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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第七章 砂の町
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012

「で、ドネット。この銃のことはアレ……ミリィとか読んでるのか? アレに聞いたのかね?」


「ああ、大まかにはな。周囲のエネルギーを吸収して、絶大な破壊力を持つ攻撃として撃ち出す銃……というのは建前で、実際はエネルギーの運搬装置・・・・。範囲内の全ての存在からエネルギーを強制搾取することで、得られる力はドラゴンの魔石数百個分……まともな人間なら2つの意味で使えないだろうな」


 そんな大量の犠牲を払うことに、普通の人間なら耐えられない。

 そんな莫大な力の使い道なんて、普通の人間には存在しない。

 その2つの問題をクリアしているからこそ「砂の町」の事件は発生し、それを引き起こしてなお飄々としている目の前の男が、普通の人間などであるはずがない。


「本当に、ここまでのことができるんだな……」


 それもまた2つの意味。これだけのことを引き起こせる力と、これだけのことを実行出来る精神性。その2つを目の前の人物が持ち合わせていることに、俺は畏怖や軽蔑ではなく、悲哀を感じた。これだけのことを成せるほど、こいつは頑張らざるを得なかったのだと。これだけのことを成さなければ、こいつの願いは叶わないのだと。


「そんな目をされるとはな。てっきり『この大量殺戮者が!』などと罵られると思っていたよ」


「人殺しなんて珍しくないだろ? 利益のために殺す。信念のために殺す。守るために、奪うために、人はいつだって殺し続けてる。それを責めるのはアンタの仕事だろ?」


 宗教という価値観を与え、正義と言う名で天秤を傾ける。この世で最も人を殺すのは、いつの時代も宗教家だ。


「もっとも、それに俺の身内を巻き込んだのは駄目だったがな。マリィちゃんをどうするつもりだ?」


「開放するとも。ドネットと繋がりがあるとわかれば、拘束しておく必要も無い。後ほど二人揃って招待させて頂くことにしよう」


 射殺すような視線で睨んでも、ジェイの態度は変わらない。故に俺は力を抜く。コイツは殺さなければ止められず、俺にコイツは殺せない・・・・。それが事実であり全てだと理解しているからだ。


「さて、それじゃ話はこのくらいかな?」


「あ、いや待て。ミリィちゃんはちゃんと回収したのか?」


 席を立とうとするジェイに、俺は最後にそれだけ確認した。流石にあのまま放置は自分がやったこととはいえ可哀相すぎる。


「ああ、勿論回収したとも。アレはまだ使い道があるからね。それでは、次は教団で会うことにしよう」


 それだけ言うと、ジェイはテーブルの上の箱を操作し、光の膜を消してから懐に回収。何食わぬ顔で部屋の外へと出て行った。


 「次」ねぇ……嫌だって言っても、無理なんだろうなぁ……


 再びやってきた兵士に、今までと同じ質問をただ永遠と繰り返されながら、俺はジェイとの再会を思い描いて口の中で苦虫を噛みつぶし続けた。





「おい、もういいぞ」


「はいはい……って、お? いいの?」


「ああ、上からのお達しだ。これ以上『容疑者』程度で拘束することは出来ないから、開放するとのことだ。チッ、運が良かったな」


 露骨に舌打ちされつつ、俺が詰め所から介抱されたのがジェイと別れてから3時間ほどたってから。正直数日から1週間程度は拘束されると読んでいたから、この早さは逆に意外だ。しかも、俺から遅れること数分程度で見覚えのある顔まで出てくる。


「マリィちゃん!? 開放されたの?」


「あら、DD。ええ、結局彼らが何を聞きたかったのかはわからなかったけど、一応開放されたみたいね」


 そう答えるマリィちゃんに聞いてみれば、された質問は俺と大差が無かったらしい。唯一最初に「銃を持っているか」を調べられたみたいだけど、当然マリィちゃんが持っているわけがないのでどれだけ調べようと出てくるはずがない。その後の質問にしても俺と同じ事を聞かれれば俺と同じように答えるしかないわけで、やっぱり何かを知りたかったというよりは、単に時間を稼ぎたかっただけに思える。


「うーん。となると、訳のわからない嫌疑で長期拘束されて、ウンザリさせたところで身元引き受けを名乗り出るってのがシナリオだったのかな?」


「ねえ、何の話?」


「ああ、ちょっと詰め所で知り合いに会ってね。ここじゃ何だし、詳しいことは宿で部屋を取ってから話すよ」


「わかったわ」


 流石にジェイとの会話の内容を道すがら話すわけにはいかない。俺たちは防音のしっかりした、いつもよりちょっと高級な宿を取ると、早速連れ立って部屋へと入る。安宿なら受付の親父に卑下た笑みを向けられるところだが、流石にお高いだけあってそういうこともない。勘違いした馬鹿に盗み聞きされたりしないという点でも、金を出す価値がある。


「さて、それじゃ早速だけど、詰め所で会った知り合い……ジェイの話をしよう」


 俺は部屋に据え付けられた椅子に腰を下ろし、さっきまでのことを話し始める。いつもならベッドの上に腰掛けるしかないマリィちゃんも、今日はお高い宿なためにもう1脚椅子があるため、テーブル向かいのそれに腰掛け静かに話に耳を傾ける。


「なるほど。つまりそのジェイって人が全ての元凶なのね」


「ま、そういうことらしいね。俺も聞いてびっくりしちゃったよ」


 あえて気楽そうな声を出してみるが、マリィちゃんの表情が和らぐことは無い。


「いやぁ、あの時銃を回収しなくて良かったよね。もし持ってたら、たぶんジェイの手を取るまでずーっと拘束されてただろうし」


「あら、私はともかくDDの方はすぐに開放されたんじゃない?」


「いーや、駄目でしょ。昔の俺ならともかく、今の俺はジェシカと知り合いだからね。彼女に借りを作って手を貸して貰えば、マリィちゃんを出すこともできると思う。だからこそ俺の方にも露骨に時間稼ぎがあったんだろうし」


「そう……そう言われればそうかもね」


 言葉を切ったタイミングで、二人揃ってテーブルに置かれたカップからお茶を一口。冷めた紅茶の味は渋みばかりが強く、俺の顔は必然苦い物になる。


「ねえ、DD? その男に会えば、今よりもっと色々わかるのかしら?」


「だろうね。奴も『本人のいる前で話した方が』とか言ってたから、マリィちゃんと会えば色々話してくれると思うよ。アイツは隠し事しないし」


「あら、そうなの?」


「ああ。もっとも『嘘は言わないが、真実全ても語らない』ってスタンスだけどね。答えたく無いことは普通に言わないよ。法衣は来てるけど、中身は聖職者とかほど遠い奴だから」


「……そんな生き方で、良く組織のトップなんてやれるわね?」


「うん、まあ、アイツは特別・・だから」


 ジェイは特別な存在だ。誰もアイツの代わりになんてなれないし、誰もアイツを排除することはできない。特別……特殊にして、別の存在。


「まあ、その辺も会って話せばわかるよ。正直会いたくはないけど、会わないって選択肢も取れなそうだしね」


 肩をすくめてそう言う俺に、マリィちゃんは疑問を丸出しで首を傾げていたけど……俺の言葉が現実であることは、俺たちが本拠地(ホームタウン)に帰ったところで証明されることとなった。


「やぁ、ただいまリューちゃん」


「ドネットさん! マリィさん!」


 久しぶりに帰ってきた協会で挨拶をした俺に、リューちゃんが大きな声を出す。彼女にしては珍しい、焦りを含んだ声だ。


「どうしたのリュー? そんな声を出して」


「どうしたもこうしたも無いですよマリィさん! というか、お二人こそ何をしたんですか?」


「何って……あ、ひょっとして例の写真がこっちにも回ってるとか? それは――」


 途中いくつかの町でもやむを得ずしてきた説明をまたするのかと軽くウンザリした俺の言葉を、リューちゃんが真剣な表情で遮る。その様子に尋常ならざる物を感じた俺とマリィちゃんは、静かにリューちゃんの次の言葉を待って……


「永劫教団からの指名依頼が来ています」


 周囲にざわめきが広がる。それは指名依頼とは名ばかりの出頭命令。俺は早速やってきたジェイからの招待状に、しばし頭を抱えることになった。

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