィちゃんが元に戻る。ただそれだけで俺の中に言葉に出来ない安堵感が広がった。ソファに落ちていた銃弾を宝物のようにそっと手で掴み、鞄の一番奥深くにしまい込む。万が一にも無くしたり破損したりしたら、きっと死んでも後悔し続けるだろう。


「さて、それじゃそろそろ君たちの銃のデータも回収させてもらっていいかね? それが済めばいつもの報酬も渡すから、後は好きにすればいい」


「……ああ、わかった」


「……何だか良くわからない事になってるんだけど、ドネットがそうするなら、アタシもいいわ」


 ジェイに促されて、俺とジェシカはそれぞれの相棒をジェイに差し出す。それはジェイに会う時には、いつもやっていることだ。この銃の使用データの回収と解析こそがジェイの目的であり、ただそれだけが俺とジェイを繋ぐ契約だ。感情にまかせて突っぱねることはできるが、それをしても事態は悪くなるだけ。ならば内心はどうあれ、おとなしく従っておいた方がお互いに取って良い結果に繋がるはずだ。


「ふふ。懐かしいね。その警戒の視線は、初めて会った時のことを思い出す」


 てきぱきと謎の技術(テクニカ)に俺たちの銃をセットしながら、不意にジェイがそんな事を言い出した。仕事に関係無い世間話、それも昔のことを話すなんて、あまりジェイらしくない行動だ。


「不思議かね? 私だって機嫌が良ければ昔語りくらいするさ。出会った時のドネットの顔は、そりゃあ不信感に満ちていたものさ」


「当たり前だろ? いきなり目の前に現れたと思ったら、銃の秘密を知っていて、しかもそいつを調べさせてくれときた。これで警戒しないなら、とっくにくたばってるさ」


 自嘲気味の俺の台詞に、ジェイも軽く苦笑いを浮かべる。ジェイに出会ったのは、ダレルの所を出てから暫くしてからだ。単独行動でそこまで腕に自信があるわけでもないのに、見知らぬ相手に唯一の武器を預けろと要請されて警戒しないわけが無い。もっとも、結局報酬に負けて引き受けて……それによって命を繋ぐ結果になったのだから、文句を言うようなことではないのだが。


「そう言えば、ジェシカは? 何でジェイと知り合いに?」


「アタシ? アタシの方もお声掛かりはジェラルドさんからね。永劫教団は表も裏も手広いから、銃のデータだけで協力が得られるならむしろ願ったりだったもの」


 確かに、俺を見つけ出すくらいだから教団の情報網は大したものなんだろう。捜し物をしていたジェシカにとっては……ん?


「なあジェイ。アンタさっき俺が『魂魄再誕機ソウルリバーサーを使った』って言ったよな? でも、俺はそんな事話してない。それ自体はダレルを知っていたんだから不思議じゃないが……なら何でその情報をジェシカに流さなかったんだ?」


 魂魄再誕機ソウルリバーサーの情報は、ジェシカが探し求めていた答えそのものだ。彼女と取引をしておいて、それを教えないのはあり得ない。隣のジェシカも「あっ!?」と驚いた声をあげている。そしてジェイは――


「……やれやれ。沈黙は金、雄弁は銀というが、まさかこんなところでとはね」


 初めてすまし顔を崩し、まるで悪魔のように口を三日月型に歪めた。

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